第一章
上を見上げると空があった
下にあるはコンクリート製のビルを囲う縦横無尽に溢れる人混みの山だ
日常とは、こういう事を述べるだろう
ある者は仕事へ、ある者は買い物へ趣き
またある者は目的無くとも本能のまま足を運ぶ
考えはバラバラだが、各々が同じ行動を毎日ひたすらに繰り返す点では共通してる
自覚あるかどうか別として、社会という世界を生きる上で人は己を 歯車 と例えるらしい
世界の一部として人は世を回してるのだと、誰もが口にする一方、それなりの見返りを前提に成り立ってる
名誉 金 愛 心根にあるであろう欲望ともいう夢にまで見た願いが為、人はそれぞれの道に赴く
それはバンカーと呼ばれる者達と然程
変わらぬのでは無かろうか?
金貨と呼ばれし金色の塊を求めた先にある願いが為、戦いの場へと赴く。そこに 力 の有無を除けば本質に差は無い筈
何時しかソレを忘れ、ソレが当たり前になった時、同じ事を繰り返す日常の心地よさを永遠に続く 平和
と受け取っていた事だろう
只、当たり前と思っていた事が当たり前で無くなるとその瞬間、人はどうなる?
生命に寿命がある様に、始まりに終わりがあるのは物事全ての宿命ではないか?
人々はきっと想像していなかっただろう、ずっと続くと思われた日常というループに終わりを‥喪失の時を‥
ソレは空中より無数の漆黒が飛来した時より始まった
カラス?人混みの中、1人の男が不思議そうにカメラを向けると、小さな影がレンズに収まり切れない程に巨大化したと感慨に浸る間もなく爆音と共に男の身体を空中へ吹き飛ばした
何が起きたのだろう?
気にも止めず当たり前に歩いていた民衆達は耳をつんざかんばりの音に視界を映すと目のまえの光景に信じられないと言わんばりに顔面が蒼白させる
コレがTVのドッキリと看板が出れば
どれだけ胸を撫で下ろした事だろうか
しかし無造作に地面へ叩きつけられ
ピクリとも動かない男の姿は手の混んだ芝居等ではなく現実の物と思い知らされる
そう、終わりはいつも突然にして来る
周囲にとって見ず知らずの筈の男が轟音と共に呆気ない形で人生にピリオドが打たれたのだから
終わりは始まりを意味する様に終生続くと思われた人々の日常は‥世界の終わりは名も知れない1人の男の死より始まった。
荒れ狂うばかりに広がる爆音、空を切る様に横切る煙が先にあるビルに当たると構成していた一部が鉄の塊となって地へと降り注ぐ
パニックに陥った人々が我れ先に方角バラバラに逃げ惑う。そんな人々を嘲笑う様に突如、一台のタンクローリーが宙に浮かぶとその真下から一体の巨体が姿を表した
「弱者共ォ!逃げられるもんなら逃げてみろぉ!」
言葉と共に作業アームの様な巨大な右腕でタンクローリーをひっくり返すと同時に轟音が広がり地も揺れる
逃げ惑っていた人々が硬直している
恐怖の余りだ、歪んだその表情が物語る
しかし、恐怖の対象はそれだけではなかった
目の前の大男を象徴する作業アームの状の右腕に
丸型の円環にバツ字のマークが刻まれている
力なき人々を恐怖させるに充分な証だった
「バ‥バンカーだ」
その大男は自らをプロテインと名乗ると同時に
取り巻きらしき暴漢達を率い群衆に襲い掛かろうとしている
最早、見ていられなかった
「辞めろぉッ!」
叫びと共にもう1つ小さな影が
飛び出すとプロテインと名乗った大男がキリモミ状に吹き飛びその巨漢をビルの壁面へと叩きつけられた
取り巻き達の顔が襲いかかろうとした人々と重なる様にその顔面が蒼白させる
一体何が?と全員が視線を向ける先に
先程までの巨体とはまるで正反対の小さな姿に
衝撃が走る。1人の少年だった
頭に赤いヘルメットを、背中には身の丈程のある木製のハンマーを担いでいる以外、年端もいかない子供である 。
そんな暴漢達を束ねる巨体のバンカーが1人の子供に倒された事実に取り巻き達がうろたえる側へと回る事になるとは思いもしなかった事だろう
しかし状況は一変する
風車の要領に回る円盤型の何かがビルのガラス窓を切り刻みながら少年に近付いてくる
「キャッハハァッ!ガキ1人にヤラれるなんざ
情っさけねえ!」
その中から表るは蟷螂の様な出で立ちをした
異様な仮面の男だった
手にはその奇っ怪な風貌に相応しい
鋭利な鎌状の武器を手に少年の首に振り下ろそうとしていた
「アイスフロストォ!」
鎌が少年の首にあと1センチで触れる直前
男の目の前に煙が生じた
いや厳密には煙ではない、冷気だ
ドライアイスを一気にばら撒いた様に超低温の煙が仮面の男を包むとその身体を氷の塊へと変える
「さっ‥寒‥ィ‥どう‥な‥って‥やが」
状況が理解出来ない仮面の男の背後に影が見える
「卑劣な手しか使えないお前に相応しいだろう」
背後にはもう1人の仮面を被った青年が居た
前面で氷漬けとなっていく男と同様その身体から発する冷気から誰の仕業か言うまでもなかった
「安心しろ氷は直ぐに溶ける 彼の拳でな」
青年の言葉と共に氷像となる男は恐怖した事だろう‥
少年の拳が炎を灯すとそのまま炎に包まれた
鉄拳を叩き込んだ
氷は蒸発したと同時に蟷螂の風貌をした男もビルの壁に叩きつけられた
「ば‥ばかな、このキュリ様が小僧ごときに‥」
一体何が現実だろう? 言葉はなくとも
