迷える子羊たち、ごきげんよう。ヴァンだ。
最近、街中でよく耳にするフレーズがある。
「結果にコミットする」
フッ。面白い。
普通、人間は結果を求めて努力するものだが、このジムはそうではないらしい。
「結果という現象の方が、ひれ伏してついてくる」という思想か。
悪くない。俺の生き方に非常に近いシンパシーを感じた。
俺は早速、その黒と金の看板を掲げるジムRIZAPの門を叩いた。
個室に通されると、黒いポロシャツを着た筋肉質の男(トレーナー)が現れた。
彼は俺の体を見て、マニュアル通りにこう言った。
「まずは目標を決めましょう。こちらの『シェイプアッププログラム』はいかがですか?」
俺は眉をひそめた。
「シェイプアップ? 君、目が悪いのかな。俺のシェイプは、すでにレオナルド・ダ・ヴィンチも嫉妬する黄金比で完成されているんだが?」
トレーナーは絶句していた。
俺は慈悲深い笑顔で続けてやった。
「だが、君たちの熱意は買おう。俺の肉体を『維持』するのではなく、『神話』にするためのプランを組んでくれ」
トレーニング初日。
トレーナーは重そうなバーベルを指差し、「まずはベンチプレスで大胸筋を鍛えましょう」と言った。
俺は首を横に振った。
「ノンノン。重い物を持ち上げて顔をしかめるなんて、美しくない。俺の筋肉は、苦痛のためではなく、魅了するためにあるんだ」
俺はベンチ台に仰向けになり、バーベルを持たずに、天井に向かって優雅に投げキッスを繰り返した。
「見ろ。これが『エア・ラブ・プレス』だ。
愛を届けるたびに、大胸筋が喜びで震えているのが分かるだろう?」
トレーナー「い、伊集院さん……それ、ただの手の運動です……」
俺は無視して続けた。 「50分間、俺のポージングを見続けられる君は幸運だ。特別料金を頂いてもいいくらいだぞ?」
トレーニング後の食事指導。
これが最大の難関だった。
トレーナー「伊集院さん、今日から糖質制限をお願いします。ご飯やパン、パスタなどの主食はNGです」
俺「構わない。俺の主食は『民衆の視線』だからな」
トレーナー「あと、お酒も注意してください。ビールやワインなどの醸造酒はNGです。飲むならウイスキーなどの蒸留酒にしてください」
俺は立ち上がった。
「待て。俺の血はロゼ・シャンパンで出来ていると言ったはずだ。それを飲むなだと?」
トレーナー「はい、糖質が多いので……」
俺は少し考え、名案を思いついた。
「ならば、ドン・ペリニヨンを蒸留してくれ。そうすれば『蒸留酒』になるだろう?」
トレーナーは頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
やれやれ。俺の発想が柔軟すぎて、教科書通りの彼には刺激が強すぎたようだ。
2ヶ月後。 俺の体重は1グラムも変わっていなかった。
だが、最後のセッションで、あの有名な「ブー・チッ・ブー・チッ♪」という重低音のBGMが流れた瞬間、俺は鏡の前でゆっくりと回転してみせた。
トゥーレー♪ トゥーレー♪
俺の輝きに耐えきれず、トレーナーは感動の涙を流していた。
「コミット……しましたね……」
そう呟いた彼の肩を抱き、俺は言った。
「ああ。結果なんてものは、後から勝手についてくる『おまけ』に過ぎないのさ」
RIZAPは素晴らしい場所だ。 大きな鏡張りで、自分を眺めるのに適している。
Stay Committed.
伊集院ヴァン


