うちの妻は、食事のときにものをこぼすことをすごく嫌う。

こぼすことをとてもだらしないこと、と見ているようだ。


ときどき同居の父親がこぼしたのを、後で、

もう、またこぼして、しょうがないわね!

と言って片付けているのを、

私は知っている。


普段温厚な妻だけに、その口調はとても怖い。

すごく、怖い。


私は一家の大黒柱として、あんな風に言われないよう、

だらしないと思われないよう、食事の時は、

こぼさないように細心の注意を払っている。


先日のことである。

お風呂から上がって、食卓につくと、我が家にときどき登場する

ランチョンマットが敷かれていた。


このマットは紺色の布製なので、要注意である。

布製は汁ものをこぼすと、シミになってすぐ分かるからだ。


その日のおかずに肉じゃががあった。

我が家の肉じゃがはわりとつゆだくなので、注意していたが、

口に運ぶときに不覚にも、つゆをマットの上に落としてしまった。


ま、まずい、妻の方をチラッと見ると、テレビを見てる。

よしっ、とりあえず、落としたつゆの上に別の小さなお皿を置いて

ごまかす。


さて、ばれないようにするにはどうするか。

ビールを一口飲んで、考える。


今日の片付けは僕がするよ、となんて言うのも、

普段、後片付けなんて全くしたことがないのだから、

おかしいこと、この上ない。


さて、どうしたものかと考えていると、そのシミがジワーッと広がってきた。

置いた皿の下からはみ出してきたのである。


ま、まずい、慌てて、大きな皿と替えようとしてたら、

その皿の端っこがビールのコップに当たってしまった。


ガッシャーン。

なんとビールまでこぼれてしまった。


次の瞬間、妻の顔がまるでスローモーションのように、

ゆっくり、こちらを向き始めた。


コワーッ!