(はぁっ、はぁっ、はぁっ……! 肺が、肺が爆発する……!)

 

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俺は、まだ硫黄の匂いがこびりついている白煙を突き抜け、壬生の屯所の外へと広がる暗く入り組んだ京の路地を、死に物狂いで走っていた。

 だが、どんなに必死に足を動かしてもスピードは一向に上がらない。

それもそのはずだ。俺の両腕には、ヴァンさんが「過去の劣悪な水質から俺の美を守る防衛線だ」と抜かして未来のガレージから強引に詰め込んできた、推定20キログラムの高級化粧水やトリートメントがぎっしり詰まった特大トランクが抱えられているのだ。

 

現代のアスファルトと違い、幕末の舗装されていない土と石の道は容赦なく俺の体力を削っていく。

隣を走る旗手博士も白衣を泥だらけにしてゼエゼエと喘いでいるし、当のヴァンさんに至っては「暗い路地は俺の輝きを半減させる。ライティングが最悪だ」などと意味不明な文句を言いながら、一切荷物を持たずに優雅なステップで小走りについてきているだけだ。

 

カニパラダイス

 

 

「逃がすな! 妖術使いと金ピカの男、それに偽物の浅右衛門を追えーっ!」

 

背後から、血に飢えた新選組隊士たちの怒号が迫ってくる。

その中でも一際恐ろしいのが、先頭を猛スピードで走っているであろう一番隊組長・沖田総司の、まるで鬼ごっこでも楽しんでいるかのような弾む声だ。

 

「あははっ! 待ってくださいよー! 斬り捨てていいって局長が言ってたんで、遠慮なく首をもらいにいきますからねー!」

 

 草鞋が地面を蹴る『ザッ、ザッ、ザッ!』という足音が、恐ろしいスピードで距離を詰めてくる。

笑いながら人を斬りに来る天才剣士の足音がすぐそこまで迫っている恐怖に、俺の胃袋は再び千切れるような痛みを訴え始めていた。

 

(もうダメだ! この重いトランクを抱えたままじゃ、絶対に次の角で追いつかれる! 俺の人生、幕末の路地裏で新選組に背中からスパーンとやられて終わるのか……!)

 

絶望で目の前が真っ暗になりかけた、まさにその時だった。

 

「――お任せを!!」

 

sabrina-gift

 

 

俺たちが曲がろうとしていた路地の角の暗がりから、スパーン!と勢いよく何者かが飛び出してきた。

 月明かりに照らされたその顔を見て、俺は息を呑んだ。

俺と全く同じ顔。

しかし、先ほど屯所の裏庭で会った時の青白い顔色とは打って変わって、肌つやは最高潮、胃痛の苦しみから完全に解放されて満ち溢れるような精気に包まれた男――「本物の山田浅右衛門」が、スチャッと抜身の刀を構えて立ち塞がったのだ!

 

俺が渡した現代の『最強・即効性胃腸薬』が、完璧なタイミングで効き目を最大限に発揮したらしい。

 

「あ、浅右衛門殿!?」 

 

猛スピードで角を曲がってきた沖田総司と隊士たちが、突然目の前に現れた本物の伝説の処刑人の凄まじい気迫に驚き、急ブレーキをかけて立ち止まった。

 

「妖術使いと金ピカの男はどちらへ行きましたか!?」

 

息を切らす沖田に対し、浅右衛門は背後に隠れている俺たちに向けて、顔の半分だけでバチコン!と信じられないほど粋なウインクを送ってサインを出した。

そして、伝説の首斬り役としての威厳をたっぷりと漂わせたドス黒い低い声で、俺たちが逃げてきたのとは全く逆の暗い辻を力強く指差した。

 

 

「奴らなら、あちらの辻へ猛烈な勢いで逃げて行ったぞ! なかなかに足が速い、拙者も追ってあの金ピカの首を落とす!」

 

 「本当ですか! さすがは浅右衛門殿、助かります! 行くぞお前ら、あっちだ!!」

 

疑うことを知らない沖田たちは、伝説の処刑人の言葉を見事に信じ込み、「御用改めである!」と叫びながら、逆方向へとものすごいスピードで走り去っていった。

彼らの足音が遠ざかり、路地に再び静寂が戻る。

 

俺は、その場にへたり込みそうになるのを必死に堪えた。 

(ありがとう、ご先祖様……! 山田家、最高……! 胃腸薬を持たせてくれた現代の製薬会社にも一生ついていきます……!)

 

 俺は再び特大トランクを抱え直し、夜の闇に紛れながら、京の町外れに隠してある黄金のスーパーカーへと急いだのだった。