あすか(右)「君や私が生まれるずっと前、ベトナムという国が北と南に分かれて戦争をしていた。南になぜか、日本人研究者の藤村と臼田という男がいた。藤村は『死なない兵士』を作る研究をしていた。臼田は臨床にうつってから藤村の研究をまるっきり信用していなかった」
了(左)「……」
あすか(右)「君はまだ生まれたばかりだから、死の概念はよく分からないだろう。だがこの世に永遠のものはない。……はずだった。ところが、藤村は、研究を完成させてしまったんだ」
了(左)「永遠はあったんだね」
了「で?」
あすか「沢山の兵士が、あり得ない状況から生きて戻ってきた。だが南は戦争に負け、兵士はアメリカに帰った。そして祖国から嫌がられ、多くの不死の兵士達は山に籠もって、今も孤独に暮らしている」
了「藤村と臼田はどうしたの?」
あすか「藤村はベトナムに残って研究を続け、臼田は日本に帰って個人病院を開いた。臼田はその容姿からアインシュタインと呼ばれた。そう、君を作った人だ」
あすか「藤村は臼田を見送るとき、薬を渡していた。臼田は不死の薬なんて信じちゃいなかった。ケガが一瞬で治り怪力になる、ぐらいしか認識していなかった。そして、臼田はとんでもないときにその薬を使うことになった」
あすか「ある小学校のあるクラスに、クラス中の男子と対立している女子がいた。その女子は勉強は出来たが生意気で、毎日リンチされても学校を休まなかった。メンタルが鋼のように強かった。受験シーズン、彼女は白百合女子学園を受験するため、夜を徹して勉強していて、受験当日は朝早く家を出た。だが途中に、彼女を殺したいほど憎んでいた勉強の出来ない3人の男子が待ち伏せていた」
あすか「3人は彼女に殴りかかり、彼女も応戦したが右腕にひびが入った。彼女がかつぎ込まれた病院が臼田のアインシュタイン医院だった。臼田は入試に行くのは無理だと言ったが、泣きじゃくる女の子が可哀想になった。その時、臼田は藤村が餞別にくれた薬を思い出し、『どうしても受験したい?連中に仕返ししたい?』と言った.女の子はうなずいた。臼田は薬を女の子の腕に打った。すると彼女の腕の骨折はみるみる治った。臼田は驚いたが、女の子は笑って入試会場に向かった。結果は、面接に遅刻したため不合格だった。同日、女の子を襲った3人の男子が収監されてる少年鑑別所が襲撃され、男子3人の頭の骨が折られた。犯人は分からなかった。臼田は震え上がった」
あすか「女の子は第2志望のカトリック女子中学に通いながら、風邪を引いたりなどちょっとした軽い病気でちょくちょく臼田のもとを訪れた。そのうち臼田は女の子におかしな面を見つけた。彼女は入試の日以来、外観が全く変化しなかったんだ。成長が止まっただけでなく、身体も女性らしい変化を見せなかった」
あすか「さらにある晩、藤村から電話があって、例の死なない兵士の中に80になっても若々しい青年の外見のまま元気に生きている男の存在を聞かされた。藤村の研究は成功していたのだ。自分はなんと浅はかなことをしてしまったのだろうと、臼田は悩んだ。女の子は一生このままの姿かもしれないと思うと、胸が痛んだ。一生どころか死さえ訪れないとしたら、彼女は孤独に苦しむだろう。臼田が彼女にこのことを打ち明けるのに2年かかった」
了「その女の子って……」
あすか「私だよ」
百鬼丸「(ビーちゃん先輩、その薬、犬にも効くと思います?がうがう。ぼくはあすかちゃんを孤独にはしません、永遠にお仕えします、がうがう。ビーちゃん先輩、アインシュタイン先生のところへ行きましょう)」
ビーちゃん「(え?百ちゃん、冗談はよしこさん)」
百鬼丸「(ならば、ぼくだけでも行きます、がうがう)」
ビーちゃん「(分かった、ぼくも行くよ)」
あすか「君は生まれてすぐこんなことになったけど、もし将来近所に住んだら、時々話し相手になってくれ。やたらと仲間を増やすわけにはいかないので、大人になっても連絡は取ろう」
百鬼丸「(アインシュタイン先生酔っ払ってたからちょうどよかった、泡ふいてけいれんしてる演技したらすぐ信じちゃって。これであすかちゃんにずっとお仕え出来ます、がうがう)」
ビーちゃん「(百ちゃん、君、やることめちゃくちゃだワン)」
あすか「百鬼丸、どこ行ってたんだ?泥だらけだよ、お風呂に入ろう」
あすか「じゃ、ブラッシングしよう。今日は随分引き締まった身体してるね、どうしたんだろ」
百鬼丸「(ん~幸せ、がうがう)」
ビーちゃん「(何が永遠にお仕えしますだワン。きみはあすかちゃんとお風呂入ってブラッシングしてもらうぐーたら生活を永遠にやりたかっただけじゃないか、呆れるワン)」
============================
この世に永遠はないけれど、それに近いものはあるかもしれません。
あすかっちの永遠も、ずっとではないかもしれません。
ですが、アインシュタイン先生も車椅子生活になってしまった今、あすかっちに打ち明けずにいられなかったのでした。
了くんはいずれ戸籍を取って、緑中学に編入する予定です。
あすかっちはどうするのでしょうね?
<禁・無断複製転載>












