上原ひろみザ・トリオ・プロジェクト VOICE日本ツアー(国際フォーラム12/3,12/4) | 音楽見聞録

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それは単なるショウではなく正にライブと呼べる内容でした。

本当に久々のライブレポートです。
ベースにアンソニー・ジャクソン、ドラムスにサイモン・フィリップスを擁した上原ひろみトリオの日本ツアーのファイナルは年末お馴染み「東京国際フォーラムAホール」での2日間(12月3日、4日の両日)でした。

今回はどうしようかと思案の末、結局、2日間とも体験してきましたのでそちらのレポートを。

セットリストは以下のとおりです。基本的に日本ツアーではどこでも同じだったようですが最終日のみ2回目のアンコールがあり、「Joy」を演奏しました。

ライブ時間は途中休憩を挟むスタイルで純粋な演奏時間は約2時間30分(拘束3時間!!)という長尺のものでした。
尤も途中で休まなければ続けられないテンションであった事は間違いありません。音の奔流でお腹いっぱいです。(そう言えば蛇足ですが12月3日はドリカムの2人も来ていたようです。)

構成としては中心はアルバム「VOICE」からの全曲演奏。但し、収録順とは異なります。また、今回アンコールの2~3曲はいずれも1stアルバムからの選曲でした。

1.Voice
2.Now or Never
3.Labyrinth
4.Temptation
5.Desire
6.Delusion
7.Flash Back
8.Beethoven’s Piano sonata No. 8, Pathetique
9.Haze
10.Dancando No Paraiso
+++++++++++
11.Summer Rain
+++++++++++
12.Joy(12/4)※

※12/4のみ2回目のアンコールがありました。この時はお約束のアンコールというより、既に客電がつき場内アナウンスがあった後も拍手が鳴り止まないため&ツアー最終日という事もあってかサービスで2度目のアンコールに答えることとなったようです。

さてライブの内容は推して知るべし、・・・なのですがそれでは話になりませんので個人的な感想を。
以下はあくまでも私個人が感じたものなので興味半分で読んで下さい。
音楽の真価を決めるのは人それぞれです。言うまでもなくその人がその時その場の演奏から何を受け取ったのかが結局は一番大切なことです。

今更3人のプレイヤーたちがいかに優れたミュージシャンであるかを説く事にほとんど意味はないのでしょうが、少しだけ。

まず、アンソニー・ジャクソン。スラップするわけでもなく、決して派手なことをやるプレイヤーではありません。が、音のチョイスはもうこの上なく的確です。決して前面に出ることなくトリッキーなリズムが続く中、全体を見失わないためのアンカーのような役割を果たしてます。

と言っても単なるボトムを弾いている訳ではない、という所が名人たる所以でしょう。
特に4ビートで飛ばす部分はむちゃカッコ良かった!!また、ソロを披露する場面もあるのですがあんまりうれしそうじゃなかったな。演奏にピックを使用するのも独特ですね。
音的には2日目の方が「抜け」が良かったような印象があります。彼の使うフォデラ・ベース。一部ではベース界のロールス・ロイスとも称されており(ホントか?)その音はそれはそれは優しく美しいのですが実は個人的にはそれほど好みの音ではなかったりします。フォデラ・ファンの皆様ごめんなさい。

そしてサイモン・フィリップス。元気でした。当初はもう決して若くはないので一時期のドラム・サイボーグぶりは薄れているのでは?と思いましたがそんな杞憂はどこへやらでした。
疲れを知らないエネルギッシュさ、キレの良い粒の揃ったシンバル・ワークやハイハットでのプレイ。そしてお得意の2バスも随所で聞くことができました。

彼の素晴らしいところはやはり音価が安定していることでしょうか。どれだけはじけて演奏しても決してぶれないアタックの音量。
終曲で長尺のソロを振られる場面があるのですが、これが2日間ともかなりタイプの異なるものでなかなか興味深かったです。
初日3日のソロはエスニックなテイストで始まり、ドラマーというよりはパーカッショニストぶりを表現していました。ハイハットの踏み具合を変えて微妙な音価のコントロールを行ったりとか。これ、好きなパターンです。
それに対して最終日4日は初めからロック・フィールでオーソドックスなソロでしたね。4日の方が単純には飛ばしていたかも。

う~ん、この人はやはりフュージョン系ではなく、ポップス・ロックフィールドのドラマーなんですね。

さて最後に上原さんです。以前は、手先のテクニックは先行すれどもマインドが無い、なんて評価も受けていた事もあったようですが今回は磨き抜かれたテクニックにプラスして非常に深みのある表現力を感じさせてもらいました。

演奏の全体的な印象から言うと、まず初日は緊張感に満ちあふれたひきしまった演奏でした。何とも言えない緊張感を堪能させていただきました。これは東京初日と言うことよりも、この日を支配していた全体の雰囲気でした。観客も聞き逃すまいと耳をそばだてている。
そして2日目はややリラックスした状態で遊びの要素ありかつブルージーな味も出してました。2日目にはスモーク・オン・ザ・ウォーターのフレーズも出てましたしね。