周囲の表情及び状況が心境の全てを物語る
只、人々を恐怖させた暴君達を倒したのも又、バンカーと呼ばれる者であったのは少年と青年2人それぞれに記されてる円環にバツ字型が記されたシンボルが物語っていた
「ここは危ない、直ぐに避難するんだ!」
青年は片手を掲げ、人々にそう指示をすると
皆、一斉に逃げ出す
「遅くなってすまなかった、コロッケ」
「ううん!シャーベットが来てくれたから 百人力だもん!」
青年の謝罪に、少年は明るく答える
そう、彼の楽観的といえるプラス思考は以前会った時と何一つ変わっていない
そう、彼は伝説と名高きバンカー、バーグの息子
コロッケだ、幼き日より父親よりその身に叩き込まれた戦闘技術と父親との死別という過酷な経験を糧に様々な死闘を通じ、遂には父親を生き返らせるという願いを達成したのだった
そして自身はそのバーグの友にしてライバルたる
ジェラートを父に持つシャーベットは、成長したバーグの息子であるコロッケと出会い、しばらく旅を共にした間柄であったが、未だに決闘で決着が着いた事はないのは、父ジェラートとバーグと共通していた。
コロッケと一度、別れてからも単身で旅を続け
相応の経験を積み、以前より遥かに力を増したコロッケに劣らないと自負しているが、本来ならばこの再会を機に互いの力を確かめ合う事も希望していたのだが何分、そう言ってはいられない
「悪いが、まだ終わらせてくれなさそうだ」
皮肉を述べるシャーベットが指す方角には無数の影が見える。烏の大群を思わせるソレは最初にこの街に砲撃してきた張本人達だ
嘲笑うかの様に空中を浮遊していた影達は機動を
変えるとコチラへと急接近し向かってくる
様子見の必要が無いと断したのだろう、取り巻きを率いていたプロテインとキュリを倒した事で彼等にとって手間が省けたも同然だった
敵の数が減ったなら残った我々を始末するのも
造作は無い‥そう言いたげに影はその姿を現した。
近くから見た黒き翼は烏の物ではなかった
どちらかというと虫にも見えるが、まるで腐敗した汚物に群がる蠅を思わせるフルフェイス型のヘルメットを被った異様な集団だった
しかしシャーベットは彼等を知っている
噂には聞いた事がある。金貨を集めしバンカー以外にも法外な金と引き換えにバンカーを狩る事を生業とする賞金稼ぎが居ると
先程、倒したキュリという男もその類だ
混乱に乗じ懸賞が掛けられるバンカー達を葬る彼等から言わせれば今起こってるこの自体は一種のゲーム感覚の様な物だ
そして今、目の前に居るは黒ずくめの防護服
背面より突き出る昆虫を思わせる羽にヘルメット
正に死骸に群がる蝿である。
蝿達はシャーベットとコロッケ2人を囲う様に集まるとその中心に唯一、ヘルメットから目元部分の素顔を覗かせる男がリーダー格であると物語った
「我等の神聖な狩りを邪魔をするのは貴様等か?」
「狩りだって?街を滅茶苦茶にして
何言ってるんだ!」
男の問いにコロッケは怒りを滲ませて返す
しかし周りは笑い袋の様にコロッケをあざけ笑うと
リーダー格は続ける
「意味のある破壊だ!街が混乱に陥れば
陥る程、それだけバンカー共を炙り出せる!要は
狩り尽くした分の報酬と共に我等の名声も広まる」
酒に酔う様に語る者達に対しコロッケは今にも殴り掛からん勢いで拳を握りしめる一方で、冷静に口を開くは静観を破ったシャーベットだった
「お前達が“フライA・B”なのは知ってる、だが名誉を重んじる噂が事実ならば流儀に反していないか
?」
彼等が何者かシャーベットは知っていた、
傭兵集団フライA・B。
彼等は金と引き換えに依頼を請け負う他の賞金稼ぎと異なり、彼等なりの流儀にのっとり強者から弱きを守る一部の民衆達から英雄視され今回の戦いも本来は国家権力に雇われた対バンカー部隊であり本来はコチラ側の味方の筈だった
しかし彼等が愛用する銃撃の向かった先は何の罪もない一般市民だった、その光景を目に焼き付けている。
彼等の顔を覆いしフルフェイスの造形がそうである様に彼等のグロテスクな心境に戸惑いの動きは一切なかった
「時代が変わったのだよ!我らと縁を切りたがる愚か者共より厚い信頼と報酬を先払いしてくれるクライアントがいるんでね」
部隊をまとめるリーダー格の‥隊長格と呼ぶべきであろう男の言葉が全て悟った
彼等も欲望という匂いに釣られた
正真正銘の蝿であった
それは匂いだけでに留まらず殺気を察知した様に向こうも構えを取る
「そしてお前達も礎だ」
その言葉と共に取るであろう行動を予測し
事前に備えるシャーベットの意図に反して
大群達はバラバラに散開する
「逃げるのか!」
「逃げるだと?取るに足らぬ弱者達を守るお前達の
愚かさを否が応にも気付かせてあげるのだよ!」
コロッケの叫びにフライはそう答えると
街の空中から四方八方へと散るや否や両腕のガントレットに内蔵されたミサイルでビルをや街を破壊して回る
マズイ状況だ、今勃発してるバンカー同士の争いから一般人を守る事を知っての上で、彼等は力無き者達に標的を変えると、悪戯に被害を拡大しようとしている
「奴らを追うぞ、コロッケ!」
氷で出来た円盤を生成するとシャーベットはコロッケと共に円盤に飛び移りフライ達を追っていく