昼間は包丁。夜はパソコン。
あたしは毎日怒鳴られながらも、経営改革にますますのめり込んでいた。
社長は「魚」の腕が一流でも、経営手腕はあたしに軍配が上がるんだ。
社長の反論をどこ吹く風で、ちゃっかり「世界最高の魚屋さん 愛澤」のHPを立ち上げてみたり、通信販売はもちろん、ママさん向けの「カツオちゃんの刺身講座」を主催したり、「愛と夢のカツオ物語」なんていう広報まで作ってばらまいて、今や商店会の風雲娘とまで噂されるようになっていた。
刺身講座では、「魚の扱いは一流」の社長も「ママさんの扱いは小学生以下」で、あたしはサポートで同行したはずなのに、社長を差し置いてママさん達の手取り足取りを始める始末。
講座のあとには決まって「すこしはイソノくんを見習え!」と社長を怒鳴る「看板娘」
それに対して「お前もあいつにそっくりだ」と背中を丸める社長。
担当直入ではないけれど、少しずつ「おかあさん」の話題も、するようになった。
そうそう、ブログも始めたんだ!
あたしは今まで近づきもしなかったんだけれど、「新港魚市場」のすぐ脇には「オーシャン・シャーク・ミュージアム」なる観光施設が隣接されていて、「カツオ・サンマ水揚げ・ふかひれ生産日本一」を掲げる港町の歴史や概要を勉強できる資料館をはじめ、鮫の生態系を堪能できる「シャーク博物館」、マイナス20°の世界「氷の国の水族館」、ほかにも「漁船体験館」「鮫皮製品物産展」などなど、とにかく興味深いんだ!これが。
もちろんその「ミュージアム」にはお寿司屋さんや海鮮料理のお店が立ち並んでいて、鮮魚販売ブースや海産物コーナーの中では「ふかひれ」を使ったソフトクリームやハンバーガーも楽しめる、地元住民も必見の観光スポット。
あたしはお店が休みのたんびそこに通い、デジカメでそれらの写真を撮りまくってブログにUPをしまくった。
その他にも魚市場や漁船の風景、新鮮な魚をタイムリーに発信する内容は観光客にも好評で,、さすがに「ブログを見て来ました」と「相澤魚店」に来訪した観光客さんにはびっくりしたけれど、「せっかくだから」と歴史ある「魚浜商店会の見どころ」を案内する「看板娘」には、会長さん以下、商店会連中も社長もあきれていたっけか。
荒波のような「海の男達」の扱いにもだんだん慣れて、「魚市場の四天王」や「氷屋の暴走貴公子」、「箱屋のポパイ」からの熱烈プロポーズにも「今度の飲みにきてね~♡」とか「大人になってからね~♡」とか「それは秘密だよ~♡」とか愛嬌を振る舞えるようになっていた。
無論、彼らの質問の中身は、ここでは言えないから、テキトーに想像をしていただきたい。
ある日。
あまりに忙しいから「看板娘」は社長に聞いてみた。
「やっぱり刺身講座なんてやめようか?」
一応親父を心配する娘。
「それなら一人雇おう」
珍しく前向きな発言をする社長。
「そんなに無理しなくていいよ」
心配したあたしがバカだった。
「カツオちゃんて響きも悪くない」
初のモテ期を喜ぶ親父。
ウキエさんも出席しているのか?
そのうちカオリちゃんと再婚するとか言い出すなよ。
それも悪くないと思える、今日この頃。
ある平日の朝。
あたしはいつものように朝ごはんの片づけをしていた。
今朝のメニューはサンマの塩焼き。それも2週間連続。
さすがの親父も「見たくない」と言って残しちまった。
不覚にも、今やあたしの大好物となり、ネットで栄養価と生態系まで調べる始末。
港町の公式HPに堂々と掲げられている、
【サンマ水揚げ日本一】
の文字を眺めて、自分の生まれた街に感謝した。
「美味しいサンマの口説き方でもブログに書こうかな~♪」
そんな事言いながら、フンフン新聞を眺める。
一面の見出しにでかでかと
【サンマ水揚げ好調・今期最高】
ヨシヨシ♪
新聞をめくる。
【目指せベスト4!青南の快進撃】
‐主将遠藤・4トライの活躍‐
ヨシヨシ♪
「………」
…何がヨシヨシだ。
「すみません。社長。今日はお休みさせてください」
「世界最高の魚屋さん 愛澤」に勤めてから、初めて口にする、休暇希望。
社長は少し驚いたけれど、訳も聞かず、「ゆっくり休め」と、言ってくれた。
あたしはそれから、ゆっくり2階に上がり、ベッドにうつ伏せになる。
カツオをさばいている時も、サンマを焼いている時も、いつだって、頭の中では同じことを考えていた。
「みんなにも食べさせたい」
「みんなにも教えてあげたい」
「チビ助、ユッキー、あっちゃん、ユウコ、シュウ坊…。あんたたちに食べさせたい…」
「若菜、糖分ばっかじゃなくてDHA摂れよ…」
「みんなのために…」
「大輔にのために、やってあげたい…」
「………」
…今、あたしができることはなんだ?
