道としての牟婁 | 「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

潜在意識の働きで、あなたは「スーパーなあなた」になるのです。そのための素材・方法も実はあなたの手元にすでに多くあります。ここでは、あなたがそれを見出し、活用するお手伝いをいたします。胎児(あなた)は、胎児(あなた)の夢により進化します。

懐中温泉です、

 

道としての牟婁

 

別の日:富田坂の一部を歩いて「道としての

牟婁」を感じる

 

 

数日後、結は「今日は湯から少し離れて、

牟婁の“道”に触れてみたい」と思いました。

 


向かった先は、白浜町内からもアクセス

できる熊野古道・大辺路の一部、富田坂

です。

 

富田の集落から山道へ

 

朝、バスで富田のあたりまで出て、小さな

集落を抜けると、「熊野古道 大辺路 富田坂」

と書かれた道標が立っていました。

 


そこから先は、細い山道が緩やかに伸びて

います。

 

一歩踏み入れると、足元の土が柔らかく

なり、両側から常緑樹の枝がせり出して

きました。

 


海からの風は少し和らぎ、かわりに、

山の湿った空気が肺の奥に入り込んで

きます。

 

「白浜の湯崎では、海がすぐそばにあった

けれど、ここでは“熊野へ向かう途中”の

空気が流れている。」

 

結は、そんなことを思いながら、ゆっくりと

坂を登っていきました。

 

海を振り返る場所

 

しばらく登ると、木々の切れ目から、遠くに

海が見える場所に出ました。

 


白良浜の白さはもう判別できませんが、

紀伊水道の青さと、白浜の海岸線が

かすかに横たわっているのが分かります。

 

結は、立ち止まって息を整えました。

 

「この道を、昔の人たちは熊野を目指して

歩いたんだろう。

 


誰かは病を抱え、誰かは罪の意識を抱え、


誰かはただ、一度自分をリセットしたくて。」

 

小栗判官の土車が通ったのは中辺路や

赤木越だとしても、


「熊野へ向かう道の一本」という意味では、

この富田坂も同じ文脈の上にあります。

 

結は、海のほうを振り返りながら、自分が

いまいる場所を「海と熊野の間」に位置づけ

ました。

 

「湯の峰へ向かうとき、小栗はもう自分の足

では歩けなかった。

 

私はいま、自分の足で、この牟婁の坂を

登っている。」

 

そう思うと、一歩一歩が、少しだけ重みを

帯びて感じられます。

 

山の静けさと熊楠の森

 

富田坂の山道は、観光地として整備されて

いるとはいえ、ところどころ苔むした石や

木の根が顔を出します。

 


鳥の声と、遠くで微かに聞こえる車の音

だけが、この山の時間に混じり込んで

きました。

 

結は、足元のシダや苔、道脇の雑木の葉を

眺めながら歩きました。

 

「熊楠が見ていた“牟婁の森”の一部も、


 きっとこんなふうに、道のすぐ脇から

伸びていたのだろう。」

 

記念館で見た標本やノートを思い出します。


瓶に収められた菌類、押し葉された植物、

びっしり書き込まれたメモ

 

あれらは、誰かが実際にこうして山を歩き、

手で触れ、目で見てきた結果の集積でした。

 

「私は、温泉で自分の身体を湯治させて

もらっている。


熊楠は、森と社と海を、“土地のからだ”

として見つめ直そうとしていた。

 

いま、この道を歩いている私は、その二つの

あいだをつなぐ場所を、自分の足で確かめて

いるのかもしれない。」

 

そんなふうに考えると、汗ばんだ背中に

当たる風が、少し心地よくなってきました。

 

下り坂と白浜への帰路

 

適当なところで引き返し、同じ道を下りていくと、


斜面の向こうにふたたび海の気配が戻って

きました。

 

「この坂を下りきれば、また白浜の湯と浜が、

日常の景色として待っている。」

 

富田坂の入口に戻るころには、結の足には

適度な疲労感がありましたが、それは湯治の

妨げになる種類の疲れではありません。

 

むしろ、湯に浸かる理由をもう一つ増やして

くれるような疲れでした。

 

バスで白浜へ戻る途中、結は車窓から海を

眺めました。

 

「今日は、牟婁の“道”のほんの一部を歩いた。


明日はまた、牟婁の“湯”の中で、自分の身体

の内側の道を、ゆっくり辿ってみよう。」

 

そう思いながら、結は湯崎のほうに目を

向けました。

 


そこには、相変わらず温泉街の灯りと、

太平洋のひろがりが待っている

のでした。

 

 

ご精読ありがとうございました。

 

懐中温泉