久美子(中央右)「さっき、どうしてノンコ叔母さんは怒鳴り込んできたの?全体会で恥をかかされたって言ってたけど、どういうこと?」
あすか(右)「あー、それね……」
あすか(右)「……家庭科部の後輩の、高橋響ちゃんのママが全体会でクレームをね。響ちゃん、今、学校お休みしてるの。響ちゃんって明るくて楽しい子なんだけど、ちょっとマイペースで協調性がなくてさ。要するにポジハラっていうの?他人に対してポジティブすぎて空気読めないの」
ツヨシ「ぼくのクラスだよ、高橋さん。笑顔が可愛いいい子なんだけど、そういえば最近姿を見かけなかったな」
あすか「うん。私、扱いに困って、口を利かなくなっちゃったんだよ。そしたら家庭科部の他の子たちも彼女と喋らなくなっちゃって」
久美子「なにアンタそれ、彼女を無視したってこと?」
あすか「意識してそうしたわけじゃないけど、結果としてそうなっちゃった」
あすか「そしたら響ちゃん、学校に来なくなっちゃってさ。みんなで心配してて。私、響ちゃんちに様子を見に行ったんだけど……謝っても会わせてもらえなくてね」
久美子「あんたひどいわよ。高橋さんに何かされたわけじゃないんでしょ」
あすか「うん。響ちゃん、ご飯食べられなくなってて、ストレスで髪が抜け落ちちゃって外に出られないって、ママさんが怒ってて、追い返されちゃった」
あすか「それで響ちゃんのママが全体会でお母さんのところに来て、そのことを言ったわけ。まあ、私が始めたんだから、私が悪いよね。響ちゃんそんなに傷つくなんて思ってなかったから。私も響ちゃんに疲れてたけど、やっていいことじゃないよね」
ツヨシ「あすかっち、わーるいな、わーるいな、あはは。だけど、高橋さんは根が明るいから、大丈夫だよ。髪が伸びてきたらまた学校に来ると思うよ」
久美子「笑い事じゃないし、顔色一つ変えずに言うことじゃないわ。アンタだけはそういうことしない子だと思ってたわよ。これいじめだわ」
あすか「うん。全く自覚なかったから、人から聞かれたときは何のことか分からなくて違うって言っちゃったけど、向こうが傷ついていたらいじめにあたるんだね。自分でも驚いてるけどね」
了くん「正直に話したんだから、もういんじゃね?」
久美子「そういう風には考えられないわよ」
久美子「とにかく、アンタ高橋さんに許してもらうまで絶交だから!」
あすか「……ごめんね、久美子ちゃん。私、責任取って今日、家庭科部辞めてきた」
久美子「だから何よ。相手が学校に来られなくなったんじゃ、責任取れないじゃない」
あすか「みんな、ご飯食べてて。私、やることがあるから」
全員「……」
久美子「アンタ何してんの?」
あすか「縫い物。響ちゃんに帽子作ってる」
久美子「縫い目粗いわね。もうちょっと丁寧にしなさいよ。貸して」
あすか「久美子ちゃんうまいんだよね」
久美子「舞台で小物を手作りすることはよくあるからね」
久美子「この刺繍、うさぎさん?」
あすか「うん」
久美子「サテンステッチは中心から刺したほうがいいわ」
あすか「絶交じゃなかったの」
久美子「今だけ特別よ」
久美子「きっと許してくれるわよ」
久美子(右)「アタシ、今までいじめの加害者って全く何も責任感じないものだと思ってたわ」
了くん(左)「人によるだろ。面白がってた奴はケロッとしてるのかもしれないけど、あすかっちはそういう人間じゃないし」
あすか(奥)「タイマー鳴ったから、洗濯物干してくるね」
了くん「あすかっちー、2階のベランダは床がベコベコしてるから……行っちゃったか」
3分後。
(ガシャーン、ドゴッ)
了くん「あ?」
了くん「おーい、大丈夫か?」
了くん「ツヨシ、救急車呼べ!ベランダが……」
ツヨシ「えっ?」
久美子「うそ……」
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正義感が強い久美子ちゃんは、「何を話していいか分からなくなって後輩を無視した」あすかっちを許せませんでしたが、うやむやになりました。
あすかっちが作った帽子は、高橋さんと同じクラスのツヨシくんが家まで行って手渡してくれました。高橋さんは少し痩せていたものの、食欲は戻っていました。ピンクのうさぎさんの刺繍が入った帽子は、高橋さんにとてもよく似合いました。あすかっちが退部したことを受けて、登校してきた高橋さんも家庭科部を辞めてしまいましたが、のちに二人は仲直りしました。高橋さんは相変わらずマイペースで協調性がないままでしたが、みんなそれを受け入れました。