彼女が機会あるごとに強調して語るとおり、ライブは一期一会で同じ事の繰り返しは2度と無い、その場の空気が演奏を作る、という表現には正に納得です。

どの曲も基本的にはテーマ部分の演奏以外はリズムも含めほぼアドリブです。今回、両日のアドリブ・パートのあまりの差にのけぞった曲もありました。それくらい予定調和のない先の見えない演奏を心がけていたようです。これが全部だと単なるアバンギャルドになってしまいますが、破綻することなく音は見事につなぎ止められて行く。
特に初日にはこのピリピリ感がビンビンとこちらにも伝わってきて襟を正して聞き入りました。
まるで良質のプログレを聴いているような印象さえ受けました。

ライブの構成中では、特に終盤で披露される唯一のピアノ・ソロ曲「Haze」が大きなアクセントになっていました。そしてこれには正直やられました。
このHazeですが2日間とも私には全く異なる表情で圧倒的な表現力を持ち迫ってきました。

彼女はMCの類いでは震災の事に触れることはありません。もちろんそれを意識していない訳はないのですが。

ここからは完全に私のインプレッションでしかないのですが、彼女の場合、今回の震災を言葉で表現することの難しさをそれこそ骨の髄まで感じていたのかもしれません。特にMCという短い限られた時間の中で何を言い尽くすことができるのか・・・たとえ何かを語ったところでどれだけの思いを正確に伝える事が出来るか・・・自身の心情をどこまで語れるか。そう考えて行くと手段として残されているのは彼女の場合もちろん音楽でしかあり得ない。だから彼女は敢えて言葉を封印し音楽に託した。

初日のHazeに込められた思い。それは震災でなくなられた方への鎮魂そのものとして受け止めました。それ以外に考えられないように奏でられたエキセントリックな感情の流れ。痛みと悼み。手をさしのべることのできなかった残された側の無力感。もはや祈ることしか残されていない。そんな人たちに語りかけるような演奏でした。会場の何人もの聴き手に涙を流させた感情の奔流があった。ひたすら深く潜行する祈り。

これに対して2日目のHazeはそんな中で残され呆然と立ちつくす人たちの背中をそっと後押しをするかのような雰囲気でスタート。例えどんな状況であっても残された側は生きて行かなければならない。これって昨晩の続きのストーリーじゃないだろうか、と。全体的により希望的でアッパーな印象を受けました。そこには元気をもらえる力強さがありました。

もちろん細部でのアドリブやリズムは演奏ごとに異なりますが、同じフォーマットの曲でここまで聞き手に異なる感情を抱かせる「演奏に思いを乗せる」事を「テクニック」と呼ぶなら正に彼女はそれを持っていると断言できます。この曲を2日間続けて聴く事が出来て幸せです。

今回、高い次元で融合を見せるミュージシャン・シップのほんの片鱗ですが見ることができた気がします。例えて言うならジャコがジョニ・ミッチェルやパット・メセニー達と繰り広げたライブ(シャドウズ&ライト)のような。

上原ひろみが繰り出すトリッキーなリズムやパッセージに対してドラムやベースが反応する。
即座に敏感に呼応する時もあれば、俺はそっちへは行かない!とばかりに笑顔で答えて己のフレーズに固執してみたり。それを感じてこちらも笑顔を返す。それならこっちは?と。これらのせめぎ合いが一曲の中で何度も何度も繰り広げられている。それも高い次元で。面白い。
そして上原ひろみはそれを各プレイヤーに決して強制することなく、相手の出方を見守る。これがもっとワンマンなプレイヤーなら自分の側にぐいぐい引き込んでいくのでしょうが、そんな彼女の姿勢にはいかにも日本人的な精神性を感じたりして。いや、ホントこういうのは滅多に聴けるもんじゃないです。

そういえば本人サイン入りポストカードが欲しかったがために所持してなかった1stアルバムを会場の物販で購入しました(笑)購入特典のポストカード、ちょっと見てたら最終日はあっという間に品切れになってしまいました。

今回のツアーの海外の様子を収録したDVDが来年発売になるようです。ライブ会場に足を運んだ人にはインフォメーションがありましたが、おそらく12月中旬には彼女のサイトからも購入できるようになるようです。予約特典は本人の自筆サイン入りのジャケットとか。全てにサインするのもまた大変ですね・・・

それと開演前・開演後共にライブ会場のBGMはなぜか連日ZEPの「聖なる館」がアルバム1枚丸ごとエンドレス!!好きなのかな~?誰の趣味なんだろうか、気になるところです。

今回のライブのメイン・アルバムです。
ヴォイス(初回限定盤)(DVD付)/上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト フィーチャリング・ アンソニー・ジャクソン&サイモン・フ...

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アンコールの3曲が収録されているのがこちらです。
アナザー・マインド/上原ひろみ

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で、これも良いんだよね~
プレイス・トゥ・ビー/上原ひろみ

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