少し前のおはなしですが、、、
マスク着用について、システマティックレビュー(とは関連する既発の複数論文から信頼性が高いものを抽出し、それらを分析し要約した結論を導き出す手法のこと)がThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2023年1月30日号に掲載されました。
この中で、地域社会でマスクを着用しない群とサージカルマスクを着用した群を比較した場合、インフルエンザや新型コロナのような呼吸器感染症の拡大を遅くする効果にほとんど違いがなく、そのエビデンスは中程度(moderate‐certainty evidence)との評価がありました。
これをもって世の中では、「権威あるコクラン・ライブラリー」が呼吸器感染症の「マスクの着用効果を否定した!!」と解釈する人が多く表れ(医師を含めてです。)、挙句の果て、それが「マスクをする意味はない!」と単純化され、それをまたSNS等で引用する人が続出するという事態に。
いまだにこのコクラン情報を根拠にこれを語る方もいるようです。(そういう場合、大抵はコクランとも認識せず、専門家が!などと説明しています。)
ネットに流れる情報には本当に根拠のないものが多いです。
医師だろうが名誉教授であろうが自身が勉強してこなかった専門外の分野では怖ろしいくらい無知の方もいらっしゃいます。特に統計的な解釈については別途学んでいない場合絶望的かもしれません。
Aが増えた。Bも増えている。だからAが増えたのはBが増えたためだ!!Bが原因だ!と真顔で説明する方もいます、、、
また、情報の出所を尋ねると「You Tube」で見た、と平然と説明する「専門家」もいたりして驚くばかりです。
しばらく前にも、国際会議での発言を巡り、きつめの意見を語る医師がいましたが、そもそもその方が見たニュース映像You tubeの字幕に誤訳があり、つまり内容が間違っているのに、、それだけを根拠に発言してしまうという状況、、、この場合、ニュース映像の配信者がわざと間違うことを期待してウソの字幕を付けたのか定かではありませんが。もしそうだとすると思うツボですね。
マスクの件についてはこの後、あまりにもネット上で語られたため、コクラン・ライブラリーの編集長(Karla Soares-Weiser)が2023年3月10日に同サイトに「当該レビューは誤解されて広まってしまった。マスクが感染を防いだり感染拡大の遅延のためには機能しない、という解釈は不正確なものである」との謝罪コメントを出すはめになりました。
が、それも知らない人は知らないままなのでしょう。
そもそもレビュー内では、試験における偏りのリスクが高く、結果の測定値にばらつきがあり、研究時の介入群でのアドヒアランスが比較的低いため、確固たる結論を導き出すことはできなかった。
そのため、マスクの効果については不確実性が残っている。
エビデンスの確実性が低~中程度であることは、効果の測定値に対する信頼が限られていること、および実際の効果が観察された効果の測定値と異なる可能性があるため、復数の設定や集団におけるこれらの介入の多くの有効性、それに対するアドヒアランスの影響に対処する、適切に設計された大規模なRCTが必要であると説明されています。
にも拘わらず、細部を理解・検討することなく、情報を都合よく切り取り、個人の「解釈」でここまで事実が捻じ曲がってしまうことに恐怖を感じます。
マスクを着用しようがしまいが全くの自由なのですが、少なくとも情報は正しく知るべきだろうと思います。
どのような身分のどなたが発言した情報であっても、出来るだけ複数のソースから裏をとったり、色々な方向性から考えて検討する姿勢は大切なのではないかと感じます。
人は自分に都合の良い解釈だけを見がちになります。
調べてみても「皆がそう言ってるから」という時、大抵は自分と同意見の意見を探して安心・納得しているだけだったりします。
自分の意に沿わない意見には目を背けがちになりますが、客観的なFACTって大事ですね。なるべく多方向の意見を聞きましょう。原典・原点に当たりましょう。
これはもう、自戒の意を込めて。