「……、」
路地裏。嫌な空気が流れるこの場で一人の女性が両手に拳銃を持っていた。その前では大量の血を
流した男性が倒れている。
「ヒロミ。お前は…」
腰につけているケースに入っているループからアバターの声が聞こえる。ヒロミと呼ばれる女性は拳銃
を片側にあった焼却炉に微笑みながら投げ込むとその場から立ち去ろうとする。
「『トルネマン』、『美田 煉(みた れん)』、共にゲームオーバー。これで残るは私を含めて4人」
ゲーム開始からわずか1日。一人のゲーム参加者が殺された。
休日。いつも通り自宅警備に励む上谷 大介。デスクトップを使用して掲示板を閲覧している。
「大介。いい加減休日の過ごし方を見直したらどうだ?」
デスクトップの隣の充電台に設置してあるループからフリーズマンの声が聞こえる。マウスを動かしな
がら、
「平日はちゃんと大学行ってるから問題なし。どうせ卒業したら科学省に行くことになるし」
言葉の後にあくびをする。
しばらくして。ループがピピッ、と音を鳴らす。メールを受信したようだ。
「大介。メールだ」
「はいはい」
マウスから手をはなすと、充電台からループをはずして受信したメールの本文を読み上げる。
「…、桐谷からか。えっと…、『伝えておきたいことがある。極力インターネットへアバターをゲートインさ
せるのは控えろ。ゲーム参加者に遭遇したら自動的にゲートアウトのコードをロックされてしまう』、だっ
てさ。ということで、フリーズマンはしばらくインターネットには行けないね」
ループを充電台に再び奥と、マウスに手を置く。
「用事がない限り、どっかの誰かさんみたいに無意味にインターネットを使用することはない」
上谷をチラチラ見ながら言う。俺の事か、と心の中で思うと
「すいませんね、無意味に使ってて」
と、逆切れした時のような声でいう。
「全く、どうにかならないかね」
一夜明けて。上谷は大学の敷地内に入り、室内へ向かっていた。途中何度か周囲を見渡す。
「大介。何故さっきから周囲を警戒している」
「今日、大学でゲートインしなきゃならない授業があるんだ。その時にシンボル所有者に見つかったら大
変だろ?」
フリーズマンは適当に頷いて黙ってしまった。午前9時から10時。この時間に何も起こらなければいいと
思っていた。
「見つけた。上谷大介。この場所を使って上手くシンボルを壊す…!」
木の陰で上谷を見張っていた女性がループを見ながら言う。ヒロミだ。
「お前、自分が何をやっているのか分かっているのか!?」
ヒロミの言っていることに反発するアバター。どうやら、彼女のやり方が気に食わないようだ。
「あなたのわがままと、私たちの目的、どっちが大切かよく考えなさい。それにね、どのやり方を取ろう
が最終的には死人が出ることになるわ」
アバターは舌打ちをして黙った。ヒロミはループをしまって、横に置いていたバッグを片手で持つと別の
場所へ移動した。
授業が始まった。内容は各地で使われている、「トップサーバー」についてだ。トップサーバーとは各地
に散らばるサーバの親となって各サーバーを管理、そして信号を出して指示をする。コンピューターで言うと「マザーコンピューター」だ。しかし、トップサーバーには欠点がある。それは、トップサーバーとサー
バーが連動していることだ。トップサーバーで起きた被害は各サーバーにも被害が伝わり、サーバー内
部で被害が起きる。
授業中、上谷は説明を耳に入れるようにしてノートに落書きをしている。
(しっかり聞いてないと、後で後悔するぞ)
フリーズマンは小声で正論を言うが、上谷はそれを無視して落書きを続ける。フリーズマンはため息を
ついて説得することをやめた。
「えー、この大学で使われているトップサーバーは、各地にあるものと同じタイプで、大学にあるすべて
のサーバーの親となっている。言ってしまえば、トップサーバーが乗っ取られればこの学校を乗っ取られ
