フレデリック・ブラウンの「不吉なことは何も(The Shaggy Dog And Other Murders)」(越智敏弥訳)を読みました
元々は「復讐の女神」という邦題で出版されていた短編集が新訳されたもので、タイトルも変更されています
「復讐の女神」という短編の原題は「Nothing Sinister」なので、今回の邦題の方がオリジナルに近いわけですね
さらに、旧訳版ではラストに収められている中編「踊るサンドイッチ」があたかも短編集の中の1つであるかのような体裁になっていたところ、新訳版では短編集とは別の作品であることが形式的にも明示されています
同じ翻訳者による「真っ白な嘘」はものすごくレベルの高い作品ばかりで心底驚かされたのですが、本作品集はそこまでではありません
本来の「不吉なことは何も」パートにおける短編は、軒並み悪くはないものの平凡です
しかし、最後の「踊るサンドイッチ」は別格でした
真面目な会計士が詐欺師の奸計にはまって、殺人罪の濡れ衣を着せられます
犯行前に会計士は詐欺師たちに連れられてナイトクラブ「アンシン・アンド・ヴィク」に連れて行かれて、記憶がなくなるほど酔っ払わせられるのですが、なんと犯行後には「アンシン・アンド・ヴィク」というナイトクラブなど周辺には存在しないということがわかります
罪をなすりつけるための証拠をたっぷりと用意されていた上に、存在しないナイトクラブで飲んでいたという不合理な話をすることになった会計士にはあっけなく終身刑が言い渡されます
そのような状況で、腕利きと評判の刑事が会計士のフィアンセのために再捜査に乗り出すという設定です
あたかもウィリアム・アイリッシュの「幻の女」のごとく、ナイトクラブが煙のように消えてしまったことについての種明かしがとても見事で、素晴らしかった
それもあってトータル的に十分満足できた作品集でした