間男が泊った朝、彼はストーブにあたりながら、急にこんな話をし出した。
「オレのおふくろって・・・オレが小さい頃から精神病院に入院したりしてたんだ・・・いつもずっと独りで話したり泣いたりしてた・・・」
とっさに返す言葉を探したが、彼を傷つけず、偽善者に間違われない様な言葉を見つけられなかった。
小さな沈黙を気付かせない様に、何か言葉を発してみたが、大して意味のない言葉になってしまった。
彼は続けた。 母親の母親が、母親の小さい頃に手を引いて、線路で無理心中をしようとしたらしい。
抵抗した母親はその手を振り切って、母親の母親は、目の前でミンチになった・・・・・・。
なんという悲劇・・・・・・・締め付けられるように胸が痛んだ。
彼は、抱えきれないほどの孤独と悲しみと恐怖を背負った母親が作り出す家庭という空間で育ったんだ・・・。 何枚も送ってくれた彼の絵の中に息づく【生きた死の気配】と、【静かに呼吸する地獄】はここから来ているのだろう。
瞬時にいろんな事が頭をよぎり、その瞬間、私の小さい頃の家族の中で感じた悲しみと恐怖が結びつき
壮絶な不協和音を奏でながら私を背後から覆った。
何か言葉を返してあげなきゃ・・・頭の中を支配する彼の母親と祖母の映像と、心の底から這い上がってくる私の封印していた過去の感情を全力で押さえつけながら、言葉を返した。
しかし、またしても口をついて出た言葉は空を切り・・・意味のない返答にしかならなかった。
やっと彼の絵の意味がわかりかけた。 いや、そんな生易しいものではないのはよく解っている。
私などには計り知れない辛さや切なさの中で育ってきたんだろう。
彼の口から、彼の記憶を初めて聞いた時・・・私は悲しくて、涙も出なかった。
この世の不条理を恨んだ・・・天に向かって暴言を吐いた・・・
そんな彼を癒す術を知らなかった私は・・・祈るしかなかった。
しかし、彼を大きな心で受け止めてあげられるような母性の欠落・・・。
マザーテレサの様な愛を持ちたいと思う【聖なる部分】と、阿部定の様な【情念】の同居・・・
自分の中に、天国と地獄を作り出せる空間がある事に、独り恐怖する。
なるべく彼の理解不能な行動や言動が起きても、出来るだけ受け入れるようにしようと努力したが
自己価値観の低い私は、頑張っても些細な事に傷つくし、苦しいほどすぐに限界がおとずれる。
依然として彼への依存心は消えないし、依存が空振りした時の落胆も少しも軽減されなかった。
深みにはまる自己嫌悪・・・・・
そこで初めて彼の言葉が頭をよぎる。
普通の仕事をしろ・・・普通の女になれ・・・普通の女はこうだ・・・・・・
ねぇ・・・普通の女になると母性が出るの・・・?もっと強くなれるの・・・?
アナタは普通の女に何を求めているの? じゃあ、普通じゃないらしい私には何を求めているの・・・・・?
もう・・・まったく彼の心が解らない・・・・・!!!
長々ありがとうございました。なんか・・・終わらせると言って書き続けてスミマセン。
嫌なお話を読ませてしまって、申し訳なく思います。
早く終わらせる様、努力します。