帰りの電車のなか、とても私はもやもやしていた。
走り去る夜の街が映るガラスの上のゆがんだあたしは、むすっとしていてかわいげのない顔をしている。相手もいないのに怒っていたってしょうがない、と体に入っている余計な力を抜こうとしたら、今度はさらに顔がゆがんだ。
あれ、どうして、と不思議に思っていたら頬の上を暖かいものが伝っていった。
うわ最悪、こんなところで泣くなんて、社会人としてどうなのよあたし、
と一人自分を叱責しながら、それでも涙が止まらないのでちょうど停車した、降りたこともない駅で下車をした。
いつもより少し帰りの遅くなったあたしを、彼はいつものように迎えてくれた。
「お帰り、今日は少し遅かったね?」
部屋の奥からはおいしそうな匂い―――、ああこれは、あたしが好きなバジルの香りだ。
「今日、パスタ?」
「そ、豚肉とバジルのパスタ」
「わ、やった」
湯気を立てる、パスタ。真っ白なお皿に緑が映える。
彼の得意料理であるこのパスタは、あたしの好物でもあった。
「今日ね、久々にチーズケーキ作ったんだ、時間あったから」
「え、うそほんと?」
「ん、今冷やしてるよ。食べ終わるころにはちょうどいいんじゃない?」
家で仕事をしている彼は、今日はこんなことがあったんだよ、と昼間のニュースを教えてくれた。へぇ、とあたしは話を聞きながら赤ワインを飲む。
「チーズケーキ・・・」
「はいはい」
あたしが催促すると、彼はパスタのお皿を重ねて流しにおくと、代わりにチーズケーキを乗せたお皿を持って再登場した。
「おいしそう」
「機嫌は直った?」
「え?」
瞬間的に、どきりとする。一瞬でこわばったあたしの表情を見て、彼は続けた。
「今日さぁ、連絡来たんだよ、あの・・・なんか派手な同期の人から」
「なんて」
「今日すごい大激論を繰り広げた結果あの子と喧嘩しちゃったから謝りたいんだけどぜんぜん話聞いてくれそうにないからアンタ機嫌直しときなさいよ! って」
「・・・・」
「熱くなっちゃって冷静じゃなかったってよ。ごめん、ってさ」
「・・・・でも」
「・・・うん、でもあの子も冷静じゃなかったわ! って言ってた」
俺、なんか30分くらいあの人の愚痴付き合っちゃったよー、と彼はへらりと笑った。
「明日、またがんばれそう?まず最初に謝るんだよ、ごめんなさいって」
「・・・・がんばる・・」
「うん。じゃあ食べようか、チーズケーキ」
「うん」
よく冷えたチーズケーキは、ほっぺが落ちそうなくらいおいしかった。