ビジネスに生かす東洋哲学 -57ページ目

禅の効用⑧ 「体に対する効果」-7

平井先生は、睡眠と坐禅との違いを確かめるために、脳波だけではなく、皮膚の電気抵抗の変化(精神電気反射)を観測しました。



そうすると、坐禅中は、外部からの音など刺激に敏感に反応することがわかりました。睡眠中はその様な反応はありませんから、これは、明らかに睡眠とは異なる状態です。




そのうえ、通常目が覚めているときには、同じ刺激を繰り返すとすぐに慣れて無反応になるのに対して、坐禅中は刺激にたいする慣れがなく、常に新鮮な反応をすることもわかりました。




つまり、坐禅中は、睡眠に近い平静な状態を維持しながら、脳活動の新鮮な持続が保たれているのです。これは、まさに、有田先生の言われる「クールな覚醒」状態といってよいでしょう。




さらに、平井先生は、自律神経と坐禅との関係をしらべるため、坐禅中の禅僧の血液を採取して検査しました。その結果、坐禅中に乳酸の量が減っていることがわかりました。




自律神経には、活動型の交感神経と休息型の副交感神経があります。昼間の活動中は、交感神経が大いに働きますが、その分、疲労がたまり、血液中には、乳酸がたまることになります。それが睡眠中に副交感神経がはたいて体の老廃物を除去して疲労を癒してくれます。




健康のためには、交感神経と副交感神経のバランスが取れていることが大事です。しかし、不眠症の人の場合は、副交感神経の活動が落ちて、疲れ切った交感神経がオーバーワークになり自律神経のバランスが崩れているそうです。そういう状態が続けば、うつ病などさらに重大な病気につながるでしょう。




その点、坐禅中は、目が覚めているにもかかわらず、副交感神経の働きが活発になっていることがわかりました。



忙しい現代人にとっては、しばしば交感神経が興奮しすぎる状態が続きがちだと思います。不眠症までいかなくても、良質な睡眠がとれずに、「よく眠った」という感じがなく、朝でも疲労感が残っている方もおられると思います。




そういう方でも、坐禅やイス禅をすれば、副交感神経が活性化して、自律神経の調和がとれます。特に眠る前に、10分~20分程度、坐禅やイス禅をして、副交感神経を刺激してあげれば、良質な睡眠がとれるようになります。




自律神経のバランスがとれて良質な睡眠がとれれば、免疫細胞が活性化して免疫力もアップします。そこで、禅には、自己治癒効果があるといわれるわけです。







次回からは、イス禅の「心に対する効果」について説明いたしましょう。


 

これで、イス禅の「体に対する効果」の説明は終わりです。





























禅の効用⑦ 「体に対する効果」-6

(5)脳波と自律神経への良い効果


 坐禅中の脳波や体への影響については、昭和30年代から40年代にかけて、東京大学医学部の平井富雄先生が世界で初めて詳しい医学的な研究を行いました。その結果は、世界を驚かせました。


 人間が起きて活動しているときは、通常、ベータ波という脳波が出ています。興奮したり、緊張が高まるとガンマ波というより速い(細かい)脳波が出ます。


 目を閉じて心身ともにリラックスするとアルファ波というベータ波よりも遅い脳波がでて、睡眠時には、アルファ波よりもさらに遅い、シータ波やデルタ波が出てきます。


 しかし、緊張してイライラ、クヨクヨしているときは、目を閉じて安静にしても、アルファ波が出ず、ベータ波が出ているそうですから、人間の心の健康のためには、アルファ波が多く出るようにすることが有効です。


 アルファ波が出ているときは、悩みや緊張から解き放たれた安定した精神状態にあるということです。


 平井先生の実験によれば、ベテランの禅僧は、坐禅中に半眼(はんがん)といって目を開けている状態にもかかわらず、坐禅開始から1分程度でアルファ波が脳全体から出ることがわかりました。

 通常ならば、目を閉じて安静にしても、なかなかアルファ波が出ない人がいるのに、禅のベテランは、坐禅中、安定的にアルファ波が出続けました。


 中には、目が覚めているときには出るはずのないシータ波まで出る禅僧もいました。また、アルファ波は、坐禅終了後も余韻としてしばらく残り、中には30分の坐禅のあと5分以上もアルファ波が続いた禅僧もいたそうです。


