白井智之さんの連作短編集「お前の彼女は二階で茹で死に」を読みました
茹で死にという死因の意外性、二階でという状況の不可解さ、お前の彼女と突き付けられる絶望感、めったにないほどの素晴らしいタイトルです!
好書好日というサイトでのインタビューによれば、「ジャック・ケルアックとウィリアム・バロウズの共著に『そしてカバたちはタンクで茹で死に』という本があって、もじったらいい感じになりそうだなと。僕は『ミミズ人間は便所で茹で死に』にしたかったんですが、担当さんが「そんな本は絶対買いたくない」というので変更しました。自分一人だとついやり過ぎてしまうので、担当さんの冷静なジャッジにはいつも助けられています。」とのことです
うん、これは担当さんの判断がよかったですね!
白井さんのアイデアは各短編のタイトルにしっかり残されていますし
さて、本書の内容ですが、ミミズ人間・アブラ人間・トカゲ人間などの生理的嫌悪感を煽りまくる特殊設定や妹の復讐に燃える刑事による暴力全開という邪道展開でいながら、それらの条件をいかし切った端正なロジックが終始張り巡らされています
また、連作短編という形式にしたことが大成功を収めています
この作風だと長編はさすがに少しもたれてしまうところがあるのですが、短編だと切れ味とのバランスの良さが素直に楽しめます
さらに、連続して登場するキャラクターには自ずとなじみが深くなるものですが、そこを逆手にとってくるところも良かったです(天才女子高生探偵マホマホの扱いが特に素晴らしかった)
もちろん、本作最大の目玉は、なんといっても多重解決の推理が分岐するポイントについて非常にオリジナリティに富んだ工夫がなされていることです
詳しく書くことはネタバレとは別の意味ではばかられますが、これは本当にお見事でした
あと、個人的にツボにはまったのは、赤ん坊の行方が分からなくなった後で、河原でシジュウカラなどの鳥についばまれているボロボロの死体になって発見された際に、登場人物の1人が「不思議だ。どうしてこんなところに」とつぶやいたことに関する種明かしです
「きちがいじゃが仕方がない」ばりのミスリーディングぶりがとても好みで、ドストライクでした
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