パトリック・モラーツ(Patrick Moraz)のソロ・アルバム「The Story of i」の紹介です。
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i~ザ・ストーリー・オブ・アイ(紙ジャケット仕様)
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いや~しかし、こんなフィルムが残っているですね・・・・インタビューとアルバムの音を部分的に紹介しています。
今聴いてもカッコ良いわ・・・・
この映像の出所であるBBCが70年代~80年代にかけて放送したロック番組「'Old Grey Whistle Test(オールド・グレイ・ホイッスル・テスト)」は正にお宝の山ですね、、、色々なライブ映像のソフトにボーナストラックとして付いてくることもありますが、もう、チョイスが良いです。
さて、アルバム制作の背景ですが、まず母体バンドのYESの動きでは「海洋地形学の物語」の制作を終えたバンドからなんと御大リック・ウェイクマンが脱退!これが74年の5月です。
「海洋地形学」の録音時、ギタリストのハウによればウェイクマンには既にかなりやる気がなかったようです。
ハウが弾いて欲しかったパートも「そんなの必要な~し!」として演奏せず、半ばやっつけ仕事のような感じでアルバムに携わっていたきらいもあります。
ウェイクマンと言えば、ソロアルバムとして、73年1月リリースの「ヘンリー八世の六人の妻」、74年1月録音、5月リリースの「地底探検」と、かなり好調で、本家YESよりもチャート・アクションが上ということも脱退の後押しをしたかもしれません。
アルバム「こわれもの」、「危機」、ライブ盤の「YES SONGS」と、YESサウンドのかなり重要なポジションを担っていたウェイクマン無きあと、YESは解散を選択せずに後任のキーボードを探します。
一時期、ヴァンゲリス・パパタナシュー(後の「ヴァンゲリス」、ギリシャのプログレ(ん~ではないかな?)バンド「アフロディティス・チャイルド」のキーボード担当で後年、「炎のランナー」や「ブレードランナー」のサウンドトラックで大ヒットを飛ばす)の加入話が持ちあがるも、結局は当時レフュジーというバンドのキーボード奏者であったスイス人のパトリック・モラーツが選ばれ、74年8月に正式にYESに加入します。
加入後あまり時間を置かず、1974年12月に発表されたのがアルバム「Relayer(リレイヤー)」です。
収録曲はだいたい完成していたらしいのですが、加入後4か月でアルバム発表まで漕ぎつけるって驚異的です。
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リレイヤー(スティーヴン・ウィルソン・リミックス)
3,024円
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このアルバム、高い緊張感+ジャズロックのフレーバー+シンフォニックなYESの要素、が入り乱れた、これまでの作品とは異質のアルバムで、インタープレイという点からは申し分ない内容だと思ってます。
しかしながら、ジャスロック的要素が強いためか、旧来の一部のYESファンからは不評も買っているようです。
「ロック」という側面から考えると硬質すぎる、これまでのような叙情性が感じられない、YESらしくない等の理由からこのアルバムを嫌うYESファン心理もあるのでしょうか。
ここで言う「叙情性の欠如」こそが実は交代したキーボーディストの資質の差である、と言えるかもしれません。
ウェイクマンのプレイがどちらかと言うとバンド全体を覆う厚めのサウンドを提供、楽曲の大きな雰囲気作りを担っていたことに対し、モラーツの鍵盤はあくまでも一つの楽器としてバンドに加わわっています。
ギターやベースと対等な関係にある楽器としてのキーボードと言った様相です。
だからこそ、他のプレイヤーと拮抗するインタープレイが生まれるのですが、バンド全体として見た場合、確かにウェイクマン的役割は補完されていないかと思います。
モラーツに叙情性が無いとは思いませんが、モラーツの叙情とウェイクマンの叙情は異なる、ということです。
その意味では今回紹介するモラーツの初ソロアルバム「The Story of i」もプログレ・ファンからは「リレイヤー」とやや似たような評価を受けているのかもしれません。
リレイヤー期のYESはウェイクマンのソロ作品成功のためか、メンバー全員がそれぞれソロアルバムを出す!という恐ろしい状況になっていました・・・・(このアルバム発表でメンバーのYESでの立ち位置がわかった、という副産物も。YESサウンドの担い手はハウとスクワイアが中心におり、アンダーソンは「っぽさ」担当という印象)
その中の1枚、モラーツの「The Story of i」はスイス・ジュネーヴのAquariusスタジオで75年秋から録音が開始され、76年6月にリリースされました。
その後、モラーツは76年中には早くもYESを脱退します。(なぜか78年にムーディー・ブルースに加入、その後90年まで活動・・・う~む、なぜだ?でもこの曲「THE VOICE」は結構好きだったりします。相変わらずのムーディーズ節にモラーツのキラキラしたシンセの融合、なんか良いんですよね・・・)
YES脱退の理由は色々あるのでしょうが、一番はモラーツ・タイプの演奏をバンドが望んでいなかったことにあるのではないか、と思います。
端的に言えば「皆が思い浮かべる」YESには「向いてない」プレイだと。
さて、このモラーツのソロ・アルバム。
良いんですよ!!!これが。一言で言ってカッコ良い。
他のメンバーのソロ作品と比較しても音楽的には一番先鋭的なのではないか、と思います。緩いところがあまり無いですもん。
アルバムのコンセプトはあるようでないような・・・このアルバムの場合、一部にある歌詞やテーマ・物語は度外視しても問題ないかも。
アルバム参加のリズム隊もすごいです。モラーツのソロにはYES人脈は見当たりません。
ベースはジェフ・バーリン、ドラムは前半がアルフォンソ・ムゾーン、後半がアンディ・ニューマークという布陣です。
その他のメンバーもかなりのグレードの演奏を残していると思います。
全編に入る訳ではない女性・男性ボーカルも抑制が効いていて上手いし、非常に心地よい。
歌中心のナンバーは少ないですが、またインスト作品とはやや異なる雰囲気で十分に聴けるレベルに至っています。
このアルバムに感じるキーワードは次のとおりです。
ジャズ・ロック
攻撃的キーボード
スリリングなスピード
ファンクネス
南米(ブラジル)
カリブ海
エスニック
AOR
なお、ブラジリアンのパーカッション・セクション部分は実際に75年8月にリオデジャネイロで録音されたものとか。
モラーツのシンセとピアノ主体の鍵盤演奏は非常にスリリングです。(彼はオルガンをほとんど使わないのではないでしょうか?)
コードで空間を埋めるのではなく、短音で攻めるインタープレイという印象です。
プログレやロックというよりはフュージョンの領域に限りなく近い内容かと思います。
ちなみにこのアルバムはその年のキーボードマガジンの「アルバム・オブ・ジ・イヤー」にも選出されています。
結局、隠れた名盤なのか、いや、それほどは隠れていない名盤なのか。
とにかく良い作品です。
<ドラマーに関する注釈>
●Alphonse Mouzon
(アルフォンソ・ムゾーン:前半7曲のドラム担当)
自身の膨大なリーダー作の他、ハービー・ハンコック、
マッコイ・タイナー、ラリー・コリエル等のアルバムに参加
●Andy Newmark
(アンディ・ニューマーク:8曲目以降のドラム担当)
70年代のカーリーサイモン、ジョージハリスンのアルバムの
他、スライの「Fresh」、Dボウイの「Young Americans」、
ジョージ・ベンソンやボブ・ジェームスのアルバムにも参加
プログレ界でも色々と活躍