…こうして布団にふせって泣くことか?
…考えろ。「退学届?」「退部届?」
紙切れの問題じゃない。
精神論だ。
「ONE FOR OLL OLL FOR ONE。 俺が「夢」と同じくらい好きな言葉なんだ」
大輔の笑顔が浮かぶ。
「ひとりはみんなのために みんなはひとりのために いい言葉だろ?」
…本当にいい言葉だよ。
「ひとりはみんなのために みんなはひとりのために」
「あたしはみんなのために みんなは、…みんなは?」
こんな不良なゼネラルマネージャーのために、誰が動いてくれるんだ?
…こんなあたしのために。
…あたしはみんなを裏切った。
…みんなの「夢」を踏みにじるコトをした。
…どんなに償っても、過去は消えない。
「俺は「夢」を叶えたい」
…大輔…。
…飛び起きて、パソコンの電源を立ち上げる。
…急いでインターネットに接続する。
「修英学園高等学校ラグビー部」のHPを睨みつける。
大輔、あたしがあんたにしてあげられるのは、一緒に「夢」を叶えることだ。
たとえそれが、グラウンドの片隅じゃなくても。
それから丸5日間。
あたしは、「看板娘」を休業した。
「打倒修英の道」を、なんとしてでも完成させなくちゃならない。
試合は今度の11月8日、日曜日。午後1時キックオフ。
カレンダーを見る。今からじゃ10日も時間がない。
「修英学園高等学校ラグビー部」
この名前は、一生忘れない。
思い出す。
―――春の高校総体。
まだ“新入部員”だったあたしは、パソコン打ち込みながら思わず指の操作を誤った。
「赤い天才集団」花園常連は《86―0》という圧倒的なスコアを叩いて3回戦に出場を決め、そのまま当然のように優勝。
「蒼い伝統」青南は「遠藤のワンマン」と吐き捨てられて、2回戦で姿を消した。
あたしは今でも忘れられない。
うるさいだけのデブ、デカいだけの根性なしとユッキーとあっちゃんを笑い、マーちゃんとユウコはトタン板にもならない、松岡拓実?そんな奴いたか?と試合会場の外で聞こえよがしに笑っていたあいつらの顔。
大輔はあの時、それに気づいていたけれど何も言わなかった。
大輔は目を真っ赤にして「本気の目」をして西の空を見ていた。
「夢」の方角。
花園の方角を静かに見つめていた。
後半から出場したチビ助は、素早いだけのチビガリ君とバカにされて、ヘトヘトだったくせにひとり隠れて筋トレをしていた。
そのうちに大輔、ユッキー、あっちゃん、ユウコ、拓ちゃんとマーちゃん、みんなも加わって。
誰も一言もしゃべらず、ただもくもくと、それぞれに汗を流していた。
あたしはなぜかそれは見ちゃいけない気がして、進路指導室の窓から、真っ暗なグラウンドを静かに眺めていた。
「赤い天才集団」…か。
HPに並ぶ文字を見る。
背番号3…巨神・峰岸徹
背番号4…空中の魔術師・高柳翔吾
背番号7…破壊請負人・藤田貴之
背番号8…華麗なる司令官・緒方慎之介
…FW陣にオールジャパン候補が4人。
背番号10…燃ゆる闘将・大阪悠馬
背番号11…紅の神風・神田隼人
背番号15…鉄壁の巨城・西城鉄平
…BK陣にもオールジャパン候補が3人。
他の選手も、サブメンバーまで県選抜選手が名を連ねる。
総合力、技術、体力と体格、運動能力、その全てが超高校級。
どこを見ても、明らかにレベルが違う。
「背番号10・ 大阪悠馬」
大輔を「ワンマン」と笑った涼しい顔を思い出す。
「赤い天才集団」悔しいけれど本当にその通りだ。
こいつらだって「天才」の裏では並々ならぬ努力をしているはず。
でも、でも、何かがあるはずだ。
あいつらだって、「伝統の青南」だって、死にもの狂いで闘ってきた。
「勝ちにこだわる執念」
「絶対にあきらめない精神」
この半年間、「花園へ」を合言葉に、必死で闘ってきた。
青南の武器はなんだ。
