懐中温泉です、
伊香保温泉・第13日後半
二回目の湯に向かう前に、結はノートに
「昼湯二回目。半身〜肩。五〜七分」と
目安を書き込みました。
湯殿に入ると、前日も会った年配の女性が、
「今日は顔色がよくなったわねえ」と声をかけて
くれました。
「十一日目で一度重くなって、十二日目と
今日で少し戻ってきました」と話すと、「そうそう、
その“谷”を一回くぐり抜けてからが、
二巡目の面白いところなのよ」と笑います。
半身浴で腰まで浸かり、しばらく呼吸を整えて
から、一度だけ肩まで沈みます。
十一日目のような「重さ」はなく、十二日目の
ような「慎重な探り」も少し弱まり、「これくらい
が今の自分にちょうどいい」という感覚が、
素直に湯の中から立ち上がってきました。
湯から上がり、部屋に戻ってノートを開きます。
「昼湯二回目。
半身〜肩。
湯の重さが怖くない。
身体のほうから“ここまででいい”と言ってくれる
ので、それに従うだけで済むようになってきた。」
午後は、窓から入る光を受けながら、原稿ノートと
湯治ノートを並べて眺めました。
十一日目の「湯を減らす勇気」、十二日目の
「減らしたあとにどう戻すか」、そして十三日目の
「戻した状態で一日過ごしてみる」。
この三日間が二巡目の核心であり、ここで自分
との約束を破らずにいられるかどうかが、残りの
湯治の質を左右する——そんな思いが、だんだん
はっきりしてきました。
夕方、三回目の湯に入るかどうかを決める時間に
なりました。
腰の重さはほとんど感じず、脚も頭も軽い。
ただ、軽い眠気の予感が、身体の中にゆっくり
広がり始めています。
「ここで三回目に短く入るか、それとも二回で
止めて“引き算の贅沢”にするか」。
結はしばらく考え、ノートにこう書きました。
「三回目は見送る。二回で“ちょうどいい一日”
にしてみる。
二巡目十三日目を、あえて“余白つき”で終える
実験。」
湯殿へは向かわず、代わりに共同台所で湯を沸かし、
番茶を淹れました。
湯のみを両手で包み込みながら、窓の外の薄暮を
眺めます。
石段街から聞こえてくるざわめきが、少しずつ
静かになっていくのを耳で追いかけました。
夕食は、昼の味噌汁を薄めて温め直し、ご飯を
小さなおにぎり一つだけ。
梅干しを具にし、「これで十分」と思えたところで
箸を置きました。
ノートの「今日のからだと心」の欄には、こう記し
ました。
「二巡目六日目(通算十三日目)。湯二回。
脚の冷えなし。
膝の痛みなし。腰と背中の重さはほぼ消えた。
頭は冴えているが、自然な眠気が夕方から
ゆっくり降りてくる。
食事は一巡目より確実に軽いが、物足りなさは
ほとんどない。」
そして最後に、一行を付け加えます。
「十三日目は、“谷を越えたあとに、どこまで
力まずにいられるか”を試す日だった。
湯を増やせる状態でも、あえて二回で止める
ことで、自分にとっての“ちょうどよさ”が、
また一段、身体の深いところへ沈んでいった
気がする。」
