懐中温泉です、
山間の広場に、二つの軍勢が向かい合い
ます。
緊張が走る,
はずでした。
「久しいな、勝頼」
謙信が言います。
「……おお」
勝頼が応じます。
それだけでした。
余計な言葉はありません。
それでも、十分でした。
背後では、赤備えの騎馬が並び、上杉の旗
が翻り、そして
雑賀の鉄砲隊が、静かに銃身を据えて
いました。
「……これ、強すぎる」
結はノートの端に、素直な感想を書き込み
ました。
雑賀孫市という「重し」
結が次に筆を進めたのは、雑賀孫市
でした。
白浜の海辺で思い浮かべた男を、今度は
きちんと陣の中に立たせる番です。
雑賀の里。
海風が抜ける丘の上で、男は火縄銃を肩に
担いでいました。
「上杉謙信、ねえ」
雑賀孫市。
鉄砲を操る集団・雑賀衆を率いるとされる男。
真偽はともかく、「戦国最強クラスのガンナー」
というイメージだけは、どうしても消えません。
「義、ってやつか。いいじゃないか」
あまり深刻そうには見えません。
むしろ、楽しそうですらあります。
「で、どうするんです」
部下の問いに、孫市は肩をすくめました。
「決まってるだろ」
火縄銃をひょいと持ち上げます。
「面白そうなほうに乗る」
結は、その台詞を書きながら、心の中で
付け加えました。
(こういう人、たぶん絶対モテる)
戦は強く、態度は軽く、どこか自由で、危うい。
それでもなぜか、嫌いになれないタイプ。
「うん、好きかも」
正直な感想でした。
孫市が北へ向かったとき、合流はあっけない
ほどあっさり終わりました。
「よう、軍神さん」
いきなりそれでした。
謙信は、その言葉に一瞬だけ目を細め
「力を貸せ」
それだけ告げます。
「いいとも」
やはり即答。
条件も駆け引きも、いりませんでした。
そのやり取りを見ていた勝頼が、わずかに
目を細めます。
「……変わった男だな」
「だろう?」
孫市は笑い、火縄銃を構えさせました。
「でも、強いぜ」
合図一つで、整然と並ぶ鉄砲隊。
掛け声もなく放たれた一斉射撃が、遠くの
標的を正確に砕きます。
「……なるほど」
勝頼が低くつぶやきました。
結はそこに、また一行書き加えます。
「いや、これ本当に強すぎる」
でも、今回はそこから目をそらしません。
強いものは、全部揃える。
そのうえで、「義」が勝つ世界を描く
それが今回の遊び方だからです。
長篠を「やり直す」
次に結が見たい戦は、はっきりしていました。
「長篠みたいには、させない」
