「積ん読」は読みが「つんどく」、すなわち「積んでおく」だからクレバーなのであって、「読」を別の漢字に置き換えたところで面白さは半減してしまいますね。「積ん聴」だなんてクレバーさの欠片もありません。

 

そんな私が紹介するのも説得力に欠けるかもしれませんが、聴かずに積んでおいた作品を消化するなかで出会った、注目に値すると感じる3ラインをご紹介します。

 

 

 

 

まずはNAVのこちらから!

 

NAV - Tension

 

NAVが3月にリリースしたアルバム『Bad Habits』からは、ミーク・ミル(Meek Mill)をゲストに迎えた「Tap」がヒットしていて、プレイリスト『Hot LA Summer 2019』にも入れました。アルバム全体を通して聴いてみると、やはりザ・ウィーケンド(The Weeknd)率いるXOのアーティストらしくエモーショナルな曲も多くて、なかなかよかったです。中でも僕が一番気に入った「Why You Crying Mama」のリリックは、RAqくんが洋楽ラップを10倍楽しむマガジンで解読しているので、よかったら読んでみてください。

 

Nav、堅実な母親への愛を歌う。(Nav - "Why You Crying Mama")|洋楽ラップを10倍楽しむノート|note

 

話が横道に逸れましたが、本題です。この曲で面白いと感じたラインは、1ヴァース目冒頭のこちらです。

 

I never had shit, so I wear my AP when I sleep

俺は何も持ってなかった だから俺は寝るときAP(オーデマ ピゲ)を着ける

 

なぜこれが面白いと感じたかというと、言うまでもなく彼と同郷のドレイク(Drake)の「Started From The Bottom」における以下のラインを想起させるからです。

 

 

Just as a reminder to myself
I wear every single chain, even when I'm in the house
Cause we—

自分へのリマインダーとして

俺は家に居るときでも全部のチェーンをつけるのさ

なぜなら…

 

これは2ヴァース目の最後で、この後にフックの"Started from the bottom, now we here"が続きます。苦しい場所から這い上がってきた、そのストラグルを忘れないためにAPを着ける、あるいはチェーンを着ける…かっこいいじゃないですか。彼らと同じように時計やチェーンを着けたまま寝るという方がいらっしゃいましたら、住所を教えてください。寝ている間に僕が輪ゴム1本追加しに行きます。

 

 

続いて、エル・ヴァーナー(Elle Varner)の最新作『ELLEVATION』より、こちら!

 

ELLE VARNER - WISHING WELL FEAT. RAPSODY

Image via @ellevarner on Twitter

 

このブログで言及したことはあまり無い気がするけれど、実はエル・ヴァーナーの前作『Perfetly Imperfect』(2012年)はかなり好きで、2010年代のR&B作品の中でも5本の指に入るかもしれないと思ってます。あれから7年という長い期間が空いてしまいましたが、今作でも彼女らしいテーマで歌っていて、うん、悪くないです。リリース当初なぜか日本で聴けなかったのですが、聴けるようになってよかったです。

 

「WISHING WELL」では、失恋に打ちひしがれながらも正しい選択をしたのだと自分に言い聞かせつつ、別れた恋人の幸せを願っています。この曲ではエル本人のヴァースもさることながら、ラプソディ(Rapsody)のヴァースが面白いんです! ここでは2つ紹介させてください。

 

Old Elle couldn't get enough to refill Elle

昔のエルは自分を満たすのに十分な男を見つけられなかった

 

恋人と別れる判断は正しかったのだと自らに言い聞かせるエルに寄り添うように、ラプソディは力強く、しかし優しくラップしています。"old Elle"は前の2ラインで"oh well"とライムしていて、これが心地良いリズムを生んでいるんですが、ここでさらに注目すべきは"refill"という単語のチョイスです。これ、なぜだか分かりますか?

 

 

そう、エルのシングル曲「Refill」からきているんです! 飲み物のおかわりをするときに使われる"refill"を、同曲では、バーで見つけた男性と話す時間を「おかわりしたい(もっと欲しい)」といったニュアンスで使っているんですが、それを新しい曲で使い回すラプソディのセンスが光りますね。

 

My sun shine even though you ain't marry me
Miss No More Drama to Mary me

あなたが私と結婚しなくても、私の太陽は輝く

メアリーみたいに、もう揉め事はよして

 

ここでは"marry me"と"Mary me"の同音異義語が用いられています。1行目は字義どおりの意味です。2行目の"No More Drama"はメアリー・J・ブライジ(Mary J. Blige)のアルバム『No More Drama』(2001年)に掛けた表現ですね。って、あれ? もしかして"sun shine"って…

 

 

MJBの代表曲「My Life」のサンプル元である、ロイ・エアーズ(Roy Ayers)の「Everybody Loves The Sunshine」からきているというのは、考えすぎでしょうか(笑)?

 

 

 

最後は南部のOGの楽曲で印象的だったラインを紹介します。

 

Bun B - Get The Bird ft. T.Y.

 

先月バン・B(Bun B)がリリースしたEP『Bun B Day』収録楽曲ですね。同作の中では、僕はマクソ・クリーム(Maxo Kream)とヤング・ドルフ(Young Dolph)を招いた「In My Trunk」が一番気に入りました。かっこいいですよ! 客演の彼らについては、バン・BがBeats 1のインタビューで語っているので、興味のある方はこちらよりチェックしてみてください。

 

この曲はフックが面白いです。

 

Early bird get the worm, I get the bird, 'cause I'm earlier

早起きな鳥は虫を捕まえるが、俺は"鳥"を捕まえる 俺のほうが早いから

 

英語に"the early bird gets the worm"ということわざがあります。文字どおりに訳すと「早起きな鳥は虫を捕まえる」ですが、転じて「早起きは三文の徳」となります。しかし、バン・Bはご本人いわく、その鳥よりも早起きなんだとか! 自分がいかにハードワーカーであるかを示すラインです。

 

実は、ここに隠された言葉遊びはそれだけではありません。"bird"にはスラングで「コカイン」の意味もあるのです。鳥のさえずりが聞こえるよりも早い時間帯からコカインを仕入れる彼の仕事ぶりが目に浮かびますね。

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか? 私事で恐縮ですが、今年の8月はNetflixにハマったりフェスに行ったり『ヒップホップで学ぶ英語』の準備をしたりして、あまり音楽を聴けなかったので、今年出たアルバムでオススメのものがあれば教えてください。優先的に聴きます。

 

また、上に書いたようなことを少しでも面白いと感じていただけるのであれば、『ヒップホップで学ぶ英語』にも足を運んでいただけると嬉しいです! あと2名受付中です。

 

では!