まったくの坐禅をやったことのない学生に坐禅の方法をおしえて、同じように脳波をはかったところ、ベテランほどではないにしても、ある程度はアルファ波が出ることもわかりました。


また、坐禅の経験年数の異なる人たちの脳波を研究すると、坐禅に熟達するにつれて、アルファ波の出方が大きくなることもわかりました。


つまり、坐禅によって、アルファ波の出るリラックスした状態を意識的に作り出せることがわかったわけです。




禅の効用⑥ 「体に対する効果」-5

そこで、皆さんにお勧めしたいのが、イスに腰掛けて行う「イス禅」です。これは、イスに腰掛けて、足を組まないという点をのぞけば、普通の坐禅と変わりません。


私は、一般的なビジネスセミナーでイス禅の指導をさせていただいておりますが、ほとんどの方が、最初から、かなり良い姿勢で坐ることができます。

セミナーで指導を受けて、後は、毎日10分でも家でイス禅をやれば、1~2週間で姿勢が安定してきます。足がしびれたり、痛んだりという苦痛を我慢する必要もありません。


ただでさえ、ストレスの多い現代人にとって、痛みという肉体的ストレスを感じることなく、セロトニン神経を活性化できるイス禅は、大変良い方法であると思います。イス禅ならば、運動が苦手の方も、毎日、続けることができるでしょう。


イス禅によって、セロトニン神経を活性化できれば、ストレス耐性の強い脳になりますから、うつ病や高血圧、胃潰瘍などのストレスを原因とする病気の予防になります。軽度のうつ病ならば、「太陽の光」と「イス禅」で治るかもしれません。

 


ただし、イス禅だけでうつ病などストレス性の病気を直そうとするのは危険です。イス禅などの瞑想法は、現代医療の代替物ではなく、現代医療の効果を増進する補完的な関係にあると理解すべきです。

もしも、体調が悪いときは、無理せずに、医者にかかってください。


とくに、うつ病の場合は、程度が重くなると自殺願望が出てきますから、無理は禁物です。


夜よく眠れない、食欲不振、自殺願望などがあったら、すぐに心療内科か、精神科を受診することをお勧めいたします。


そこまでいかなくても、インターネットをみれば、たくさんのうつ病情報がありますし、簡単に自分でできる「うつ病チェックリスト」もありますので、「どうにも憂うつで調子が悪い」状態が続くようであれば、それらのチェックリストをやってみるとよいでしょう。


チェックリストの結果、ある程度の高得点がでたら、うつ病の可能性がありますから、専門医にかかることをお勧めいたします。


 専門医の投薬を受けながら、有田先生が勧める「太陽の光」と「リズム運動」をすれば、うつ病の治りも早いでしょう。



 また、禅には、ウォーキングなどのリズム運動には見られない、独特の脳波や自律神経に対する効果があります。スポーツが得意な方が、エアロビやジョギングなどのリズム運動と「イス禅」を併用すれば、さらに効果が高まるでしょう。


 次の項では、平井富雄先生(元日本精神神経学会理事長)のご本をもとに、坐禅の脳波および自律神経に与える良い効果について説明いたしましょう。

禅の効用⑤ 「体に対する効果」-4

(4)最も簡単なリズム運動はイス禅

 じつは、有田先生が推奨する「リズム運動」の中で、最も簡単にできるのがイスに腰掛けて行う「イス禅」であると私は思います。


もちろん、禅の修行をある程度深くやろうと思えば、座布団の上で、結跏趺坐(けっかふざ)や半跏趺坐(はんかふざ)など仏像と同じような坐り方をして、本格的な坐禅をする方が効果的です。


私も、学生時代に人間禅道場にご縁ができてから、ずっと一般的な坐禅をしてきました。また、早稲田大学に学生のための坐禅会をつくって、3年間、毎週、学生に坐禅を指導した経験もあります。


しかし、その経験から言いますと、イス生活が当たり前になった現代人にとっては、坐禅というのは慣れるまでは、かなりつらいものであるということです。

まず、慣れない足の組み方をするだけで、膝やももが痛みます。また、最初はよくても、じきに足がしびれてきて、痛み出します。


もっとも、これには、個人差がありますから、体が柔らかい方は、最初からきれいに坐禅が組めたり、足もあまり痛まない方もおります。

しかし、普通は、坐禅の足をきれいに組めない方が多いですし、組めたとしても、途中から「痛みの我慢大会」のような状況になってしまい、肝心の呼吸に集中できません。


禅仏教では、足の痛みをこらえて、正しい坐禅の姿勢(坐相:ざそう)を手に入れることが最初の修行であると位置づけられていると思いますが、これは、体の固い方にとっては、かなりの苦行です。


