悩める子羊たち、ごきげんよう。ヴァンだ。
最近、巷で騒がしい「ブレイキングダウン」というイベントを知っているか?
血気盛んな者たちが、たった1分間、檻の中で拳を交えるという、実に野蛮……いや、プリミティブな祭典だ。
先日、その運営関係者が俺のアパートまで泣きついてきてな。
「伊集院さん、どうしても画面に『華』が足りないんです! あなたの美貌でケージを浄化してください!」と。
やれやれ。罪な男だ、俺は。
てっきりパリコレのオファーかと思ったが、まあいい。
俺という至高の芸術品を、格闘技ファンという名の迷える子羊たちにも拝ませてやろうじゃないか。
俺は出場を決めた。
会場は、汗と安っぽい香水、そして満たされない承認欲求の臭いで充満していた。
俺がパイプ椅子に座り、優雅に脚を組むと、隣にいた全身刺青だらけの男(自称・歌舞伎町の野獣)が、いきなり俺に掴みかかってきた。
「おいピンク頭! 何ガン飛ばしてんだコラァ!」
…フッ。哀れな。 俺は彼の目を真っ直ぐに見つめ返し、囁いた。
「ガンを飛ばしているんじゃない。お前の瞳に映る、美しい俺自身の姿に見惚れていただけさ」
会場が静まり返った。 野獣は口をパクパクさせ、後ずさりして椅子から転げ落ちた。
当然だ。美の絶対王者を前にして、立っていられるはずがない。
結局、俺は一言も暴言を吐くことなく、ただそこに「存在する」だけで、オーディションのMVPをかっさらったのさ。
戦相手は、どこかの元暴走族総長だったかな。
開始のゴングが鳴ると同時に、彼は獣のように突っ込んできた。
だが、俺は動じない。
俺のこの顔は、ユネスコの無形文化遺産に登録申請中の国宝だ。
傷一つでもつけば、世界経済が混乱する。
俺は華麗なステップで、彼の拳を全て躱した。
蝶のように舞い、薔薇のように咲き誇る。
観客は、格闘技を見に来たはずが、いつの間にか俺のダンスパフォーマンスに魅了されていたはずだ。
そして、残り時間3秒。
俺は相手の目の前で立ち止まり、とっておきの必殺技を繰り出した。
「必殺・ヴィーナス・ウィンク(流し目)」
俺の美の波動を至近距離で浴びた相手は、その場に硬直。
あまりの眩しさに目がくらみ、動きを止めてしまったのだ。
そこで試合終了のゴング。
判定:ドロー
審判たちは困惑していたな。
「有効打が一つもないが、伊集院のオーラで相手が硬直していた…」と。
フッ、愚かな。 俺の戦いは次元が違うのだよ。
肉体言語で語り合うなど、野暮なことはしない。
俺は1分間、ただ美しく在り続けた。
それこそが完全勝利の証だろう?
Stay Beautiful.
伊集院ヴァン


