The Lamb Lies Down On Broadway / GENESIS | 音楽見聞録

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ザ・ラム・ライズ・ダウン・オン・ブロードウェイ/ジェネシス
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 2009年最初のアルバム紹介は、原点に戻ってプログレです(笑)

ブロードウェイに横たわる子羊・・・・意味ありげなタイトル。ヒプノシスの手によるモノクロのジャケット。

 ピーター・ガブリエルGENSIS在籍時の最後の作品になります。1974年発表の2枚組トータルコンセプト・アルバム。


1, The Lamb Lies Down On Broadway (4:50)
2, Fly On A Windshield (4:23)
3, Broadway Melody Of 1974 (0:33)
4, Cuckoo Cocoon (2:11)
5, In The Cage (8:15)
6, The Grand Parade Of Lifeless Packaging (2:45)
7, Back In N.Y.C. (5:42)
8, Hairless Heart (2:13)
9, Counting Out Time (3:42)
10, Carpet Crawlers (5:15)
11, The Chamber Of 32 Doors (5:41)
12, Lilywhite Lilith (2:42)
13, The Waiting Room (5:24)
14, Anyway (3:07)
15, Here Comes The Supernatural Anaesthetist (2:59)
16, The Lamia (6:57)
17, Silent Sorrow In Empty Boats (3:07)
18, The Colony Of Slippermen (The Arrival A Visit To The Doktor - Raven) (8:13)
19, Ravine (2:04)
20, The Light Dies Down On Broadway (3:32)
21, Riding The Scree (3:57)
22, In The Rapids (2:26)
23, It. (4:15)

 アルバムの評価については賛否両論あるようですが、私にとっては名曲目白押しの聞き応えのあるアルバムとなっています。一番聞き返すことの多いアルバムかもしれません。


 本アルバムは前作「月影の騎士」のいかにも英国の香りのする雰囲気から一転してロック・テイスト溢れるアルバムです。その要因の一つに「ドラム」の音色を初めとした音の撮り方があるような気がします。このアルバムでのフィル・コリンズのドラムは前面に出まくっており、また必要以上には細部のバランスにとらわれない「レア」な手触りの音色を作っています。


 その他の楽器の音もGENESISとしてはいつもより繊細さよりアグレッシヴな面を前面に押し出している印象があります。オーバーダビングも極力控えているようです。但し、これがくせ者で何度も聴いているうちに実はこれらの作業が綿密な計画の上に成り立っているのだと言うことを感じます。構成に単調さが全くないのです。


 それにしてもメンバーそれぞれのミュージシャンとしての技量がかなり進歩しているように感じます。効果的な音の積み重ね具合は見事です。過剰な自己主張をせず必要不可欠な演奏を行う。オブリガードの選択の仕方などもはや職人芸の域に達しています。先鋭的なセンスの良さを感じざるを得ません。


 本アルバム制作時にメンバー間の関係はあまり良い物とはいえず、特にガブリエルと他のメンバーとの対立が深かったようです。

 基本的にガブリエル以外のメンバーがサウンドを構築し、完成したマテリアルにガブリエルが旋律をかぶせ歌を入れていく方式だったようですが、本来メンバーがインストで構想したものの上にまで歌入れを行い顰蹙をかうなど、グループとしての関係にはかなり険悪な一面も出ていたのではないでしょうか。

 ガブリエルがGENESISを脱退したのは子どもが生まれたことと映画監督のW・フリードキンから誘われたことが直接の原因なのですが、このアルバムの製作過程も大きな要因になったことは間違いないでしょう。


 このアルバム、コンセプトは少々シュールな印象ですが、各楽曲の完成度がかなり高い。ガブリエルの歌も一見、後の初期ソロアルバムを感じさせるアグレッシヴな部分もありながらも実は随所でガブリエル節が炸裂しており、正に彼のGENESIS集大成と言った印象です。

 ガブリエルは決してのびのある声を持っている訳ではありません。いわゆるヴォーカリストとしての資質から言えば恵まれていません。・・・が表現力でそれらをカバーして余りある個性を発揮しているのです。クセになる、というやつですね。

 

 トニー・バンクスの印象的なピアノから始まるテーマ1,GENESISでなければかけないであろう旋律の2、いかにもハケット風味の8、珍しくキャッチーな9,深く潜行するGENESISな(?)10、ガブリエルが一人何役も演じる18などなど・・・


 名曲目白押しなのですが特に「The Lamia」は私にとってはGENESIS史上最高と言える一曲です。

 バンクスの幻想的でかつ恐ろしくリリカルなピアノに導かれ始まるガブリエルの語るような歌。いや、正にこれは演劇体験です。この魅力に取り憑かれるとGENESISから離れることができなくなるでしょう。


 シャンデリアがきらめく長い廊下、ばら色の池では女性の顔を持つ朱色をした3匹の蛇が待つ・・・非常にシュールな光景の描写で幻想文学の一節のような内容です。これぞ正にGENESISでなければ表現できない世界であり、他の追随や模倣を許さない唯一無二の個性的なサウンドです。

 現在に至るまでこの類のサウンドや内容でGENESISに迫る物は聴いたことがありません。

 本曲の旋律は20曲目でも再現されます。このあたりはトータル・アルバムらしい仕上がりになっています。


 プエルトリコ人の主人公Rael(レエル)が実はReal(現実)のアナグラムであること、ショージ・マクドナルド原作の「リリス」からの引用、哲学的な部分もある自己探求の物語、とコンセプトは英国ならではのものです。そう言った部分を抜きにしても音楽的にすぐれたアルバムです。このアルバムを2枚組で作成する事を企画した事も英断だったのではないかと思います。


 最終曲「It」で主人公があらためて認識する「それ」。「それ」は全ての事象の根源にある「生きる」というベクトルなのだろうと思います。