点滴の本質と食事が強い理由
アメリカの小児科医ロバート・S・メンデルソン(Dr. Robert S. Mendelsohn, 1926–1988)の主要な主張Confessions of a Medical HereticAmazon(アマゾン)(引用元に基づく要約)1. 医療の過剰介入批判─ 医療は病気を治すよりも、新たな害を生むことがある。2. 医師の権威主義への異議─ 医師は「祭司」のようにふるまい、患者の判断力を奪っている。3. 公衆衛生政策の誤りを指摘─ 政策主導の予防医療やワクチン施策は、科学よりも政治的である。4. 薬・医療処置のリスクの強調─ 薬・検査・手術には重大な副作用や利益構造がある。5. 自然治癒と自己管理の重視─ 真の医療は、身体の回復力を支えるものでなければならない。医療介入は適応すれば命を救うこともありますが、副作用・感染症・免疫反応・炎症・合併症などのリスクがあり、無視して安易に行うことを批判しました。今も医療のリスクは変わらず、多くの介入は「適応があれば有益、不要なら害」になるという話です。一昔前の医療は権威に従うのがプロという時代もありましたが、色々な闇が明るみになってきてからは、危険な状態を正しく見分けることがプロの本質だと思うようになりました。そして、今回の本題はここからです(※本の内容とは直接の関係はありません)。最近は様々な点滴が流行っていますが、血液検査をして健康体であり必要ないと、まともな医者からは言われます。何でもかんでも静脈注射すればいい訳ではなく、副作用や過剰症などのリスクを考えるべきだと。医学的な必要性や十分な根拠がないまま侵襲性のある点滴を受けるのは、果たして効果に見合うだけの価値があるのでしょうか。医学的には点滴って、経口摂取も経管栄養も難しい場合の代替手段なので、本来は日常的・美容目的などで気軽に行うものではなかったんですよね。これは、医学の基礎がある人なら誰でも知っている常識です。それなのに、最近はリスクを十分に考慮しない擬似医療や行き過ぎた美容医療が広がっており、鵜呑みにする人の多さにも本当に呆れるし終わってると思います。一般的に薬剤はどう吸収され、どう代謝されるかをあらかじめ投与経路別に想定して開発されていますが、栄養素は、経口摂取時に消化管からの吸収・運搬・細胞取り込みが生理的に調節されているため、点滴のように直接血中に入れると代謝経路が異なります。基本的に栄養素の点滴静注は、血中では急激に高濃度になりますが、すぐに組織へ移行して平衡化。そもそも一時的に血中濃度を上げるというのは即効性はあっても持続性は乏しく、代謝的負担や炎症リスクなどを考慮するものです。食事などによる経口摂取は、緩やかに吸収して安定し長く維持されやすいです。つまり、点滴は即効性、経口摂取は持続性に優れます。特に、栄養素における吸収率って、単純な「摂取量-排泄量」に基づく見かけの値であり、それだけで利用効率の良さは測れないのです。実験や文献で示される「吸収率〇%」は、大抵は血中濃度曲線に基づくもので、体内利用や貯蔵を直接示すものではありません。栄養素は、吸収→分布→代謝→利用という段階があるため、「吸収が速すぎる=利用効率が良い」とは限らず、むしろ代謝・排泄負担を増やすこともあります。例えば、経口鉄の吸収率は約5-20%(鉄欠乏時は30%まで上昇)でも、胃酸で還元→十二指腸で輸送体(DMT1)によって腸管細胞内に取り込み→必要時のみ血中へ放出され、トランスフェリンに結合して全身へ。欠乏時は吸収率が上昇し、体内の鉄量が十分な場合は吸収が抑制され過剰摂取による鉄毒性を防ぐという生理的な恒常性制御(フィードバック)があり、体が必要なだけ吸収して貯蔵する仕組みです。おおよそ1-3ヵ月のスパンでゆっくりとフェリチンとして貯蔵され、貧血改善に有効です。静注鉄は100%吸収されても、すぐトランスフェリン飽和→余剰鉄は非トランスフェリン結合鉄(NTBI)として肝臓や網内系に取り込まれフェリチンまたはヘモジデリンとして蓄積→一部は腎・胆汁から排泄。NTBIは反応性が高く、酸化ストレスを引き起こす鉄形態です。鉄の代謝経路は、投与経路で明確に異なり、静注鉄は十二指腸で吸収されません。これだけ、経路が違うので、代謝の意味が異なります。経口鉄は吸収率が低くても、体が必要な分を長期的に取り込む仕組みを持っています。即効性の静注鉄とは異なり、時間をかけて血液・貯蔵の両面を安全に整えるのが特徴です。静注鉄が適応となるのは、鉄欠乏性貧血が明確で、経口鉄で十分に補えないか、副作用などで内服が困難な場合、または迅速な鉄補正が必要な場合です。鉄に限らず、投与経路によって代謝・恒常性・安全性が明確に変わる栄養素はたくさんあります。特に、体内で厳密な調整機構をもつ栄養素(糖・ミネラル・脂溶性ビタミンなど)ほど差が大きくなります。吸収率や即効性ではなく、恒常性を壊さない経路かどうかが重要です。したがって、吸収率は効率ではなく、速度と分布の一部の指標にすぎません。「吸収率が高い=良い」というのは、医学的にも栄養学的にも誤解ということです。吸収率だけを見るのは数字のトリックであり、生理学的制御まで見ないと本質を誤ります。体にとって本当に重要なのは、必要なときに、必要な量を、自然な経路や状態に応じた経路で利用できることです。