先日、年1回の胃と大腸の検査をした。

この検査を定期的にするようになったのには、

きっかけがある。


私がまだ30代後半のことである。

お腹の調子が悪いのがなかなか治らなかったため、

病院に行った。

問診や触診をして、

とりあえず便の検査をしましょうとなった。


後日検査結果を聞きに行くと、

医者がこれはまずいですよと言わんばかりの表情で、


「う~ん、かなり潜血が出てますなぁ」と言った。

その言い方に、ひどく不安になった。


そして精密検査のため、数日後に

大腸の透視をすることになった。


検査までの数日間に自分でも色々調べたり、

友人に聞いてみたりした。

すると、何故か仲間内では、話が大きくなって、

それだけ潜血があるということは、

もう大腸ガンに違いない、という結論に達していた。


透視の前々日には、ガンを手術する前に美味しいものを

おごってやると友人に言われ、

おごってもらいながら、

俺は本当に大腸ガンじゃないかという気になっていた。


検査当日、大腸の透視検査はとてもきつかった。

下からバリウムを入れ、さらに空気まで入れるのだ。

お腹がパンパンに張って、耐えられないほど痛い。


子供の頃、蛙のお尻にストローを刺して、

お腹をプーッと膨らませて遊んでいたが、

その時の蛙の気持ちが良く分かって、

もうしません!と必死に蛙に謝っていた。

検査ではこの状態で、はい上向いて、

うつぶせになって、はい斜め横向いて、

と、容赦なく指示されるのだ。

これはとてもしんどい。



検査が終わり、結果が出たらお呼びしますので、

しばらくお待ち下さいと、

言われ、待合室で待っていた。


その間色んなことを考えた。

手術となると、自分で新しく仕事を始めたばかりで、

まだまだ軌道に乗ってないのにどうするんだ?

子供はまだ3才と5才だぞ、どうする?


お金もない、どうする?


それより手遅れの末期ガンだったら・・・、


不安ばかりが頭をよぎり、どうしよう、どうしよう、と

心臓がバックンバックンしてきた。


そして、ついに看護婦さんが呼びにきた。


「診察室へどうぞ」


いよいよである。


コワーッ!





昨日、4月から大学に進学し、

一人暮らしを始める息子のために

ある家電量販店に買い物にいった。

祭日とあって、店内は朝からかなりの人で賑わっていた。


この時期の私たちのような家族連れは、

いいお客なのであろう、

頼んでもいないのに、

店員がつきっきりで商品の説明をする。

その中から、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、

電子レンジ、・・・、・・・、・・・、・・・、


と必要なものが次々と選ばれていく。

もちろん全部新品である。


一体いくらかかるのか、


金額の足し算が頭の中でめまぐるしく行われる。

しかし桁が大きくなると、なかなか計算ができない。

こんなことなら、普段からもっと暗算の訓練をしておくべきだった。

ちょっとしたことでも、電卓に頼っていた自分が悔やまれる。


商品を選びながら、30年以上も前、

私自身も大学進学で実家を離れて

一人暮らしを始めた頃のことを思い出した。


当時は、今の学生マンションのようなものはなく、

部屋だけを借りる、いわゆる下宿だった。


建物も古く、隣の部屋の音など丸聞こえの四畳半だった。

今考えれば、よくあんな部屋で数年間も我慢したものだ。

この辛抱強さが今の夫婦円満の元になっているとしたら、

今とても役に立っていると感謝しなくてはいけない。


当時の下宿はトイレ、炊事場は共同、

冷蔵庫も洗濯機も共同だったため、

そんな電気製品はすでに備えつけられていた。

部屋には机・椅子まであった。

自分で用意したものは、

布団とテレビ、コタツくらいだった。


それに比べて、息子よ、お前はしあわせ者だぞ、

全部新品だぞ、分かっとるか?

と心の中でつぶやく。


そして、全部が決まり、「お支払いは?」と聞かれて

誇らしげに、「現金ですっ!」


と答える自分に、どうだ、甲斐性のある父親だろうと、

妻と息子の手前、ちょっと鼻高々であった。


「現金ですっ。」 

スゲーッ!




うちの妻は、食事のときにものをこぼすことをすごく嫌う。

こぼすことをとてもだらしないこと、と見ているようだ。


ときどき同居の父親がこぼしたのを、後で、

もう、またこぼして、しょうがないわね!

と言って片付けているのを、

私は知っている。


普段温厚な妻だけに、その口調はとても怖い。

すごく、怖い。


私は一家の大黒柱として、あんな風に言われないよう、

だらしないと思われないよう、食事の時は、

こぼさないように細心の注意を払っている。


先日のことである。

お風呂から上がって、食卓につくと、我が家にときどき登場する

ランチョンマットが敷かれていた。


このマットは紺色の布製なので、要注意である。

布製は汁ものをこぼすと、シミになってすぐ分かるからだ。


その日のおかずに肉じゃががあった。

我が家の肉じゃがはわりとつゆだくなので、注意していたが、

口に運ぶときに不覚にも、つゆをマットの上に落としてしまった。


ま、まずい、妻の方をチラッと見ると、テレビを見てる。

よしっ、とりあえず、落としたつゆの上に別の小さなお皿を置いて、

ごまかす。


さて、ばれないようにするにはどうするか。

ビールを一口飲んで、考える。


今日の片付けは僕がするよ、となんて言うのも、

普段、後片付けなんて全くしたことがないのだから、

おかしいこと、この上ない。


さて、どうしたものかと考えていると、そのシミがジワーッと広がってきた。

置いた皿の下からはみ出してきたのである。


ま、まずい、慌てて、大きな皿と替えようとしてたら、

その皿の端っこがビールのコップに当たってしまった。


ガッシャーン。

なんとビールまでこぼれてしまった。


次の瞬間、妻の顔がまるでスローモーションのように、

ゆっくり、こちらを向き始めた。


コワーッ!