夜這い（よばい）の技術

懐中温泉です。


本ブログをご訪問いただき、
心より感謝いたします。

「今の言葉でいうとスリル

というものがないと、

昔でもおもしろうなかった。

はァ、女と仲ようなるのは何でもない事で、

通りあわせて娘に声をかけて、

冗談の2つ３つも言うて、

相手がうけ答えをすれば気のある証拠で、

夜になれば押しかけていけばよい。

こばむもんではありません。

親のやかましい家なら

こっそりはいればよい。」

宮本常一『忘れられた日本人』

（岩波文庫）「名倉談義」79頁

1960年代、
愛知県北設楽郡旧名倉町の
古老たちの談義です。

上に引用したのは、
在住の金田茂三郎氏が
往事をふりかえっての発言です。


この後、夜這いの仕方が書かれています。


電気が通っていない、
ランプの時代の話なので、
夜は真っ暗で、
月や星の明かりが頼りです。

若い者はだいたい、
台所近辺に寝ています。


音がしないように、
いささか不潔ですが
しきいのところにおしっこで
湿らせたりもします。


そうするときしみません。


迷惑ですが、なにしろ、
人糞が金肥（きんぴ）と称して、
貴重で有効な肥料として
やりとりされていた頃の話です。

小便くらいは許容範囲なのでしょう。

当時、人々は作業用には
ズボン形式のモンペですが、
寝るときなどは帯をして
和式の普段着の着物や浴衣です。


したがって角帯をして留めています。


これをほどき、
端を押さえてごろごろっと転がしますと、
ずーっと向こうに転がります。


ちょうど、運動場でラインマーカーで
引いたような直線ができるわけですね。


仮称久保君の「かっこいい歩き方」
をしたいところですが、
まず音をしないようにしなくては
なりませんので、そうもいかないです（笑）。


文字通り、抜き足、差し足で
とにかく音が出ないように
その上を歩いて行きます。


板の間など音がしやすいのですが、
これですとあまり音がしないですみます。

なんだか、
懐中はやけにくわしいではないか、
とあなたはいぶかしがるかも
しれません。


上記の内容はもちろん、
日本中を歩いてその跡を
赤線でたどると日本全体が
真っ赤になった、

という民俗学者宮本常一（つねいち）の
『忘れられた日本人』
からの援用です。

私はイギリスに留学する際に、
現地で日本のことを聞かれた場合の参考書として
本書を携行していきました。


この本は異国の地にあっては、
日本そのものが集約されたかのような
内容だけに、それこそむさぼるように
幾度も読み返しました。


とくにこのくだりは
なぜか好きで（笑）、
よく読んでいました。

そしてまったく同じではありませんが、
この知識が役立った（？）
経験もあります。


いや、正確に言えば
役に立たなかったのですが。


イギリスの大学院での留学を
開始する前に、3ヶ月南西部海岸の都市で
3ヶ月語学学校に通いました。


そのときは、クラスメートは
ヨーロッパ中から来ていましたので、
各国の友人ができました。


毎晩パブに行き、
その後ディスコで過ごし、
身体で英語を覚えるという「努力」を
重ねたからです。


スイス・ユーゴスラヴィア・イタリア
といずれも歯科医の子弟と仲良くなり、
自分の国に来たら寄ってくれ
と言われていました。


歯科医は、どこでも裕福なのです。

イタリアの北西部、
ヴェニスに近いブレッシア
という都市があります。


中世には都市国家であり、
私を招待した歯科医の娘さんの家も、
土地の名士のお家で、
その家屋も文字通り邸宅でした。


お屋敷、
と地元では呼ばれているだろう
規模と格式です。


使用人の女性も
幾人かつとめている、
いわゆるセレブですね。


そこに寄宿させてもらい、
豪華な寝室をあてがわれたのですが、
なにしろ広い家です。


皆寝静まったあと、
自分の習慣として、
寝る前にシャワーを浴びるために
シャワー室に向かいました。


あらかじめ、
シャワー室を使いたい旨を
彼女に話してあります。


部屋からシャワー室までの
行き方を彼女に案内してもらいました。


シャワー室は、

割と彼女の部屋に
近いところにあります。


その間には、
洗濯物を扱う専用の部屋があり、
またトイレもあります。


そして、シャワーを浴び、
トイレをすませて出て、
なにしろ暗いので、
はて、どっちだったけな。

真夜中で、皆寝ているんだから、
音をたてないようにしないと。


それにしても、なんだか、
若い女性のいる家で、
こうやって、音をたてないようにして、
暗い中を歩く


この状況はそれこそ
宮本常一の「名倉談義」の
夜這いの話のようだぞ･･･、


とふと思った矢先、
セキュリティのためのアラームが
けたたましく鳴り響いたのです。



村のコミュニティ内で
女性と仲良くなるには、


ステップ１

通りあわせて娘に声をかけて、

冗談の2つ３つも言う

相手がうけ答えをすれば
気のある証拠

ステップ２

夜になったら
押しかけていけばよい。

拒まれない。

親のやかましい家なら

こっそりはいればよい。



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