Another Kiss・・・? 2 | usatami♪タクミくんシリーズ二次創作小説♪

usatami♪タクミくんシリーズ二次創作小説♪

タクミくんシリーズの二次創作です。
usatami のこうだったらいいのにな~♪を細々と綴っております(〃ω〃)
覗いていただけてら嬉しいです(’-’*)♪

空港までの車を運転しながら、助手席に座る託生さんをちらり、と見遣る。
俺がマネージャーに就いてから今までの中で知る限り。
一度もNYでの演奏活動はない。
当然ながらオファーがなかった訳ではない。
今や人気、実力共に若手演奏家の中でも群を抜いた場所にいる“葉山託生”なのだ。
しかし、その人気にもかかわらず抑えたペースでの演奏活動で“葉山託生”の演奏会はプラチナチケット並の価値が出ている、とさえ噂されている程だ。
世界各地でオファーは引きも切らない。

それなのにNYでの演奏会だけは組まれることはなかった。
俺たちの師匠であり、現在は上司でもある井上教授。
彼の「NYは避けてね。」という鶴の一声で。
俺はその理由をはっきりとは知らない。
けど。

俺が桜ノ宮坂音楽大学に入学した年、託生さんは三年生で。
同じ井上教授の門下生として初めて顔を合わせた時、託生さんは前年夏頃の休学からの復学直後だった。
「せっかくあの井上佐智に選ばれたのに休学するなんて。なんてバカなやつだ。」
なんてやっかみも込めて言う口さがない連中もいたけれど。
託生さんは周りの雑音に耳も貸さず、黙々と音を、音楽を磨いていった。
その入り込み様は凄まじくて、この時ばかりは鬼で通っている井上教授も心配する程だった。

俺は、もう、この時には本能的にわかってしまってたんだ。
託生さんは井上教授に選ばれたんじゃない。
音楽に選ばれた人なんだ、と。
哀しみも、苦しみも、絶望さえも音に注ぎ込んでいく。
聴いてる者の心が張り裂けそうなその音が、いつしか尽きることのない愛へと変わった時、俺はプロになることを諦めた。
深い慈しみと愛しさを語りかけてくる託生さんのバイオリン。
でもその音の前に叫んでいた絶望を俺は忘れてはいない。

きっと、それが原因。

今まで避けてきた“NY”。
これもキーワードの一つに違いなくて。
託生さんは大丈夫、って言うけど、俺はやっぱり心配だ。
託生さんのバイオリンがまたあの時みたいに絶望の悲鳴を上げるのは・・・絶対に聴きたくないから。



「到着は10時頃の予定す。この日は一日ゆっくりしてもらっていいんで。ホテルで練習もOKすよ。」
俺の言葉に窓の外を眺めていた託生さんの肩が揺れた。
「あっ、ごめん。ぼーっとしてたよ。」

本当にわかりやすい人だなぁ。
こんなの強がってるだけだってバレバレだよ。
事情を聞いて、俺に出来ることがあるなら力になりたい。
だけど・・・きっと困った貌で「大丈夫だよ。ありがとう。」なんて言われちゃうんだろうなぁ。

「慎くん?」
尋ねてくる柔らかな響きに何故かチクリと痛む胸。
俺はそれを無視して、マネージャーとしての仕事へと戻っていくのだった。