たも同然と言うことだ。それでは、今日はトップサーバーにアバターをゲートインさせて実際にどういうも
のなのか見てもらおう」
面倒くさそうに、ループを取り出して机に接続されている「アダプタ」に赤外線を使ってアバターをゲート
インさせた。
(シンボルを破壊されないように、な)
心で呟いて、フリーズマンをゲートインさせた。
トップサーバーの中は数字だらけで見ているだけで頭が痛くなってしまうほどだ。フリーズマンは一人で
数字を眺めている。
「一人か」
嫌味ったらしく上谷に言われる。フリーズマンはあきれた顔で、
「少なくとも、お前より交流している」
と、言い返す。その後、中央部の柱に近づくとあるものが目に入った。何かが光っている。
「あれは…。上谷、ちょっといいか」
「あ、うん」
珍しく画面に集中していた上谷は普段から持ち歩いているバッグからキーボードを取り出して、ループ
に接続すると解析を始める。この程度の解析なら、わずか5秒で終わってしまう。
「えっと、!」
突然表情を変えると、上谷はフリーズマンに向けて強制的にコードを展開させてゲートアウトさせた。突
然戻されたフリーズマンは上谷にあたる。
「おい! 何だよ突然!?」
「…、あれは最近開発された『オール』と呼ばれる、電脳世界にいるアバターに無理やり…」
ドゴォン! 言葉が途切れた。大学中にこの音が響いた。上谷はその瞬間何が起こったのか、各机に必
ず置かれているモニターですべて見ていた。
アバターの体からdreamがはみ出して見えた瞬間、爆発して消えてしまった、これが同時に起きたため
大きな爆音になってしまったのだ。
「あのままいたら、俺も…」
考えただけで鳥肌が立ってしまう。さらに今度は、部屋にある機械から火が出て燃え広がっていく。
原因は爆発時にできた膨大な情報量をコンピューターがすべて処理をしようとしてオーバーヒートしてし
まったことだ。
「…、できるだけ大学内で逃げ回ったほうが…」
上谷がバッグを持って立ち上がると、室内から飛び出した。走っている途中。フリーズマンが、
「大学内にいたら危ないぞ!? すぐに敷地外に出て…」
と上谷を敷地外に出そうとする。しかし、
「俺はシンボル所有者。他の所有者に狙われている可能性は0ではないんだ。こんなのが各地で起こ
ったら大変だろ!? だから俺は敷地内で逃げ回ってんだよ!!」
爆発の中、上谷はひたすら走っている。
「見つけた。上谷大介…」
上谷が走って向かっている先にある木の陰から、双眼鏡を使って上谷を見ている。
「こんなことのために、何でこんなに死者が出ているんだ…」
「今までもあったでしょ? まだましなほうよ。…、では行きましょうか」
どこからかナイフを取り出して、上谷が走ってきたところにいきなり飛び出す。
ナイフを持った女性を見た上谷は急ブレーキをかけて、急いで引き返した。ヒロミはそのまま走って向か
ってくる。
「ま、まさかあいつ…、シンボル所有者か…?」
走りながら呟く。再び室内に戻って中をひたすら逃げ回る。
「大介。この学校はトップサーバーがあるんだろ? だったらそこに俺を送りこめ。トップサーバーとサー
バーは連動している、 だったらトップサーバーでセキュリティを展開すれば、各サーバーでもセキュリテ
ィが展開されてオールを止めることができるはずだ」
オールを止めてしまえば、爆発のもとになっているdreamも同時にデリートできる。フリーズマンはこう考
えた。
「わかった。じゃあ、俺はお前を送り込んだらすぐに走って逃げるからな」
フリーズマンがうなづいたのを見ると、上谷は自分の机に向かった。
ヒロミも走りながらループを取り出してアバターと話す。
「……、トップサーバーにゲートインさせる気ね。こっちも行くわよ」
「し、しかし…」
「いいから。トップサーバを使えばどうとでもなるわ」
アバターは黙った。ヒロミはループをしまうと、走ることに集中した。
(必ずゲームに勝利する。そうすれば、ヘイトを…!)
