懐中温泉です、
長篠の戦い
史実では、武田の騎馬が織田・徳川連合の
鉄砲隊に打ち砕かれた戦い。
教科書にも載る、あの有名な構図です。
同じ場所、同じ条件。
ただし、登場人物と編成は違う。
「同じ状況でも、同じ結果にはならない」
それを証明するような戦にしたい
結はそう考えました。
織田・徳川連合軍。
鉄砲を多数並べ、柵を築き、迎え撃つ陣形。
見慣れた風景です。
一見すれば、有利なのも変わりません。
ですが。
「それ、読まれてるよね」
今回、その陣形をもっともよく理解しているのは
雑賀衆と武田側でした。
鉄砲の強みも弱みも、すでに知っています。
戦が始まります。
まず動いたのは、雑賀でした。
「撃て」
乾いた音が、戦場に広がります。
狙われたのは、織田側の鉄砲隊でした。
前面からではなく、斜めから。
射程と地形を見切った射撃が、三段構えの
末端を少しずつ削っていきます。
「な……!」
織田側の隊列が乱れた一瞬。
「今だ!」
武田の騎馬が走ります。
かつてのように一直線ではない。
散開し、揺さぶり、撃たせない。
撃つ前に崩す。
「撃て! 撃てえ!」
織田側も応戦しますが、そのときには
すでに、上杉軍が距離を詰めていました。
鉄砲の優位が活きる「間合い」を潰しに
来ています。
「これ、三段構えどころじゃないよね」
結はそう書きながら、戦場の左右も
描き足しました。
横からは島津が「釣り野伏せ」の要領で崩し、
逆側からは長宗我部が退路を断つ。
気づけば、理想的な布陣だったはずの
織田・徳川の陣形は、ばらばらに裂かれ、
切り刻まれつつありました。
そして。
「行くぞ」
謙信が前へ出ます。
軍神の名にふさわしい、その一歩。
中央が、割れました。
長篠とは、違う。
同じ場所でも、同じ条件でも、同じ結果
にはならない。
それは、戦が「生き物」であり、 人間が学び、
工夫し、変化するからだ
結は、そんな一文をノートの端に書き添えて
から、ペンを置きました。
「うん。これなら、納得できる」
勝ったあと、奪わない
ここまで書いて、結にはもう一つだけ、
「どうしても譲れない」場面が残っていました。
戦に勝つだけなら、信長でもできます。
違いを出したいのは、その後でした。
上杉謙信が織田信長を退け、 武田や雑賀、
西国の諸勢力と共に大勢を
制したあと何をするのか。
「天下布武」のような、明快で鋭いスローガン
は掲げないかもしれません。
代わりに、「筋を通す」だけ。
戦で得たものを、できるだけ元の持ち主に
返す。
過剰な破壊はしない。
奪った土地ではなく、「筋道の通し方」で人々を
従わせていく。
それは、効率だけで見れば遠回りかも
しれません。
けれど、結はそこにこそ、このIFの意味を
置きたくなりました。
「戦では圧倒的に勝つ。
でも、勝ったあとに全部を奪わない」
その姿まで含めて、上杉謙信という人物の魅力
だと感じるからです。
終わりの場所は、戦場ではなく温泉
最後に、結はもう一度、白浜の海を見ました。