「青南高校ラグビー部」のHPへアクセスする。
懐かしい壁紙を見つめる。
あいつらの顔を思い浮かべながら、
選手名鑑を、開く。

―――若菜だ。すぐにわかった。
一人ひとりの身長や体重が、細かく書き換えられている。
戦績も戦況も、こんなに細かく…。
若菜独特の桃色文脈は一目瞭然だ。
一見中学生並の綴りだけど、真心込められた文章だよ…。
あいつ…。パソコンも作文もレポートも大の苦手なくせに…。
他のメンバーに代ってもらえたはずなのに…。
あっちゃんや村上に気遣ったにちがいない…。
BBSや写真アーカイブまで丁寧に更新して、「S・R・F・C伝説11月号」も、きちんとバックナンバーに掲示されている…。
これじゃ徹夜だったろう…。
「夢ちゃん♡何か食べたいものない?」
「…若菜…」
胸がしめつけられて何も食べられないじゃないか…。
千葉、村上、熊谷、佐藤…。
一人ひとりの顔を見る。
ユッキー…。グラウンド目いっぱい走っているね…。
あっちゃん…。ラインアウトの成功率、すごいよ。
ユウコ…。ほとんど零封じゃん。見直したぞ。
拓ちゃん、マーちゃん…。そうか、ちゃんとレギュラー掴んだんだ。さすがだね…。
シュウ坊…。まったく。「青の14」は大原に譲ったくせに、6トライも取るなんて、ホント生意気なんだから…。
「…チビ助!?」
あんた!?またデカくなったの!?
「夢!おかわり!!」
あいつ…。どんだけ牛乳飲んだのよ。
「チビ」って、呼べないでしょうが…。
目頭をおさえて、ページをスクロールする。
総務/ゼネラルマネージャー 相澤 夢 2年
総務/チーフマネージャー 伊藤若菜 2年
総監督/部長 加賀壮二郎
―――キーボードの脇に、大粒の雫が、落ちる。
…みんな、いいの?
……あたしの名前を、削除しなくて。
………あたしはまだ、【青南の戦士】の一員でいて、いいの?
…「退学届」も、「退部届」も、出したでしょう?
2滴…3滴…雫が頬を、つたう。
大輔…。いいの?
あたしはまだ、みんなの「仲間」でいて、いいの?
写真の一枚一枚を、見る。
大輔…。どの試合でも、あんたは「本気の目」で闘っているね。
大輔…。あんたは本当に、格好いいよ。
大輔…。
涙を、ぬぐう。
「………」
―――考えろ。思い出せ。
春の高校総体。DVDで繰り返し見た「赤い天才集団」の動き。
相手も同じ高校生。どんな天才でも、絶対に弱点はある。
一人ひとりの成長幅には、法則性があるはずだ。
攻撃と守備の動きにはクセがあるハズなんだ。
「花園へ」の想いは負けていないんだ。
あの時の「赤い天才集団」を、睨みつける。
「赤の3」峰岸に押し込まれたスクラム。
「赤の4」高柳に届きもしなかったラインアウト。
「赤の7」藤田に吹き飛ばされたBK陣。
「赤の8」緒方に蹴散らされたFW陣。
「赤の11」神田に幾度も突破されたゴールライン。
「赤の15」西城に触れもしなかった「蒼の戦士達」
「赤の10」大阪の代わりにサブを途中投入された屈辱。
唇を噛みしめて、キーボードを叩く。
何か…抜け道は…。
何か…打開策は…。
「………」
……夢を見た。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
…夢の余韻にひたる。
花園ラグビー場の、グラウンドのど真ん中。
大輔が「夢、ありがとう」って、あたしに抱きつく、夢。
ガチガチな筋肉にギュウっと抱きしめられて、あたしもそれを、ギュウって抱きしめた。
大輔は「いい匂いだな」って、髪を優しく撫でてくれた。
あたしはその胸で泣きじゃくった。
大好きな汗の匂いが全身を包み込む。
…大輔、よかったね。大輔、おめでとう。大輔、大輔、あたしは、あたしは、大輔が…
……。
「…俺が、何?」
「………」
―――ん?
