全体的に巧みさは感じられるものの、深く訴えかけてくるものはなかった。
読み手の読解力のせいなのか、最後の場面がピンとこなかった。
モチーフにアンネの日記を持ってきた作品が芥川賞を受賞するというのは、この作者が云々ということではなく、文学界全体の現状を浮き彫りにしているような気がする。
本当に現代は取り上げるテーマもないほど人々の心は満たされているのか。
だとしたら、どうしてこんなにもこの世は生きにくいのか?
日本人はいつのまにか、書かれるべき事柄を表現する言葉を持たない民族になってしまったような気がする。
今こそ日本人のための物語が必要なはずなのに。
「ミカコ。アンネがわたしたちに残した言葉があります。
『アンネ・フランク』。アンネの名前です。
『ヘト アハテルハイス』の中で何度も何度も書かれた名前です。
ホロコーストが奪ったのは人の命や財産だけではありません。名前です。
一人一人の名前が奪われてしまいました。
人々はもう『わたし』でいることが許されませんでした。
代わりに、人々に付けられたのは『他者』というたったひとつの名前です。
異質な存在は『他者』という名前のもとで、世界から疎外されたのです。
ユダヤ人であれ、ジプシーであれ、敵であれ、政治犯であれ、他の理由であれ、迫害された人達の名前はただひとつ『他者』でした。
『ヘト アハテルハイス』は時を超えてアンネに名前を取り戻しました。アンネだけではありません。
『ヘト アハテルハイス』はあの名も無き人たち全てに名前があったことを後生の人たちに思い知らせました。
あの人たちは『他者』ではありません。かえがえのない『わたし』だったのです。
これが『ヘト アハテルハイス』の最大の功績です。
ミカコは絶対にアンネの名前を忘れません。
わたし達はは誰もアンネの名前を忘れません」







