連城三紀彦/戻り川心中 | 弁護士宇都宮隆展の徒然日記

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くにたち法律事務所@吉祥寺 東京大学法学部卒 東京弁護士会所属(35489) レアルマドリー・ボクシング・小説・マンガ・音楽・アート・旅行・猫などが中心のブログです

連城三紀彦さんの「戻り川心中」を読みました

 

花をモチーフにした5つの短編からなる短編集で、いずれも1978年から1980年にかけて書かれた作品です

 

この間読んだ長編にはかなりがっかりしたのですが(2019-11-16)、今回はどの短編も素晴らしかった!

 

明治から昭和初期という時代設定が連城さんの文章とよくマッチしており、作品の情緒をとても高めています

 

1編目の「藤の香」は、まだ読み書きのできない人が多く、代書屋という商売が成り立っていた時代を背景に、「顔のない死体」というテーマを鮮やかに処理した作品でした


頭から作品にのめり込まされるような味わい深い文章と巧みなプロットに惹きつけられる作品で、本作の中のマイベストかもしれません

 

2編目の「桔梗の宿」は、「八百屋お七」ネタですが、最後までわからせないところがうまい

 

3編目の「桐の柩」は、目的と手段が入れ替わったような殺人の動機が見事

 

また、ひとつ間違えると極めて安っぽくなってしまいそうな男女のねじれた不思議な関係が、本作ではうまく描写されていました

 

4編目の「白蓮の寺」は、幼いころに母が目の前で殺人を犯す様子をおぼろげに覚えている主人公の話

 

果たして母はいつだれを殺害したのか?

 

母の死後に知った真実は主人公の世界を反転させます

 

ラストがタイトル作の「戻り川心中」

 

2人の女性と心中未遂を起こした末、2件目の3日後に自害した大正期の歌人苑田岳葉を主人公にした作品です

 

苑田が2件の心中未遂事件後に発表した2つの歌集は、いずれも事件を題材としたものになっており、苑田は天才の名をほしいままにするようになるのですが、そこに隠された謎とは何か?

 

これも目的と手段が入れ替わったような主人公の逆転の発想が非常に面白く、評判になったのも納得の作品です

 

こういう芸術至上主義みたいな内容は、非日常的でとても好みですね