ノンコ(右)「ねえあすかちゃん、期末テストも終わったことだし、これから美容院に行ってヘアドネーション申し出てきましょ。あすかちゃんの髪、ゴムから60センチ以上もあってうっとうしいでしょ」
あすか「私はこれでいいの」
ノンコ「どうして?」
あすか「とにかく長いままにしておきたいんだ」
ノンコ「そんなわがまま許されないわ。今どき、肩より髪の長い女子中学生なんて見たことないわ。今年の夏は暑くなるのよ!停電になるかもしれないのよ。洗うのに電気代も水道代もかかるし、不潔だわ。シャンプーだってごっそり減るのよ。さ、出掛けましょう」
あすか「私が公共料金のお金出すから」
ノンコ「お金だけの問題じゃないのよ」
ノンコ「今、何らかの事情で髪を失った子供のウィッグを作るっていう役に立つの。最低31センチの長さで直毛の黒髪が必要なのよ。あすかちゃん倍あるんだからその分、沢山貢献できるわ。もしそのまんまの頭で、あすかちゃんが病気か何かで髪を失ったとき、作ってもらえなかったらどうするの?髪を伸ばしている子はみんな、そういう子供たちのためにやっているのよ」
あすか「髪を切ったらインスピレーション沸かなくなって、小説書けなくなるかもしれないよ」
ノンコ「そんなことあるはずないし、あったとしてもなんの問題もないわ。また伸ばせばいいじゃない。男みたいなあんたの話し方とライフスタイルにそんなロングヘアー合わないわ。短く切ると洗うのラクよ。それにあすかちゃんはショートヘア似合うと思うの」
あすか「花凜ちゃんに頼んだら?」
ノンコ「花凜ちゃんの地毛は明るすぎるし天然パーマだから」
ノンコ「あんたはどうしてそう頑固なの!気の毒な人が沢山いるってことが分からないの?」
あすか「なんでお母さんそう善意を強制しようとするの?」
ノンコ「学校で髪の長い子に何束か寄付してもらうことに決まったの。ノルマがあるのよ。分かったら言うことを聞きなさい。みんな寄付してるのにあんただけ長いままだったらきっと悪いことが起きるわ。いじめられたくなかったら切りなさい。教師の子だからって特別扱いされたなんて噂立てられたらお母さん恥ずかしいわ。あんたで最後なのよ、協力して。これやれば内申点上がるわよ」
あすか「善意なんて嘘だったんだね」
ノンコ「何を今更カマトトぶってるの?そんな善意なんてうちの学校じゃ建前に決まってるでしょ。でも多くの人たちが喜んで協力してるわ」
ノンコ(右)「グズグズしないの!早く立ちなさい!」
あすか(左)「いやだ!」
ノンコ(左)「久美子ちゃん、あすかちゃん知らない?トイレ行くって言っていなくなっちゃったわ」
久美子(右)「あのねえ叔母さん、あすかっち、叔母さんの胃袋が全快するように願掛けしてたのよ。今、あたしがこうやって叔母さんに喋ったから無効なのかもしれないけどね。でも善意にノルマがあったらそれは生徒に対する虐待だわ」
ノンコ「ええっ」
ノンコ(左)「どうしましょう……あすかちゃん美容院へ行ったのかしら」
久美子(右)「そんな殊勝な性格じゃないわ、あすかっちは」
ノンコ「帰ってきたわね。美容院行ったわけじゃないのね」
あすか「Twitterに呼びかけたんだ。結構、髪の寄付集まるよ」
ノンコ「そうだったの……ありがとうね」
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このエピソードはフィクションです。
今回はタブーに切り込んだお話なので、苦手な方はスルーしてください。
ヘアドネーションというのは、病気や抗がん剤治療などで髪を失った子供たちのために、ウィッグにする髪を善意で寄付してもらう運動で、これまで沢山の人が協力しています。私も黒の直毛だったので、31センチがんばって伸ばして寄付しようと伸ばそうとしたのですが、頭を洗うのがめんどうくさくて、特に冬は髪が背中に張り付いて気持ち悪かったので、結局挫折しました。
現在ではくせ毛でも31センチに満たなくてもやってくれるところはありますので、その辺はその気になったら調べてみてください。
皆さんあくまで善意でやっていることです。これは強制ではありません。
しかし未来には、このようなノルマが学校に課されないとも限りません。「困っている人の役に立てて嬉しい」という笑顔が、いつか同調圧力による偽りになったりしないことを祈ります。
もしも善意や厚意がいつのまにか義務になってしまったら、そこに愛はないのですから。