さらに、まずいことには、何とか、足を組めるようになったとしても、今度は、足に気を取られて、肝心の背すじが曲がってしまったり、体が左右に傾いたりして、なかなか、きれいな坐禅の姿勢にならないのです。

そうなると、丹田(たんでん)呼吸という坐禅の腹式呼吸が十分にできません。


坐禅によるリズム運動の効果を得るためには、まず、坐禅の正しい姿勢を身につける必要があります。しかし、坐相が身に付くには、毎週のように禅道場にかよって、きちんとした指導を受けたとしても、2か月から3か月程度は時間がかかるように思います。人によっては、半年以上もかかるケースもあるでしょう。その間、足の痛みと戦いながら坐禅をするのは、結構つらいのではないかと思います。


いったん坐相を身につければ、一人で自宅でも簡単にできる坐禅も、坐相を身につけるためのトレーニングに時間がかかるのが難点です。


坐禅を難しくしているのが、実は、結跏趺坐(けっかふざ)や半跏趺坐(はんかふざ)などの仏像のような座り方にあります。



しかし、坐禅で一番、大切なのは「腰骨を立てる」ことです。腰を少し後ろに張り出すようにして、背すじをまっすぐに伸ばす姿勢を維持することで、丹田(たんでん)に良い刺激が加わって、自律神経に良い影響が出るのです。


その点、イス禅は、イスに腰掛けて足を組まないという点を除けば、坐禅と同じ姿勢になりますから、日常的な意味では、十分な効果が得られます。


禅によって深い「悟り」体験を得たいのであれば、禅道場できちんとした坐禅の指導を受けるべきですが、心身の健康のために自宅を中心にやるのであれば、「イス禅」をお勧めします。

禅の効用④ 「体に対する効果」-3

(3)うつ病予防の方法は「太陽光」と「リズム運動」

 有田先生によれば、現代人の多くが、過剰なコンピュータ操作、運動不足、昼夜逆転の生活などにより慢性的なセロトニン不足の状態になっています。

 さらに、不況や雇用形態の変化など経済環境の悪化から、ますますストレスが高まっているために、うつ病もしくは、うつ病予備軍の人が大幅に増えているのが、今の日本の状況です。

 特に企業の中間管理職の方にとっては、決して他人ごとではないと感じる方も多いでしょう。


 有田先生は、セロトニン神経を活性化することで、うつ病の予防や治療に役立つといわれます。そのためには、「太陽の光」と「リズム運動」の2つを推奨されています。

 「太陽の光」については、セロトニンが朝作られることから、午前中に30分程度、太陽がさんさんと降り注ぐ場所で景色を眺めるだけで十分な効果があるといわれます。朝、カーテンをあけて太陽の光を部屋に十分取り込んだり、通勤途中で日当たりのよい場所を選んで歩いたりするというちょっとした工夫で効果が得られるそうです。


 もう一つの「リズム運動」とは、「一定のリズムを刻みながら体を動かすこと」で、最低5分間から30分程度行えば、脳内でセロトニンの放出量が増えるそうです。

 「リズム運動」には、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳、エアロビクス、ダンスなど、一定のリズムを刻みながら体を動かす運動ならば、何でもよいそうです。



リズム運動には激しさは必要なく、「坐禅やヨガによる腹式呼吸」もゆったりとしたリズムによる立派なリズム運動であるそうです。


リズム運動の中では、ウォーキングが最もやりやすいと思いますが、有田先生によると、だらだらと歩くのではダメで、時速5~6キロ程度のスピードで、20分から30分程度行うと効果的ということです。

そうなりますと、2キロから3キロ程度歩く必要があります。また、セロトニン神経を強化するためには、効果が出るまで3か月程度は続ける必要があり、また、その後も、継続しないと効果が得られません。


毎日2キロから3キロのウォーキングは、運動好きな方にとっては、簡単なことでしょうが、体を動かすことが苦手な方や仕事が大変忙しい方にとっては、結構つらいかもしれません。



