カーンの話の後、各ボードについた「インストラクター」によって、ルールや簡単な打ち方が解説され、初心者も含めて対戦ゲームが開始された。
すごい音である。何しろその数20台。コチン!ガシャン!パチン!とストライカーとコインの弾ける音が天井にこだまして、そこに失敗を悔やむ「アアーッ」という声、上手く得点した人のガッツポーズと歓声。
インストラクターは秋代たちが主宰するNPO法人武藏野キャロム教育普及の会の女性たちが中心。もはや他の愛好家も巻き込んで、だいぶ膨らんでその数20名以上。もちろん夫の遠藤やその友達の笹本らもそのメンバー。
6角堂はホールから出て、そこにいた渕上とオオサワと前田に声をかけた。
「お疲れさまです」
「そちらこそお疲れさまです」
「すごく盛況ですね」
「ホント。驚いたねえ。でも何だか嬉しい感じ」
「全く」
オオサワが前田に尋ねる。
「ところで、オカモトさんは?」
「会長は、今朝の便でパキスタンに旅立ちました」
「パキスタン!」
「まさか、キャロムの件で?」
「いいえ、別件です」
「別件!?それ何?」
「詳しいことは分かりませんが、同行するのは、日本水力発電開発機構の人たちで、自分も羽田で紹介されました。経産省の人も来ていました」
「へ〜水力発電。いったい何をしている人なのかね、あの人は。この会にしても、彼が仕組んだことでしょう。その当人が会場にいないし名前も出ない」
「だから言ったでしょ、いろいろって。あの人は自分にしかできない仕事をして、しかも表には出ない人なんですよ」
「じゃあ、フィクサーというわけか」
「いいえ、貴兄が貴兄であるように、あの方はあの方なりにあの方であるということなのです」