「夢、お前、いい匂いするな。シャンプー何使ってるの?」
「CMでやってるサンヨンパだよ♡大ちゃん♡」
言うわけもなく、見事なスクリューブローが、大ちゃんのアゴにキマッた。
ナイストライ。
このあと、あたしがどんな風に大ちゃんを吹き飛ばして、どんな風に嵐を巻き起こしたか、テキトーに想像してくれとは、死んでも言いたくない。
とりあえず、あたしは今、包丁を握りしめている。
「いや~、カツオさんのカツオの刺身、最高ですね~♡サンマの塩焼きも、舌がとろけますよ~。あ、夢、おかわり♡」
…おかわり♡…ぃ? あんた、それ以上食うなっ!!この変態が!!…
包丁を握る手が、ギュウっとなる。
「う~ん、いいね、その食いっぷり。惚れたっ!」
くそ親父も!!なにが惚れたっ!だ!!
愛する娘の部屋に、変態野郎を、「どうぞお願いします」なんて普通入れるか!?
「ん~、あんた気に入った。どうだ一杯♡」
おいヨッサン!未成年に酒なんか勧めるな!
あたしは炊飯ジャーをちゃぶ台に叩きつけて、包丁を突出してそれを奪い取る。
「何、夢。なんでそんなカリカリしてんの?」
「お前、カルシウム足りないんじゃない?」と、とぼけた顔して言いながら、口ん中に突っ込んだサンマを「食う?」って箸であたしに向ける変態。
「…あたしの主食は…トーストにジャムバターだっ!!!」
主食をのメニュー吐き捨てて、包丁を投げ飛ばし、2階にドスドスあがる。
「バタンッ!!ガチャっ!!」
部屋に鍵をかけて、ベッドに伏せる。
何なの一体!!信じらんないーっ!!
やっぱりあいつは変態だ!
毎晩徹夜でヘトヘトになって、疲れて寝ていたあたしの布団の中に、勝手に忍び込んで添い寝するなんて!
「…ん?」
待てよ、あの変態、どうやって鍵開けたんだ…?
窓もドアも、しっかり施錠していたはず…。
「…夢、ありがとな」
背後から声がする。
「………」
――ん?
髪を撫でられる。
―――!?
「あんた…。どうやって忍び込んだっ!!この変態!!」
ベッドから顔を起こして、殴りかかろう…と、した拳を、おろす。
目の前にいたのは、変態な鍵師でも、頭の切れる生徒会長でも、遠藤主将でもない。
あたしが、1日も忘れることができなかった、優しい顔の、大輔だった。
「………」
「夢、ありがとな。コレ」
大輔の手に、しっかりと握られた、「打倒修英の道」のファイル。
「………」
「俺、いや、俺たち、絶対「夢」叶えるから」
「…………」
――――胸に、飛び込む。
優しく、抱きしめられる。
強く、抱きしめる。
「…ごめん。ごめん。大輔…」
泣きじゃくる。
「大丈夫…。大丈夫。夢はひとりじゃない」
今度は強く、抱きしめられて、
「…あたし…あたし…」
さらに強く、抱きしめる。
…ス…っと、腕から、はなされる。
「夢は、みんなの「夢」だ」
あたまのてっぺんに、優しいゴツゴツの感触が、つたわる。
「なぁ夢。俺たち、いよいよ準決勝まで、進んだぞ」
「…知ってたよ…ヒック…1日だって…ヒック…忘れることが…ヒック…できなかったよ…」
「夢のおかげで、青南は強くなった」
「…当たり前だろ…ヒック…あたしを…ヒック…誰だと…」
「あぁ、わかってる。お前は最高のゼネラルマネージャーだ」
「…でも…ヒック…みんなは…ヒック…」
「大丈夫。試合のたんびに、みんな口をそろえて『夢のおかげだ』『夢がいたからだ』って、お前の名前を叫んでいたよ」
「…ヒック…でも…あたし…グス…」
「なぁ夢。聞いてくれ。俺たちはさ、3年間、闘ってきた。でもな、お前が、夢が来てくれてからの青南は、明らかに変わった。勝ちにこだわる執念。最後まで絶対にあきらめない精神。夢の気持ちが、みんなを変えたんだ。これは、俺一人じゃ、できないことだった」
