町田康/町田康講演会・井伏鱒二の笑いと悲しみ | 弁護士宇都宮隆展の徒然日記

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くにたち法律事務所@吉祥寺 東京大学法学部卒 東京弁護士会所属(35489) レアルマドリー・ボクシング・小説・マンガ・音楽・アート・旅行・猫などが中心のブログです

不器用な登場人物が考えにふけり、どこか自虐的な笑いを生むという点では、作品に共通点がみられる町田康さんの講演会に行きました
 
6つのテーマに沿ってお話しがありました(以下はすべて私なりのまとめです)
 
(1)惹かれたきっかけ
若いときに友人宅で手に取ったのがきっかけ。「珍品堂主人」が最初。つげよしはるさんの世界観に似ていると感じたが、井伏作品の方が先であることもあって、好んで読み進めることになった。作家になる直前にはかなり読んでいた。
(2)惹かれたポイント
井伏作品の「屈託」に自分を重ねていた。ミュージシャンとして世に出た後、3年ほど何もできていないと評される時期(土中三年時代)があり、ちょうど世間的にはバブルで、バンドブームも来ていたので。
(3)なぜ惹かれたのか
「屈託」の前提や設定をくどくど示さずに、言葉そのものに「屈託」が表れているところ。
(4)文体・文章の特徴
ストレートでなくカーブ。とにかく曲げてくる。曲げてからもさらに曲げてくる。そのことによってアップビートなのかダウンビートなのかはっきりしなくなり、滑稽さともの悲しさが生まれる。具体例として「ジョセフと女子大学生」。
(5)曖昧に語られること
当時はプロレタリア文学が圧倒的売れ線で、売れるために左傾化した作家も少なくなかった。井伏鱒二本人の思想傾向はともかく、そのような周囲の姿勢には批判的だったのではないか。「ジョセフと女子大学生」で教授が女子大学生を叱ろうとするシーンは、実はそのような意図も込められていたのではないか。
(6)今、井伏作品を読む意義
プロレタリア文学や私小説が発声する、絶叫するスタイルであったのに対して、井伏作品はあえて息を吸い込むようなスタイル。時代の空気に染まらなかった姿勢の大切さや、それを宝探しのように読む楽しさがある。
(質問コーナー)
町田文学に与えた影響についてお尋ねしたところ、井伏作品は引き算スタイルであるのに対して、ご自身の作品は大阪出身ということもあり、足し算スタイルであって、影響を受けたというよりも憧れであるとのお答えをいただきました。非常にわかりやすい例えで、共通点と相違点が腑に落ちました。
 
大磯読書会(2018-03-24)に続いて、とても有意義な講演会でした
 
またの機会があれば駆けつけたいですね