中心のばらばら | 「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

潜在意識の働きで、あなたは「スーパーなあなた」になるのです。そのための素材・方法も実はあなたの手元にすでに多くあります。ここでは、あなたがそれを見出し、活用するお手伝いをいたします。胎児(あなた)は、胎児(あなた)の夢により進化します。

懐中温泉です、

 

「癒しと労働の列島」篇第八十八話

 

 

東京に戻ってから、結は、いつもの通勤路を少し

外れて歩くようになりました。

 


草津と別府を通過したあとでは、この巨大な都市

の中にも、何かが残っている気がしてならなかった

のです。

 

東京は、日本の「中心」です。

 


政治も経済も文化も集まり、鉄道は放射状に伸び、


人も情報も、絶えずここへ吸い寄せられている。

 

けれど、その中心の内部を歩いていると、
結は、

妙な不均質さを感じます。

 

すべてが整然と統合されているわけではない。

 

ある角を曲がると、突然、時間の層が変わる。

 


高層ビルの足元に、古い八百屋が残り、
再開発地区

のすぐ裏に、小さな食堂街がひそんでいる。

 

結は、夕方、谷中銀座を歩きました。

 


観光地としても知られる場所ですが、一本裏へ

入ると、急に観光の匂いが薄れ、買い物袋を

下げた地元の人たちが、黙々と行き交って

います。

 

ここには「中心らしさ」がありません。

 


誰かを迎える構えも、象徴的なランドマーク

もない。

 

ただ、生活がある。

 

結は、商店街の端にある小さな惣菜屋で

コロッケを買い、近くのベンチに腰を下ろし

ました。

 


説明はなく、包装も簡素で、「名物です」

という言葉も出てこない。

 

それでも、味は確かで、毎日ここで買って

いる人がいることが、自然に伝わってきます。

 

別府の共同湯を思い出しました。

 


草津の湯畑とは違う、あの、説明されない

使われ方。

 

別の日には、月島を歩きました。

 


高層マンション群のあいだに、昔ながらの

もんじゃ焼きの店が点在し、観光客と地元

の人が、同じ細い路地を共有しています。

 

ここでも、中心はありません。

 


点が散らばり、人はそれぞれの目的で

出入りしている。

 

東京という都市は、外から見ると巨大な

「集中体」に見えます。


 

けれど内側では、こうした小さな分散が、

無数に折り重なっている。

 

結は、この構造が、とても東京的だと思いました。

 

草津のように、一つの核へ集まるのではない。

 


別府のように、湯を軸に斜面全体が編まれて

いるわけでもない。

 

東京では、市場、商店街、銭湯、路地裏の飲み屋、


そうした小さな場が、互いにゆるく独立した

まま共存している。

 

それぞれが、自己完結している。

 

だから、誰かがいなくなっても、全体は

止まらない。


一方で、どこか一つが消えると、その周囲の

空気が、確実に変わる。

 

結は、東京の銭湯で感じた「都市の中の分散点」

という言葉を、ここでも思い出していました。

 

巨大な中心都市の内部に、意図せず残って

しまった小さな生活の核。

 

それらは、都市計画の成果というより、更新

されなかった時間の名残です。

 

再開発から取り残された場所。


土地の持ち主が変わらなかった場所。

 


採算が合わないまま、なぜか続いている場所。

 

結は、それを「遅れ」だとは思いませんでした。

 


むしろ、都市が完全に一枚岩にならなかった

証拠だと感じます。

 

別府で見た分散性は、自然条件と生活が長い

時間をかけてつくったものでした。

 


東京の分散性は、過剰な集中の中で、偶然

残った裂け目のようなものです。

 

性質は違う。


けれど、どちらも「語られない場」です。

 

結はノートに書きます。

 

――東京は中心都市だが、中心だけでは

できていない。

 

そして、その「中心でない場所」こそが、人の身体

を休ませ、一日の区切りをつけ、生活のリズムを

保っている。

 

銭湯も、商店街も、路地の食堂も、誰かの象徴に

なることなく、ただ、使われ続けている。

 

結は、夜の東京を歩きながら、別府で感じた

あの感覚が、ここにも、薄く漂っていることを

確かめていました。

 

中心の中の、ばらばらな場所。

 


それらが残っているかぎり、東京はまだ、

完全な装置にはなっていない。

 

結は、そのことに、静かな希望のようなものを

感じていました。

 

 

ご精読ありがとうございました。

 

懐中温泉