ノスタルジア 夏の情景 42 氷 | 文化の海をのろのろと進む

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うしずのです。

 

「ノスタルジア 夏の情景」約一年間中断していました。待って下さっていた方がお一人でもいましたら、その方にお詫びいたします。

 

前回は武達が家に帰って、信一と葉月の二人だけが裏通りに残された所で終わりました。

作中、今の時代にそぐわない感覚や発言がありますが時代設定が昭和なのでお許し下さい。

 

 

 

架空の町の祭りの日の物語。時代はざっくり昭和50年代です。ちょっとノスタルジックな気持ちになって頂けたら幸いです。

 

 

 

ノスタルジア 夏の情景 42 氷

 

 

 信一は葉月の後について裏通りを抜け、大通りに出た。
 そこは別世界の様に明るく、人で溢れていた。色とりどりの提灯の下いくつもの露店が並び、浴衣を着た家族連れやアベックが行き交っていた。仮面ライダーやウルトラマンのお面をつけた子供達がきゃっきゃっと声を上げながら駆けずり回っていた。


 葉月は笑顔で信一の方をふり返ると
「すごいね。さっきよりも人が増えているかも」
と言った。
 信一はニコニコしながら頷いた。やっと祭りを楽しめる。しかも葉月と二人で。嬉しさを抑えきれなかった。
 金魚すくいにりんご飴、射的に綿菓子、水ヨーヨー。色々な店を見ているだけでも楽しかった。


 葉月がかき氷を食べたいと言ったので信一が奢った。葉月は氷イチゴを選んだ。信一も氷イチゴにしたかったが、男が女の子の前で赤い色の物を食べるのはカッコ悪いと思い、氷メロンにした。
 座れる所が無かったので二人は歩きながらかき氷を食べた。
 信一のかき氷はシロップが少なくてカップの下の方は、ただの氷だけが残った。それを葉月に伝えると
「私のも」
と自分の持っているカップを傾けて色の付いていない氷を信一に見せて笑った。信一も一緒になって笑った。大した事では無いのに楽しくて仕方なかった。


 そんな時、後ろから急に声をかけられた。
「おい。星乃、一年生のクセに不純異性交遊とは生意気だな」
 聞き覚えのある声。信一は胃がキリリと痛むのを感じた。振り向くと野球部の意地悪な先輩、北川がいた。いつも北川とつるんでいる小淵と沢井も一緒だった。こういう時に一番会いたくない連中だった。

 


「こ、こんばんは」
動揺を隠せない信一はどもりながら挨拶した。
「こんばんはじゃねえよ。1年坊のクセに女とデートなんてしやがってよ」
「いや、これは、そういうのじゃ・・」
「嘘つけよ。さっき見たぞ。踏み切りの所でお前らくっついてたじゃないか。不潔なんだよ」
そこで葉月が慌てて割って入った。
「違います。あれは私がよろけて・・」
「女は黙ってろよ」
北川に凄まれ、葉月は黙るしか無かった。
「星乃、顔かせよ」
そう北川が言ったと同時に、小淵と沢井の二人が両側から信一の腕を抱え込んできた。
 信一の手から、かき氷の器が落ちて地面に氷が散らばった。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。