以前、記事を書いた作家の桜木紫乃さん、最近のお気に入りの作家です。今まで知らかなかったことを悔しく思うくらいです。
「心が擦り切れてつらいときは、そこから逃げろ!」
桜木さんの名言です。
ただ、まだまだ自分の知らないこういう作家さんがたくさん居そうです。
とにかく抜群に文章が巧いし、描写はムダなく的確、くどい説明のない心情表現はそれでいてグッと迫って来る。
言葉を選びに選んでとても大切に扱っている印象があります。
小説家ですが、金澤伊代という名前の詩人でもあることからも、
桜木さんの言葉選びには熟考された真摯さ丁寧さを感じます。
とりあえず、前回紹介の本(「蛇行する月」)と前後して、ざざっと
ラブレス 2011年
起終点駅(ターミナル)2012年
ホテルローヤル 2013年
誰もいない夜に咲く 2013年
ブルース 2014年
などを読みました。(、、、あと手元にとりあえず3冊くらいあります 笑)
桜木作品は一般的に、暗いとか、コンディションの良い時に読みたかった!!と言った作品の持つ重さに思わずため息つきぎみの読後感想を述べられる方も多くおられるようです。
ただ、どこかのインタビューで桜木さんご本人は、特段、極貧等の暗いシチュエーションを選んでいるわけでもなく、あくまでも「普通に」書いているつもりである、と。
意識して暗いものを書いているわけではないと。
どこででも起こり得ること、或いは社会的には見える形こそ違えども誰もが内面に持っている観念を抉り出してきて舞台の状況に据える感じでしょうか。
悲惨な心情って経済的なものだけでなく、精神的な、その人自身にしか分からないものもありますよね。
桜木作品は「ラブレス」のように只管圧倒的な長編も良いのですが、短い枚数の中で凝縮された短編集も好きですねえ、、
例えば2013年の「誰もいない夜に咲く」とか。
この作品は2009年に発行された短編集の単行本「恋肌」を文庫化にあたって改題し、大幅に加筆・修正(、、これがあるから文庫化を待ってしまうんですよね)を加え、更に新たに1編が追加されたものです。
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寄せては返す波のような欲望に身を任せ、どうしようもない
淋しさを封じ込めようとする男と女。
安らぎを切望しながら寄るべなくさまよう孤独な魂のありよ
うを、北海道の風景に託して叙情豊かに謳いあげる。
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ん~なんかこれだけ読むと微妙な紹介文ですねえ、、、
特に「絹日和」は大好きです。
物語にムダがない。もはや登場人物全員が有機的に結びついて動いている感じで(珍しく)読後に希望が持てて良いです。
人(というより女性ですね)の矜持を感じます。
そして登場する男どもは、ほぼ全員がいつも通りしょうもなく
情けなく(笑)みっともない。
ここの女性たちは「諦念」とは全く異なる方向へ、それぞれがとらわれている何かから解放されて行きます。
畢竟、それらは己の意志でつかみとったものです。
この解放へ至る到達の形こそ、本来の「諦念」という言葉が持っている本質なのでは?などと余計なことまで考えてしまう。
★その他、最近読んで面白かった本たちをついでにご紹介、、、
「六つの村を越えて髭をなびかせる者」 西條奈加
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時は江戸中期、算学の才能に恵まれた最上徳内は、師の計らいで蝦夷地見分隊に随行する。そこで徳内が目にしたのは厳しくも美しい北の大地と、和人とは異なる文化の中で逞しく生きるアイヌの姿だった。
少年フルウらとの出会いを通して、いつしか徳内の胸にはアイヌへの尊敬と友愛が生まれていくが……。松前藩との確執、幕府の思惑、自然の脅威など、様々な困難にぶつかりながらも、北の大地へと向かった男を描いた著者渾身の長編小説!
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奈加さん、愛してます!!
安定の出来栄えです。奈加さんの現代ものはちょっと苦手なのですが時代ものはもう太鼓判です。
奇をてらうことなく、なんか安心して読めるこの感じが良いんですよね。
様々な登場人物も丁寧に描写されている。
主人公の「最上徳内」は実在の人物でこの先、蝦夷地探検家としてシーボルトにも信頼を受けた方です。
「同志少女よ、敵を撃て」 逢坂冬馬
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【2022年本屋大賞受賞! 】
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。
急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。
「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。
同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。
おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?
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本作は本屋大賞受賞作で今更紹介するのも気が引けますが、実は読むまではもっとジュブナイル的な内容かと思っていたのですが、かなり硬派な物語です。
描写は冷徹だし、物事は都合よく進まない。
やや人物の内面が描けてないことなどが2021年下半期の直木賞候補でありながら受賞できなかった理由のようですが、個人的には受賞作の一つ米澤穂信の「黒牢城」より断然面白かった。
(※審査員のうち三浦しをんは絶賛、宮部みゆきと浅田次郎はそれなりに評価、で伊集院静と高村薫には不評でした)
戦場という異質な空間に放り込まれた若い少女たち。
繰り返さる過酷な訓練、隣に居た人間が次の瞬間には被弾しはじけ飛ぶ戦闘の日々、そんな繰り返しの中で豊かな内面を保てるわけなどない。
逆に彼女たちのこの麻痺ぶりが却って戦場という常態ではない世界をリアルに語ることになっていると思うのだけれど。
そこウソ書くとそれこそジュブナイルになっちゃう。
なので十分かと。面白い。
曲げることの出来ない史実の中にこれだけのものをよく盛り込むことが出来るな、と感心します、、、
「悲しみの秘儀」 若松英輔
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もしあなたが今、このうえなく大切な何かを失って、暗闇のなかにいるとしたら、この本をおすすめしたい
――(解説・俵万智)
宮沢賢治、須賀敦子、神谷美恵子、リルケ、プラトン、小林秀雄、ユングらの、死者や哀しみ、孤独について書かれた文章を読み解き、人間の絶望と癒しをそこに見出す26編。
「言葉にならないことで全身が満たされたとき人は、言葉との関係をもっとも深める」―自らの深い悲しみの経験を得た著者が、その魂を賭けて言葉を味わい、深い癒しと示唆を与えてくれる。
日経新聞連載時から話題を呼び、静かなロングセラーとなった一冊。
文庫化に際して「死者の季節」「あとがき」を増補。
カバーと本文内を、世界的に人気の高いアーチスト・沖潤子の作品が優しく深く彩る。大切な人に贈りたい、特別な一冊。
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ということでこちらも知る人ぞ知る作品です。
個別の様々な著作活動のエッセンスを一気に集めたような本です。
ここからそれぞれの著作に更に深く入って行くのもまた悪くない旅でしょう。
この作者の「イエス伝」はいつか読んでみたいです。
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それにしても、、桜木さん、面白い!!
どれもホントお勧めです。
「ラブレス」もうただただ圧倒的な長編です。素晴らしいです。
溜息出ますよ。で、読むのに体力が必要です(とても軽く読み流すことはできない)が読後の満足感もまた別格です。
「ホテルローヤル」連作短編集 この作品で直木賞受賞です。
高校教師と学生の話が切なすぎる、、、
「ブルース」桜木作品では初めてと言っていいくらい「情けなくない男」が出てくる。ちょっと毛色の異なる連作作品集だが構成力が抜群です。
、、いや本当は彼こそ一番情けないのだろうか、、読んで下さい。