机の前。アダプタ経由でトップサーバーにアバターをゲートインさせる。
「フリーズマン。爆発の原因となっている『オール』があるのはここだけだ。ここをどうにかすれば他のサーバーも元に戻…!」
ガガンッ! 銃声が響いた。上谷はしゃがんでフリーズマンに再び話しかける。
「俺はあの女から逃げてるから、終わったら自分でコードを展開してループに戻ってこい」
「…。死ぬなよ」
一言残して、フリーズマンはトップサーバーの電脳の奥へと進んでいった。
(……、どうすれば…!)
銃声が聞こえたということは、近くにいるということだ。今、迂闊に移動すれば確実にやられてしまう。ル
ープをしまって、警戒しながら部屋を出ていく。
なんとか見つからずに出れた。これだけで汗をびっしょりとかいている。
(もしもの時に、俺も何かあれば…)
何か役に立つものをと思い、上谷はひたすら走り前あるはめになる。
「……、フリーズマンをゲートインされたわ。こちらもあなたをゲートインさせるから、フリーズマンをデリー
トしなさい」
「……ッ」
アバターの返事も聞かないまま、ヒロミは上谷が走り去って行ったあとに部屋に入り込むと近くにあったアダプ
タにアバターを送り込んだ。
「いい? フリーズマンをデリートすれば上谷大介も死ぬわ。くれぐれもデリートされないように」
そう言い残すと、ループをしまって上谷を追いかけに行った。
トップサーバーの電脳の中。アバターは上を眺めてしばらくボーっとしていた。
(こんなことのために、俺は…ッ)
電脳内部。柱に設置してあった「オール」をすべて破壊し、上谷に連絡を取ろうとするフリーズマン。しかし、何
故か繋がらない。
(…おかしい。ここの敷地内には電波状況が悪くなるような場所はないはず。…! まさか!?)
後ろを振り返ると、左手をドリルに変形させたアバターが立っている。
「お前、まさかあの女の…!」
「フリーズマン、情報通りだな」
トルネマン。右手に握っていたプログラムを腰のあたりにつけて、近づいてくる。おそらく、あれが電波状況を歩く
している原因だ。フリーズマンも拳を構えて態勢を整える。
(できればデリートはしたくない。でも、この状況じゃデリートしないとこちらがやられる…!)
「…ッ」
ビュンッ。突然始まった。足で地面を思いっきり蹴ったトルネマンはそのままドリルをフリーズマンの顔面を狙っ
た。フリーズマンは腰を下げて、片手を地面につけ足を広げると、ぐるりと一回転をし転ばせようとした。だがタイ
ミングよく飛んだ相手は、ドリルを猛スピードで回して下へ落下してくる。
「速いッ!」
思わず言葉を出してしまうほど速い。足で地面をけって後ろへ下がると、拳を少し大きめのバスターに変形させ
て連射を始めた。丁度落下してきた相手はドリルを手に戻して左手を地面につけて体を支えると、一瞬だけ足を
地面につけて再び上空へ上がっていってしまう。
「何度も通じるとでも思ったか!?」
バスターを撃つ方向を相手に合わせて連射する。トルネマンは両手で守りを固めるが、バランスを崩して地面に
墜落してしまう。
「ッ!?」
フリーズマンはバスターを拳に戻してトルネマンが落下した場所へ走って突っ込む。そして、上を向いて倒れて
いるトルネマンのマーク部分を狙って殴ろうとする。しかし、
「!?」
左手で軽々と押さえられてしまう。そして、今度はこちらが飛ばされてしまった。背中から落ちて、強打する。顔
をあげて、トルネマンを見るがすでに立ちあがって左手をドリルに変えていた。
「その程度で、俺は倒せない」
大学敷地内の西側にある倉庫前で、上谷は道具を探していた。
「…、!」
何故か、倉庫にはナイフが入っている。
これを持って、相手を切ったら俺は犯罪者になるのではないか? しかし、逃げてばかりではやがてこちらが
殺される。頭の中がゴチャゴチャしている。
「ここにいたかー」
のんびりした声が背後から聞こえた。振り返ればもう数メートルのところにたっていた。彼女はマシンガンやナイ
フ、さらには多数の小型爆弾を持っている。
「…、テロリスト?」
「まあ、ここは日本だし多少の武器しか使わないが、誰であろうがかかわった人物は一人残らず抹消する」
このままでは、確実に殺される。殺され、ゲームに敗北する。何を優先すべきか。法律か? 自分の身の安全
か? 迷った末に、出た結果は…、
「そんなもんで私を殺せるとでも?」
上谷は倉庫からナイフを取り出して右手で握る。上谷の体は震えていた。
「お前みたいな一般人に、私を殺せるかよ!」
急に目つきを変えて、マシンガンを連射し始めた。倉庫の陰に隠れて、深呼吸をする。しかし、いつまでもここが
安全というわけではない。相手は近くにいるのだ。次第に近づかれ、殺される。
(…、どうすれば)
その時、同時に二人のループにノイズが入る。確認すると、シンボルが文章の書いたファイルを開いていた。内
容は、ある一定の力を手に入れられるとのこと。しかし、これはランダムだ。何が手に入るかは使ってみなくては
わからない。
(…頼む!)