その点、最も手軽で簡単に誰でもできるのが、「イス禅」による腹式呼吸のリズム運動です。

禅の効用③ 「体に対する効果」-2

(2)うつ病が激増している日本社会

厚生労働省の平成20年患者調査によりますと、うつ病患者は初めて100万人を超え、ここ10年間で2倍以上増加しています。

とくに30代、40代という働き盛りの世代のうつ病患者増加数が大きくなっています。企業の合理化・効率化が進む中で働き盛りの年代の仕事の負担が増えてきていることが関係しているのでしょう。


また、世界的な経済競争の中で、低賃金の中国など新興経済大国に対抗するため、10年以上も家計の平均所得が下がってきていることとも、関係していると思われます。従来の日本的終身雇用が崩れてきて、不況による失業恐怖を多くの人が感じるようになったことも関係あるでしょう。


「頑張って働いているのに収入が増えない」「不況によるリストラや失業を恐れている」という状況になれば、誰でも心が疲れてくるのは当然です。


高度成長期からバブル期までのように、「仕事は忙しくても、その分、経済的に豊かになれる」という達成感や、「会社で出世できなくても、簡単には失業しない」という安心感があればよいのですが、現代は「達成感が少なく、疲労感や不安感が強い」という精神衛生によくない経済状況になっています。

ファイザー製薬が平成20年に実施した一般生活人を対象にしたアンケート調査によりますと、12%がうつ状態にあると回答しておりますので、潜在的なうつ病患者数は、1千万人を超えているかもしれません。


企業の現場でカウンセリングを行っている心理カウンセラーの中には、ビジネスパースンの3人に1人がうつ病予備軍ではないかと考える方もいるようですが、現在の社会状況を考えれば、あながち大袈裟とはいえないように思います。

 

現在、大幅に増加しているうつ病の治療や予防にも、禅は効果があります。以下に有田先生の本に従って、うつ病予防の方法と禅との関係を説明しましょう。

禅の効用② 「体に対する効果」-1

(1)セロトニンとの関係


まず、禅の「体に対する効果」ですが、これについては、脳内神経伝達物質の世界的研究者である有田秀穂先生がセロトニンとの関係を指摘されています。有田先生のご著書から、要点をかいつまんでお伝えしたいと思います。(より詳しく知りたい方は、有田秀穂著『脳からストレスを消す技術』(サンマーク出版)をお読みください。)


 脳には、50種類以上の神経伝達物質がありますが、その中で、人間の意思や感情に強い影響を与えるのは、ドーパミンとノルアドレナリンとセロトニンの3つです。


そのうち、ドーパミンは、脳を興奮させる物質のひとつで、ドーパミンが出ると快感や陶酔感を覚え、「意欲」を高めることにもなります。目標達成のために努力して達成感を味わった時に、ドーパミンが出ることによって、人間は大きな快感を感じます。その反面、努力しても十分な結果が出ず、達成感を味わえなかったときは、快が不快に転じて強いストレス要因になります。


ドーパミンが適量であれば、意欲やポジティブな心の状態になりますが、過剰に放出されると各種の依存症になる恐れがあります。統合失調症も、ドーパミンの過剰放出と関係があるのではないかといわれています。

 

 ノルアドレナリンも、脳を興奮させる物質ですが、ドーパミンと異なり、各種のストレスを感じると放出されて、怒りや危険に対する興奮をもたらします。ノルアドレナリンは、脳を覚醒させ、注意力・集中力を増したり、判断力や積極性を高めます。


ノルアドレナリンも適量であれば、脳に適度な緊張をもたらし、仕事や勉強の能率を上げることになります。半面、ストレスが強すぎて、ノルアドレナリンが過剰放出になると、脳が過緊張になって、恐怖や不安の気持ちが強くなり、かえって脳の機能を低下させることになります。そのため、不安神経症やパニック障害、また、うつ病にも関係していると考えられています。


 セロトニンは、行動には抑制的に働くが気分は興奮させる方向に働くという複雑な物質です。基本的に脳を覚醒させますが、ノルアドレナリンのような激しい興奮ではなく、「クールな覚醒」(有田秀穂、前掲書)をもたらします。


セロトニンが適量に分泌されていれば、ドーパミンやノルアドレナリンの暴走を防いで、脳全体のバランスを整え、心に平静をもたらすものです。セロトニンが過剰放出されると「幻覚」をみたり、不安神経症になったりするようですが、セロトニンの放出量はストレスによる影響を直接受けないため、通常は過剰になることはほとんどないようです。

