アブラくんは、初め板の間のテーブルで学習していたが、なかなか集中できなくて、すぐに他のことに気が入ってしまう。また、急に立ち上がって、「ちょっと外に行ってきます」と外へ出ていく。
アブラくんがやっているのは、英語例文集の暗記である。
アブラくんはこればかりやる。
これをやる時アブラくんはノートや鉛筆を使わない。
そしてすぐに何かをいじりながら考え事をしてニヤニヤする。
「キミは普通の人より気が散って集中できない方だと自覚しない?」
「そんなことありません」
「でもこうして余計なことばかりに気が散ってちっとも連続的に集中できないではないか」
「そんなことありません」
業務用大扇風機が設置されたのは、まさにそのアブラくんの背後。
気がつくとアブラくんの姿はそこになかった。
外へ出ると、駐車場の森の前の日陰にキャンプ用チェアを持ち出してこちらに背を向けて座っている。
ここは涼しくて静かだ。
アブラくんはそもそも周囲を全く気にしないので、近づいても気が付かない。
「キミはここで何をしておるのか?」
「英文の暗記です」
「どうしてここでやっているのか?」
「中では落ち着いて集中できないからです」
だいぶしばらくしてまた訪れると、アブラくんは駐車場の最奥の森の真ん前のところに森に向かって座っていた。
座っていた?近づくと眠っていた。
しばらく見ていると、急にワーッと大欠伸をこいて、また眠ろうとするので、
「オイ、キミは中で集中できないからと言って外へ出てきてそこで昼寝をするとは何事だ」と声をかけると、
「違います。外で集中しすぎたから眠くなって寝ていたのです」
うーむ。意外となかなか隙を見せない。そしてガンとして自分を崩さない。脳内イメージと思考の動きは通常の人より速い。
後で、夜になるとアブラくんを誘導コントロールし、「こいつを笑わせる芸をしなさい!」と命じてその言葉通りにアホ踊りを踊らせる、同じく気が散る人間Sくんに聞くと、「本当に3時間ぐらい集中していました」と言う。しつこいSくんのちょっかいに動じなかったらしい。
「大物」である。
だが、「大物」こそ、これを壊さず磨かねばならない。