「イノシン」が脂肪燃焼を促進する働きを持つことが、ドイツのボン大学の研究で明らかになり、2022年7月の「Nature」で発表されました。

 

通常、普通の脂肪細胞はエネルギーを蓄えますが、褐色脂肪細胞はエネルギーを熱として燃焼させ、体温を維持したり、活動エネルギーに換えて脂肪の消費を促進します。残念なことに褐色脂肪細胞の量は年齢とともに減少し、これが肥満やメタボリック・シンドロームなどを引き起こす要因の一つになると言われます。そこで世界中の研究者の間では、褐色脂肪細胞を増やす方法や、褐色脂肪細胞の活性を高めて脂肪燃焼を促進する方法についての研究が数多く行われています。

 

この研究では、褐色脂肪細胞の活性を高めて脂肪燃焼を促進する物質を特定することを目的として進められ、イノシンが特定されました。研究者らは、ストレスを加えた褐色脂肪細胞がイノシンの一種である「プリンイノシン」を大量に分泌することを発見しました。さらに興味深いことに、ストレスにさらされて死にかけている褐色脂肪細胞から大量に分泌されたプリンイノシンに反応して、健常な褐色脂肪細胞が活性し、脂肪燃焼が促進することがわかりました。
 
さらに褐色脂肪細胞のまわりの白色脂肪細胞もイノシンに反応して「褐色化」することも発見しました。高脂肪食を与えたマウスにイノシンも一緒に与えると、イノシンを与えなかったマウスに比べて痩せたままであり、血糖値の上昇も抑制されていることが確認されました。
 
この研究グループは、900人の遺伝情報を解析して、イノシントランスポーターの活性が低い遺伝的特性を持つ人は、そうでない人に比べて痩せていることがわかり、イノシンがヒトの褐色脂肪細胞の熱産生にも関係している可能性があることを突き止めました。研究者は、この発見が、イノシントランスポーターの活動を妨げる物質が肥満の治療に適している可能性を明らかにしたと述べています。
 
イノシンは鰹節や肉類に含まれている「うま味成分」としても有名です。実はこのイノシンは、酵素の働きによって、カツオやマグロ、鶏、豚、牛などが死んだ後の肉が酵素分解されてできるものです。
 
【出典】 Birte Niemann et al. Apoptotic brown adipocytes enhance energy expenditure via extracellular inosine. Nature, 2022 DOI: 10.1038/s41586-022-05041-0