むしろ、セロトニンが不足することによって、脳全体のバランスが崩れ、うつ病や偏頭痛になることの方が大きな問題です。



有田先生は、現代人は、過度なコンピュータ操作、運動不足、昼夜逆転の生活などにより、慢性的なセロトニン不足の状態にある人が増えていると指摘されています。

そのせいでしょうか、現在、日本では、うつ病が大幅に増加してきています。






禅の効用①ーサマリー

禅の効用を大きくまとめると、以下の3つになります。


1.健康増進効果


良い姿勢で深く静かな丹田呼吸をすることで、深い休息がとれ、心がくつろぎストレス解消になります。その結果、心身の調子がよくなり、健康が増進します


2.自己治癒効果


自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスがとれ、体の免疫力が上がり、自分で自分を癒すことができます。うつ病や胃潰瘍、高血圧などストレスと深い関係のある病気の治療と予防に役立ちます。


3. 自己発見、自己超越効果


坐禅を通して、無意識の世界に関する認識が深まり、普段では気が付かなった「高次の自分」(禅では「仏性(ぶっしょう)」といいます)に気が付くという効果です。


「1.健康増進効果」と「2.自己治癒効果」は、「体に対する効果」であり、ストレスに対する効果といえます。


「3.自己発見、自己超越効果」は、「心に対する効果」で精神性を高める、人間性を深めるという効果です。

まず、「体に対する効果」の内容を説明しましょう。

誰でもできるイス禅のやり方 ⑩ 写真


ビジネスに生かす東洋哲学-イス禅(私です)


イス禅をしている私の写真です。


何となくイス禅のイメージをつかんでいただければ幸いです。


ちなみに、写真では目を閉じているように見えるかもしれませんが、

実は、ちゃんと半眼(はんがん)にしており、薄目を開いて、ぼんやりと畳を見ておりました。




ビジネスに生かす東洋哲学-イス禅(筆者)



誰でもできるイス禅のやり方 ⑨ その他(音など)

音については、静寂が一番です。

うるさい場所の場合は、耳栓をしてもよいでしょう。


気持ちの落ち着く音楽をかけるという方法もあると思いますが、禅道場では一般に行われません。たぶん、音楽は、右脳を刺激するので、かえって雑念が強まるからでしょう。坐禅は、深い無意識との対話ですから、音楽はない方が良いと思います。


もし、どうしても、何か音がほしいときには、森や小川や波や小鳥や虫の音などを収録した自然音のCDを流すとよいかもしれません。

昔から、禅道場は、うるさい街中より自然の中に建てられることが多いので、禅道場で坐禅をしても、自然音はいろいろと聞こえます。

自然の中で気持ちよく座っているイメージが持てれば、それはそれで良いと思います。


以下は、余談ですが、坐禅中に何らかの言葉に心を集中するという方法もあります。

臨済禅の「公案」という禅問答で使う問題などはそれに近いですね。

たとえば、「本来の面目」という公案を老師からいただいたときは、ひたすら「本来の面目はいかん」と公案三昧になります。

「趙州無字(じょうしゅうむじ)」の公案ならば、ひらすら「無(むー)」になりきるわけです。


日常生活の中でイス禅をやるにあたっては、老師から公案をいただくということはないので、「数息観」が一番良いと思います。禅道場でも、数息観がある程度できるまでは、公案を与えないのが普通です。


数息観がある程度できるようになったならば、ときには、何か良い言葉を心に念じる方法を試してみてもよいでしょう。

たとえば、呼吸にあわせて「南無」(なーむ)と念ずるのも、仏教的で良いと思います。

「南無」とは、「帰依(きえ)します」という意味で、「心から信じて、より所とします」いう意味です。仏教を伝えてくださったお釈迦様をはじめとする先人の皆様の智慧を信じ、それに感謝の気持ちをささげる言葉です。


日常のことばでいえば「ありがとう」ですね。これも、大変素敵なことばです。

吐く息にあわせて、自分を生かしてくれている天地万物に感謝しながら「ありがとう」と念ずることができれば、それは、すばらしいと思います。

ただ、意味のある言葉を念ずるのは、そこから雑念につながりやすいので、初心者の方には、数息観が一番良いと思います。

以上で、「誰でもできるイス禅のやり方」の説明は終わりです。