いやはや入試は本当にわからない。
午前に、ここまで難関校連敗の高校受験生から連絡。自宅近くのIBコースになんと特待で合格とのこと。この生徒は中学後半ひどいゲーム中毒に罹り、そもそもの天才的な能力を劣化させていたが、この2ヶ月で顔も引き締まって来たので、何とかなって欲しいと祈っていた。この生徒は、筆者同様ADHD・軽度?アスペルガーな気質で、英検2級は取るも、学校内申は滅茶滅茶。英語でも日本語でも興味のある分野の難解な本を読みふけり、すでにいくつもの研究課題を持つが、これが英語で発信する準備を整える学校学科に進学することになる。しかも自宅に近い。実は筆者はかつてこの学校で講演したことがあり、将来性が高い学校であることを知っていた。
午後に、もう一人の全落ち君中学受験生の母親から連絡。公立中進学を決めていたが、第1志望ではないが、何とこれまた自宅近くの私立校から追加合格の連絡とのこと。この子もADHD・アスペルガー気質の子で、凄い発想力と高速回転思考力を持ち、周囲の誰よりも将棋に強く、年がら年中本を読み、高い文章力を有していたが、やはり小学生、本番でバランスを崩して連敗していた。
筆者はこれらの生徒たちを「宝」だと思っている。彼らは特殊な気質と能力を持った、将来他の人ができないような仕事をする可能性が高い者たちである。こうした子どもたちが、やはり学校に受け入れられることに救われた気持ちになる。
学校に通学する時間がもったいない。我々は余暇時間に自分のやりたいことをして自分を高めることがするべきことである。徒歩やチャリで行ける学校ならそれも可能だ。学校そのものより家に近いことが大切なのだ。たとえどのようにレベルが高い学校でも、毎日満員電車に長い時間乗ることに意味があるか。
子どもの気質から考えて、最早崩壊寸前でもある公立中学校にどうしても通わせたくない。それなら自宅近くの中高一貫公立校か、私立校で内容の悪くないところ(考えが古くないところ)を選んで通わせたい。そう思うのは当然のことである。
今年は、偶然ながら、すべての子が自宅近くの中高一貫公立校や私立校に進学することになった。
大切なのは余暇時間と考える筆者の教育環境設定がより広く認知されて行くように思う。
以下、Carromy—その15
遠藤が月曜日朝に早目に出社すると、入口靴脱ぎにしっかりと梱包された大きな四角の荷物が届いていた。
「おはよう」と言って事務室のドアを開けると、やはり「おはよう!」と返したのは社長の笹本である。
笹本は、遠藤の大学の1年先輩であったが、卒業する時は一緒だった。
笹本は、名古屋の有名進学校から東京工業大学に現役で合格して数学を専攻しようとしていた。1年後に広島の名門校を卒業した遠藤も、この大学に現役で合格し、数学研究者を目指したが、そこにはわけがわからないほど恐ろしく数学ができる学生がゴロゴロおり、遠藤たちは、最初の解析学から躓いた。しかも、初めての一人暮らしで羽目を外し、高校時代から得意だった麻雀に精を出した。遠藤と遭ったのは、大岡山の雀荘「TITちゃん」である。笹本は高校時代に生徒会長も務めたことのある人物で、親分肌のところがあり、遠藤を可愛がった。大学卒業後、笹本は院に進まず遠藤を誘ってIT関連会社を起業した。これは初め順調に事業を拡大したが、雨後の筍のように同業者が現れて、業績は伸び悩んでいた。だが、それなりに仕事はあり、10人あまりの社員も入れ替わりはあっても安定していた。
「何?あの入口の大荷物は?」
「あっあれか。開けてみようぜ。さっき着いたんだ」
「だから中身は何よ」
「ボードゲームさ、中近東発祥の・・」
「まさかキャロム?」
「あれっ?オマエ知っているのか?」
「うん、実は最近ね・・・」
遠藤はここまでのことをかいつまんで話した。
「わはっはっは。何たる偶然。それは可笑しい。いや好都合。これは送り風が吹いている感触だな。遠藤、オレも最近ちょっとやり始めたのさ。さあ早速出してみよう。」
それは、木製のスタンダードなものだった。
「え〜ッと、どこでやるかな?向こうの接客丸テーブルに置いて見よう。そうだ。おおピッタシじゃないか」
「ピッタシ」というのは笹本の口癖の一つだった。
「では早速やってみよう」
「おい、やってみようって、ここ会社だよ。社員がやって来たらどうするのだ?」
「いや、これは仕事なのだ。実はな、今度うちの会社でキャロムのネット対戦プログラムの制作を請け負うことになったのだ。しかも、一人でも楽しめるキャロムロボットを創る計画にも参画することになった。だからキャロム研究はうちの会社の仕事なのだ。しかも資本は出すところがあるそうだ。さあ始めようぜ。キャロムの研究を」
「・・・・・・」
ワケがわからない。ワケがますます分からない。いったいどうしてこういうことになっていくのか。自分はひょっとして偶然、何か大きな出来事の渦中にでもいることになるのだろうか。遠藤はそう思わざるを得なかった。しかしこれも運命。遠藤は並べられた真新しいコインを、すでに体得した人差し指中指絡め中指打ちでそれを強打して炸裂させた。
賽は投げられた。
コインは穴に入らなかったが、何とストライカーが穴に入ってしまった。これはペナルティである。
「ハハハ、こりゃピッタシだ!一個貸し!」
—continued?