ローベルト・ゼーターラーさんの「ある一生(Ein Ganzes Leben)を読みました
作者はウィーン生まれの作家・脚本家・俳優とのことで、本作は2014年に同国で発表され、日本では昨年発行されています
これまで全く知らずにいた作者・作品なのですが、集英社の天才編集者である林士平さんがツイッターで言及していたので、早速手に取ることにしました
やはり大正解!
「ある一生」というよりも、むしろ「これが人生だ」という内容なのですが、いかにもドイツ文化圏の作品らしい落ち着いた雰囲気に満ちていて、何かが声高に叫ばれることはありません
しかし、80年にわたる人生が淡々と描かれていく様にものすごく心を揺さぶられることとなりました
主人公エッガーは、幼少期に母を亡くして、1902年にアルプスで農場を営む親せきに引き取られます
不器用で口数の少ないエッガーは、農場主から繰り返される理不尽な体罰によってついに片足が不自由になりますが、身体は丈夫で人一倍力仕事ができるように成長していきます
青年になったエッガーは、村の食堂で働くマリーに恋をします
ここからしばらくのエピソードはとても素敵で、だからこそ別れについて多くを語らない演出がとんでもなく光ります
最後まで何も知らなかったであろうエッガーのことを考えると、胸が締め付けられそうになりました
その後過酷な戦争があり、さらには長くロシアに抑留されるエッガーの人生は、言葉にできないような苦難の連続です
ようやく村に帰った後に自分に体罰を加えていた男がヨボヨボになっているところや、冒頭の意外なエピソードをラスト付近で回収するところはとてもうまい
そのような優れた構成に加えて、全編にわたって抑えた筆致がとにかく絶妙で、読んでいるとなぜだか涙が止まらなくなりました
これは他の作品も読んでみなくては!
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