ロサンゼルス郊外を行き交う車に目を向けてみると、その殆どがバンパーに何らかの損傷を帯びている事に気付く。
路上に駐車している車は勿論だが、道路脇から覗き込む事の出来るガレージに収まった車も同様だ。
理由はともかく、そのヤレ具合がどうにもアメリカらしくて好きだ。
しかし、この現象はアメリカだけにあらずで、地球の裏側のヨーロッパでも同様だそうだ。
そもそも車のバンパーはぶつける為に装着されているらしい・・・
欧米諸国では路上駐車時に行く手を遮られた車が前後の車にバンパーを当てながら移動させて行き、そして、スペースを確保してその場を離車するそうだ。
この光景は、かのスティーブ・マックイーン最後の主演作である「ハンター」の冒頭でも確認する事が出来るのだが、日本でこんな事をやらかした暁にその場が修羅場と化すこ間違いは無い事だろう。
そう、欧米諸国の民にとっては車は「単なる道具」なのだ。
広大な大陸を移動する為のツールの一つに過ぎないだけで、決して、モノを粗末にしている訳ではない。
こと、サーフボードに関しても同様の事が云える。
日本ではお馴染みのハードケースもカリフォルニアでは殆どお目に掛けない。
彼等は車内やピックアップの荷台にそのままボードを突っ込み、そして、ビーチに着くや否や小脇に抱えて海へと向かうのだ。
仮にそれらの行為によってボードが破損しても補修するれば(修理ではない)「OK!」、そんな程度に過ぎない。
要は彼らにとって大事な事は「波乗りをする事」であって、サーフボードは単なるツールに過ぎないのだ。
そんな彼等の文化が反映されたかの様なボードが本日紹介するボードである。
その様は遠い昔から多くのサーファーに抱きかかえられ、そして、彼らに笑みを齎し同じ時を刻み続けて来たヴィンテージと呼ばれるサーフボードである。
ハーバーのヴィンテージPIGである。
長さは10.2ftとPIGにしては非常に珍しい長さを誇る。
さて、このPIGだが前振りで綴って来た様にボード自体は非常にお粗末?面構えとなっているのだが、各ディティールのクローズアップと共に紹介して行きたいと思う。
まずはこちらから・・・
テールブロックは何層にも樹脂が上塗りされていて、兎に角「浸水しなければOK!」的な補修が際立つほどで、このボードを手に取った瞬間にココに目を奪われる程である。
同様にレールもご覧の有様である。
また、フィンに限っては欠けた部分があからさまに補修している程である。
と、まぁ、踏んだり蹴ったりの感が否めない、このボードだが・・・
違う目線で向き合ってみると、古き良き時代ならではの創り込みが多々汲み込まれているのが判る。
例えばストリンガー。
贅沢極まりないバルサにレッドウッドをTバンドしたストリンガーは、現代のサーフボードには無い賜物である。
同様に歴戦の勇士を誇るかの様な飴色に変色したボトムも光が乱反射すると妙に神秘的である。
そして、デッキには昨年50周年を迎えた老舗レーベルのディケールが輝く。
傍から見たら単なるボロイボードでも、スポットの当て方次第ではヴィンテージは如何様にも輝く事をこのボードが教えてくれている様である。
そんなボードの前オーナーはベンチュラを拠点にシェイプ&ラミネートに励むアダム・ダベンポートである。
アダムのちょっとした諸事情から譲り受けたボードはワックスが塗られっぱなしで送られて来た如何にもアメリカ的な代物であった。
10.2ftのPIG・・・
成る程、前オーナーがアダムならば、この長さと浮力にも納得が行くと云うものだ。
そう云えば、最近、アダムのボードが大阪でも取り扱いが始まったそうだ。
アダムのボードが新たなディーラーの下で多くのサーファーに触れてもらえるのは一人の友人として嬉しい限りである。
さて、そんなタンカー並みのPIGも一度身体を預けてみると、53年前のボードとは思えぬ程のグライド感、そして、機敏性を齎してくれる事を感じる事が出来る。
人気の無い冬の海だからこそ、このボードを堪能するには良い機会かも知れない。
さて、もう少々コイツと向き合ってみる事にしようか?
Keep Surfing!!!!!!!!