暗い電車の
窓に映る

わたし

あなたが
一番好きといった

あの日のわたしの
ささやかな笑顔

暗い電車の
窓に映る

わたし

あの日のわたしが
笑う
あなたのとなりで
笑うのを

確かに見た

暗い電車の
窓に映るわたし
聞き分けられないほどの声が飛び交う
この世界で

私はいま
何もきこえない

すうっと通り過ぎていく
誰かの声

なにもかもスカスカで
私は透明人間になった

私の体を見つけてください
いや、
私の心を見つけてください

カラッポになった体だけが
歩く
笑う
食べる
寝る

それは生きているといわない


この耳はもっと
生きていた
あなたの声をとらえて
聞き分けていた

この手はもっと
生きていた
あなたの手を握り返す
温かみをもって

この唇はもっと
生きていた
あなたの耳にささやくために
やさしい色をしていた

この魂はもっと
生きていた
あなたのそばにいるだけで
あなたのそばにいるだけで

皮と骨と肉だけのわたし
あなたのまぶたに
私は映る
あの日のままの輝きで



きこえていた

ノックの音

私を呼ぶ あなたの声


傷つくことも

傷つけることも

こわかった


失うことのほうが

果てしない「日常」より

ずっと

こわかった


なのに


耳をふさいでも

私の中から

きこえる

あなたを呼ぶ 私の声




星巡る夜

あなたの手が包んだ 私の手

すべての扉の鍵が開いた音がした



呼んでいた


泣きながら

苦しみながら

ごまかしながら

転がりながら

かっこ悪く

人間らしく

自分をだまして

手を伸ばして

孤独に耐えて

愛してほしいと叫びながら

見つけてほしいと願いながら


呼びあっていた




震える手で

あなたが抱きしめた 私の心

すべての扉の鍵が砕ける音が響いた



その手をつかんで

扉をあける

ふたりの明日はそこにある


出逢う
流れる
毎日の

出逢う
間違いなく
無数に

その幾万の顔の中
流れに背を向けても
手を伸ばしてつかみたい

生きる
その背に
手をあてて

私の持てるすべての
祝福を

流れる
あなたに

生きて
前を見つめて

かならず
報われるから





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あなたの目が何を捉えているのか
あるいは
何も捉えてないのか

知りたいけど
私が邪魔をするから
結局だれも助けられずに
黙って
あなたの左目を見つめる

声にならない声で
あなたは
泣き続けて
叫び続けて

諦めたように笑う
とびきりの笑顔で
笑う

傷だらけで笑うあなた 

 声をあげて
 泣いてよ

たたかうあなたに
呪いをかけたい
役に立たない私なのです






Android携帯からの投稿

あー、あー。

わたしはまだ
何かしゃべっていますか

あー、あー。



こころの口を
ふさいでしまった


からだの口は
よく食べよく飲み
よくしゃべるのに


こころの口は
真一文字に結ばれて

知らぬ間に
しんと
深く


ほこりまみれの古いマイクと
つまらないうた

あれこそ

わたしの声だったのに



あー、あー。
わたしはまだ
何かしゃべっていますか

あー、あー。
マイクテスト、マイクテスト。


どこへでも

行ける



誰もが


自由に

いのちを生きる




望むこころ だけではだめ



この部屋を

叩きこわして

粉々にして

燃やしつくして



振り返らずに歩きだして

一番星がまたたく頃

失くしたものの温かさに

ほんとうの涙を流す



静かな覚悟が満ちるとき



私は私から 旅立つことができる












なんで いつも
朝目を覚まさないといけないんだろう

冷たい水で顔を洗って
すっきり起きて

そんなにして
起きるだけの意味は
果たしてあるのだろうか



なんで いつも
何かを食べなきゃいけないんだろう

よく噛んで食べなさい
消化に悪い
だったら
食べなくていいのに



なんで いつも
呼吸は止まらないんだろう

「息をしてれば大丈夫」
年老いたひとが 呟いた
何が
一体、何が大丈夫なんだろう




ふしぎなこと

たくさんあって
数え出すのもめんどうなほど

疲れない わけがない
怖くない わけがない



なんで きみと
どうして わたしと
出会ったんだろう
当たり前のように
出会ったんだろう



なんで いつも
夜が来るんだろう

「おやすみなさい」

一日を閉じることばを
どうして わたしは
きみだけに
聞かせたいと思うんだろう


どうして わたしたちは
明日を信じて
眠るんだろう


ふしぎなこと
たくさんあって
ひとつずつ解きながら

もつれあって

生きる
ふしぎの国







だめなんだね
わたしは
ふらふらしてたり
そう思う
あなたを
不安にする


だめなんだよ
大切なこと
声にならなくて
飲み込む
泣きながら
見上げる



だめなんだ
だめなんだ
わたし
きれいじゃないから

だめなんだ
だめなんだ
わたし
優しくもないし


だめなんだ
だめなんだ
わたし
黙ってしまう



だめなんだ
だめなんだ
わたし
ほんとうは

だめなんだ
だめなんだ
わたし
ほんとうに


だめなんだ
だめなんだよ
あなたに
ここに居てもらわないと

だめなんだ
だめなんだ、わたし





大きな音が怖かった
きれいだったけど
怖かった

生まれた日から
大きな声で

泣きじゃくっていたくせに


大きなものが怖かった
潰されそうで
こわかった


大人になって



大きな音も怖くない
きれいな花火の
理由も分かる

だけど
消えていく花火は
やっぱり怖い
きれいなものが
怖くなった


照らされたその横顔が
きれいだから

僕は少し怖い



大きくなった この手が怖い

つくりあげては
消していくから

触れてあなたも
消えてしまうかも



今しかないと知っているから
きれいなんだ

怖いくらいに
きれいなんだ


怖いものだらけだ

じんせいは。