しかし、データを展開しても何も起こらない。一方、相手はループを武器にセットすることで、特殊な攻撃ができ
るという『武力展開』を手に入れる。
「ハハッ! お前のは役に立たない力のようだな。今すぐにでも殺してやるよ」
マシンガンにループをつなげて、連射する。すると、
ドゴォン! 威力が異常だった。頑丈なはずの倉庫を一瞬で半壊させてしまった。相手は連射をしながら笑っ
ている。
上谷は自分の手に入れた力がどのようなものなのか確認するためにシンボルの詳細を急いで確認する。どん
どん読んでいき、一番下にそれはあった。
「ハック…?」
ループを手に持って操作をするとデータが展開された。すると、ヒロミの近くにあった機械が突然爆発した。耳を
両手でおさえて、下を向いて爆風を避ける。
「何なんだよォ!?」
顔を上げると、倉庫から離れてこちらを睨みつける上谷の姿が見えた。先程とは態度が全く違う。片手にはナイ
フを、片手にはループを持っている。
「なめやがってぇぇぇええええええええッ!」
人が変わったかのような口調で叫び、ナイフを強く握って突っ込んでくる。上谷は左側に避けてもういらなくなっ
た端末を投げつけて爆発させた。
手を顔の前でクロスさせて守ったようだが、そこ代わりに腕から血が流れる。上谷を見ると、こちらを睨みつけて
まるで別人のように見える。
「『サイバーハック』」
「サーバー、電脳、すべて完璧にそろった。ここが、新たな集会所だ」
くらい一軒家で一人の男性が呟く。早速、適当に手に入れた裏の人間のメールアドレスを入力してメールを一
斉送信する。
「……、? アバターのアクセスを確認」
デスクトップにマイクを接続し、愛用の音声ファイルを展開してアバターに喋りかける。
「…、『リバイバル』か。珍しいな、お前がこんなところに来るとは」
「質問したいことがあるのだが。このメールを送信したのはお前だな?」
誰もいない空間でリバイバルはメールデータを展開する。
「そうか。このメールアドレスはお前のだったのか。では話は早い。ゲームに参加しろ」
「…、何が目的だ」
表情を変えた。拳を強く握っている。
「目的、次第に分かるさ。さあ、どうする? 参加するのか、しないのか?」
「……、くそッ」
ゲームに参加しなければここで排除され、参加すればとりあえず今は安全を確保できる。どちらの道を取るの
か、すでに見えていた。
「分かった、参加しよう。だがさっきの質問の答え、聞かせてもらうぞ」
「そうか。では、明日再度メールを送信する。指定された時間に再びここに来い。今から、何人か客が来るので
な」
「…、まだいるのか?」
あきれた顔で聞く。少し間を空けて、
「5人では足りなくなった。お前を含めて『5人』追加する」
5人の追加メンバー。参加するか、しないか。答えによって、その者の未来は変わる。