海で出会った仲間の中にPIGを愛用している女性がいる。
傍から見るとノーズライダーでも乗っているかの様に、彼女は果敢にノーズを攻める。
いや、ノーズだけでは無く綺麗なボトムターンも見事に披露し、時折我々男性陣の目を釘付けにしてくれる。
そんな彼女が愛用するボードはジーン・クーパーのPIGなのだが、ジーンさんの手掛けるPIGは自身がシェイプするボードでも、マット・カルヴァーニがシェイプするボードでもPIGという事を忘れさせてくれる程の操作性を約束してくれるボードである。
ジーンさんとマットが削り出すPIGには「VelZY&Jacobs」からリリースされた古き良き時代の匂いと、現代のサーフシーンに順応するモダンの要素が多分に汲み込まれている。
それらのボードはジーンさんのレーベルではブラックボードとしてリリースされており、一方のマットがハンドリグするビングからはフェラールPIGとしてリリースされている。
これらのボードは、共にPIGの素晴らしさを現代に伝えてくれたマイク・ブラックとのミーティーングから誕生した経緯がある。
マットはビングの伝統的なPIGもリリースしているのだが、ビングのPIGはテールのボリュームが少々物足り無い事もあり、俺自身は中々縁が無く、気になるのはフェラールPIGばかりであった。
本日紹介するボードはマット・カルヴァー二の傑作、フェラールPIGなのだが、紹介する前にこのボードに辿り着くエピソードを少し綴らせてもらいたいと思う。
このボードがリリースされてかなりの年月が経つ訳だが、その間にオーダーするに当たって2つのテーマで長年悩み続けた経緯がある。
一つはヴィンテージレプリカとしてオーダーする事。
もう一つはモダンクラシックとしてオーダーする事。
ヴィンテージレプリカであれば当然ながら装飾はビングのヴィンテージを参考にするのだが、フェラールPIG自体がモダンPIGである為、装飾だけを復刻するのはどうしても俺自身で納得が行かなかった。
とはいえ、マイク・ブラックのボードと全く同じデザインにするのは味気ない。
そんな2つの事由から中々着手出来ずにいた。
しかしながら、サーフボードは自身の趣味がしっかりと反映されていれば、どんな仕様でもOKな訳で、俺自身が納得出来る「何か」を探し出し、答えを見出してから着手すれば「良いのではないか?」と思う様にした。
そして、そんな時に1枚の画像を見付けた。
ベルジーとジェイコブスが袂を分けた1959年に誕生した「ビング&リック」のディケールである。

可能な限り調べてみたのだが、どうしても真相に辿り着く事が出来なかったのだが、考えみるとリック・ストナーが「リック・サーフボード」を立ち上げたのが1962年なので、独立までの3年間にリリースされていたボードを考えるとPIGしかない。
しかも、この時代のPIGは殆どが「VelZY&Jacobs」のアウトラインを採用していた為、それをベースに創られたフェラールPIGには「OKかな?」と自身に言い聞かせる様にオーダーした経緯が蘇る。
そして、こちらがビング&リックのディケールを纏ったフェラールPIGである。

流石はマット・カルヴァー二とマイク・ブラックのコラボレーションである!
ナローノーズから形成されるアウトラインは何物にも代え難い程の美しさを放っている様に思える。
そんな美しさを放ったこのPIGをレプリカとして制作してもらうのに頭を痛めたのが、ボードのカラーとストリンガーのバランスである。
如何せん、上のディケールしか画像が無い為、アウトライン以外は創造で進ませる他は無かったのだ。
先ずは飴色のボードカラー・・・
これは意図的に「着色」された物なのか?
それとも経年変化による「焼け」なのか?
見方によってはブラウンにも見えなくもないが、時代背景を考えると態々微妙な色合いでリリースする筈もないだろうという事になり、サーファーズの矢作さんとマット・カルヴァー二のアドバイスを参考にクリアにする事にした。

また、ストリンガーのバランスに至っても、ヴィンテージコレクターであるマットの意見を参考にバランスをとってもらい、フォームから特注でお願いし、この時代ならではのテールギリギリにディケールを着けてもらった。

よって、ご覧の様な洗練されたレールが如何にもモダンPIGらしさを醸し出してくれている。
マットやジーンさんが創り上げるPIGは、正にこのレールとボトム形状、そして、絶妙なロッカーバランスから成り立つ事は乗った事のある者ならば理解頂けるのではなかろうか?

と、ここまで書き綴っていると百点満点をあげたくなって来るのだが、最後の最後にやらかしてくれたのが、このフィンである!
ここまで希望通りに出来上がっておきながら肝心のフィンはウッドのデコレーションになっていた。

俺の希望はソリッドのウッドフィン!
この時代を知るマットならば、ソリッド以外にはありえない事は承知の筈なのだが、やはり、海の向こうのCAである。
以前も書き綴ったが、これがCAにカスタムを依頼するデメリットである。
気に入っているのだが、何処かで素直に受け入られないフラストレーション・・・
折角のマットのサインも霞んでしまうのは贅沢な悩みだろうか?

まぁ、これは悔やんでも仕方が無い事なので、「サーフボードは遊び道具」と割り切って堪能する事にしたいと思います。
Keep Surging!