「うッ…うッ…でも…」
「ユッキーもあっちゃんも、ユウにシュウ坊に拓ちゃんマーちゃん。それにコウシも、みんな、64人全員『夢のために勝とう』『夢が帰ってくるまで負けてなんかいられない』って、毎日本当にうるさいんだぜ?」
「…あたしの…ために…?」
「あぁ、みんな、夢が、どれだけ青南ラグビー部のために動いてくれたか、わかっているんだよ」
「…でも…」
「お前ひとりにだけ、つらい思いをさせて、本当に悪かった」
「…でも…それは…」
「…アレ、そのおかえし」
視線が、部屋の隅に向く。
でっかい段ボールが、3つ。
「………?」
「「夢」を叶えるのか、「夢」をあきらめるのか、あとは、夢の、気持ちしだい」
最後にもう一回あたまをポンポンして、大輔は「ごちそうさま」と部屋を出た。
最後は礼儀正しい、遠藤紗江子の愛息子。
段ボールを見る。なんだろう?おいてきたままの荷物かな?
段ボールに近づいて、開ける。
「……」
――――――床に崩れて、泣く。
「俺たちには、夢が必要だ」
でっかいマッキ―で書かれた手紙の下に、大量の署名。
「我が校は全校生徒数480名を誇る…」
校長の話しを思い出す。
ほぼ全校生徒数に匹敵する、名前の数々。
「がんばれよ~青南!!」
500人以上の、保護者や、近隣住民・商店、支援者・OBの署名。
「いつでも連絡くださいね」
クラス全員の名前と、校長、加賀、秋本、教職員全員の、署名。
あいつらだ…。
練習でヘトヘトに疲れているはずなのに。
授業そっちのけで学校中走りまわって、夜遅くまで町中頭下げて廻ったに決まっている。
…みんな。
…もう一つを開ける。
見慣れた桃色文脈の手紙を読む。
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夢ちゃんへ。
元気? 若菜は元気だよ。あのね、夢ちゃん。
若菜やっぱり、裁縫は苦手かも。
少しやり残したから、お手伝い、よろしくね♡
若菜♡
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大量のお菓子と、ピンク色の新品パーカーの下に、見覚えのある布が見える。
青い下地に、黄色い横線。
「蒼い伝統」の、ラグビージャージ。
そして…。
「青の10」のゼッケンと、裁縫箱。
――――――若菜。
「これは夢ちゃんの仕事でしょ?」
指を痛めながら、徹夜でゼッケンを縫い上げる、若菜の声が、聞こえる。
…最後の箱を、開ける。
「S・R・F・C」
見慣れたロゴ入りの、パソコン。
個性豊かな、64人分の字で埋め尽くされた、寄せ書きのバカデカイ色紙。
ユッキー、あっちゃん、ユウコ、シュウ坊、拓ちゃんにマーちゃん、みんな…。
1/4を支配する、見慣れたでっかい文字。
――――――チビ助。
「夢の作った梅干しおにぎりが食いたい!!!」
…大輔の名前を探す。
…無い。
マンガ本やらCDやらアイドル雑誌やら、大量のガラクタの一番に下に、長封筒。
見慣れた綺麗な、文字。
封筒を、開ける。
相澤 夢 様
「俺たちには夢が必要だ」プロジェクト 代表
青南高等学校ラグビー部 主将
青南高等学校生徒会 会長
遠藤大輔 ㊞
あとは、夢の、気持ち次第。
退部届も、退学届も、俺の一任で、受理はさせない。
「ONE FOR OLL OLL FOR ONE」だろ?
一緒に、「夢」叶えような。
県営スタジアムで、待っている。
…大輔。あんた本当に、肩書き多いんだね…。
泣きじゃくって、手紙を握りしめる。
あとは、夢の、気持ち次第。
…あたしは…
一緒に、「夢」叶えような。
…あたしは…
……あたしは……
「県営スタジアムで、待っている」
………でも………