ファンタジーキャッスルのあすかっち宅。見知らぬ男がいる。
アインシュタイン先生「なんだあんたは?どこから……」
謎の男「久しぶりだな、臼田」
アインシュタイン先生「その声……まさか、藤村か?きみ生きてたのか?ずいぶん若いな」
藤村博士「そういうお前はずいぶん老いぼれたな。ま、お前もいずれオレぐらいまでなら若返るだろうがな。ベトナム以来だ。サッパリ来ないからこっちからで向いてやったぜ」
アインシュタイン先生「サッパリ来ないって言われたって、きみ今どこに住んでるの?」
藤村博士「アヴァロン島という、戦士たちの眠る島だ」
アインシュタイン先生「そんなこと、ぼくが知ってるわけないでしょ」
藤村博士「あ、そうか、話してなかったな」
アインシュタイン先生「……変わってないね、そーいうとこ」
藤村博士「オレが預けた薬で、お前好き勝手に不老不死の仲間増やしまくったそうだな。その薬をファンタジーキャッスルの最高医療機関に持ち込んで顧問に納まった。高給取りだそうだな、いいご身分だぜ」
アインシュタイン先生「じゃあぼくを襲わせて資料探ししたのもきみの手の者だったんだな?あれでぼくは右足を失い、その後色々あって治った上、不老不死になった。普通の人間に戻る方法はないのかい?」
藤村博士「ないね。オレが米軍から命令されたのは死なない『兵隊』を作ることだ。これを投与した者は溶鉱炉に放り込まれても生きて戻ってくる。そしてある程度怪力になる。たくさん実験したが死ぬ方法ももとの人間に戻る方法もない。だから滅多に仲間を増やさない。お前が不老不死にしたのはまだ将来のあったはずの子供ばかり。ひどい奴だな、お前は。ローティーンであの薬を使えば、成人の身体になることはないだろう。だが子供の場合、副作用は怪力ばかりではないというデータを得られた。貴重な資料をありがとうよ」
アインシュタイン先生「機関のコンピュータからデータを盗み出したのか?」
藤村博士「オレは機械が苦手でね。専門のハッカー集団のうちのひとりに頼んだ。そしたら、お前のやらかしたことが全部分かったんだ。お前は取り返しの付かないことをした。その最初の子は中学受験の日に骨折した。お前はその子の骨をすぐ治ると言って不老不死の薬を打った。確かに骨折は治ったが、彼女は今も12歳の姿のままだ。我々の予想を遙かに超えた怪力を持ち、いずれファンタジーキャッスルでしか生きていけない怪物になってしまった。次に養子だった少年。こちらは彼女ほど強くはないが青年に見えなくもない。その他にも可哀想なやつらをたくさん作った」
アインシュタイン先生(右)「みんな不可抗力だよ。それに今のところ、誰も困ってない」
藤村博士(左)「今はな。だがいずれ辛くなるときが来る。お前は永遠に綺麗な奥さんとその娘と、自分の養子を得てハッピーかもしれないが、ずっと一緒にいるということは幸福だと思うのか」
アインシュタイン先生「子供たちは、心が大人になったら、いずれ独り立ちするよ。ファンタジーキャッスルはあまりに広くて、様々な人が住んでいる。我々のような人間もめずらしくない。静かに生きていくならこれでもいいと思うよ。幸・不幸を決めるのはきみじゃないよ」
アインシュタイン先生「で、小さな島で何十年も孤独を抱えて、きみは世間知らずだな。カノジョはいないのか?いっそアヴァロンなんか出てここのリトル・トーキョーで暮らして、人々の役に立たないか?そのほうがあまりにも長すぎる人生、楽しいよ」
藤村博士「オレはアヴァロンで満足だ。不老不死の薬の原料を守らなければならない。秘密を知りたければアヴァロンに来い。お前の子供たちにも伝えろ。死んだことがない人間も入れる日がある」
藤村博士「じゃあオレはアヴァロンに帰る。リンゴ農家の手伝いをしなければならないんだ。金色のリンゴだ、きれいだぞ」
アインシュタイン先生「結局、きみ何しに来たの?」
藤村博士「……」
藤村博士「嫌味のひとつでも言ってやろうかと思っただけだ。美人の奥さんもらいやがって」
アインシュタイン先生「……」
がらがらがら。(スライド式本棚型の戸が閉まる音)
アインシュタイン先生「……?」
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結局、藤村博士は嫌味言って帰って行きました。
ですが、かつての親友の遅い結婚を祝福する気持ちもあったのかもしれません。素直におめでとうと言えないんですね。
永遠に12歳のままのあすかっちは、2年間で少しだけ背が伸びましたが、14歳になっても小学生にしか見えません。
これにて偽アーサー王伝説、いったん終幕。3月1日に外伝書きます。
あしたからはいつもどおりのお話です。
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