大宮BL小説です。
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先にこちらをお読みください♡






和也 43


不意に隣の店の扉が開いたから、慌てて通行人のふりをして通り過ぎる。


その人はサトの店に入っていった。




少し薄暗くて見づらいが…


その人は、中にいた誰かと話をしている。



和「…サト…」



見えたのは…
色眼鏡をかけた、無精髭の男。



それは…



僕が知るサトと。


忘れかけた何かの。


中間にあるような…


知ってるような、少し違うような…


でもやっぱり、サト、で…





やっと会えた喜びと。


サトが間近にいる事そのものへの、現実感のなさ。


僕がずっと抱いてきた恋しさを、知りもしない能天気な笑顔への腹立たしさと…


もう一度出会い直すことへの不安。


いろんなものが入り混じり…



僕はただただ佇んで…

二人のやりとりを盗み見ていた。






不意にさっきの人が扉に向かってくるのが見えて…
僕は慌てて飛び退いた。


急いで隠れた物陰で…


出てきた人がいなくなるのを、息を潜めて待つ。


隣の扉に消えた人影に、ふっと息を吐いた。





その扉を見つめて思う。



ここには…

新しいサトの生活がある。


新しい住まいに新しい人間関係。


サトはもうここで…
新しい人生を歩んでいることを、実感する。




不意にユッチの顔が浮かんだ。




“確かに私は国を追われましたが…
新しい地で、たくさんのものを得た。

そのことに今の私は、支えられている”




サトも…
そうかもしれない。


あの日…
僕の櫛に口付けていたあの日は…

僕のことを思ってくれていたかもしれないが。



でももう今は…

別の人を思い、新たな道を歩んでいるかもしれない。

そうであってもなんの不思議もない。



でも…
僕は…




いつまでも止まったままの僕。


情けないけど…

決して過去にはできない。


今も、現在進行形で…

サトのことだけ、思ってるから…





どちらにせよ、終わりにしなければいけない。


僕も今日から…

新しく、歩き出さないと…






意を決して、ゆっくりと扉を開ける。

薄暗い店内にほんの少し差し込む光。

ギチギチに並べられた骨董の数。

でも、どれも売り物とは思えないほどに、埃をかぶっていた。




扉の開く音に気づいたのだろう。

奥からサトが、現れた。



その姿は、不意に…

僕を過去へと、引き戻した。





城で、何度も何度も…
お互いを貪ったあの頃。


絞められた首に回った手。
同じ手が…
僕の身体を何度もなぞった。


僕の中に何度も放たれた毒虫の、青臭い匂いや….
甘酸っぱいサンザシの味。


ユッチとの再会の涙や…


婚約を知って繋がることを拒まれた、切ない気持ち。


貪るように求められた最後の交わりと…


暗闇の塔で…
ひっそりと見送った蒼い影。



全てが…走馬灯の、ように…





そして。


一瞬にして…



それよりも、もっともっと昔の…



あの、人生で一番輝いていた日のことまでもが、重なった。





そのあとの出来事が辛すぎて、朧気にしか覚えていなかった…

あの日、一緒に過ごした男。



それは…




智「カズナリ…おまえ、なんで」



その言葉に僕は、言った。



和「…盗まれた物を返してもらいにきた」






*次回は本日18時
蓮さん家(智サイド)
です!