ギイは軽く息を吐く。
「わかった。佐智も落ち着くまでは大学休むようにって言ってたからさ。ゆっくり考えてくれ。」
意外にもあっさりと引き下がったギイに、僕はほっとした。
あまりにも予想外だった事実の数々に混乱して、心がついてこない。
落ち着いて考える時間が欲しかった。
「託生、俺ちょっと2、3件片付けてくる。ついでにコンビニ行くけど、何か要るものあるか?」
ギイの手にはスマホ。
別にわざわざ外で掛けなくても、と思うけど。
聴かれたくない大事な話かもしれないし。
もしかしたら僕にそれとは分からないよう、さりげなく考える時間をくれたのかも。
どちらにしても自分はここから暫く動けそうにない。
情けないことに、だ。
出来ない以上は素直に甘えるしかない。
「ううん。特に何も。ごめんね、外まで行かせちゃって。」
僕の返事にギイは、小さく目を瞠って。
それからとても綺麗に笑った。
「やっぱり、俺。託生を選んで良かった。」
ギイの綺麗な笑みに反応して赤くなった顔で、でもギイの言葉には反応出来なくてきょとんとしてしまう。
そんな僕の頬を包んで。
「解んないかな?こんなに可愛い託生を、動けなくなるまでとろとろにさせられるのが俺だけで良かった、ってこと。」
「な、なななな、なにいってるのっ?!」
油断してたところに破壊力抜群のギイのセリフで慌てさせられて。
ちゅっと軽く啄むキス。
「じゃ、すぐ戻るからな。大人しくしてろよ。」
もうっ、もうっ。
「ギイの、ばか・・・。」
唇を指先でなぞりながら無意識にこぼれた言葉は、軽やかに踵を返したギイの背中には届かなかったようだ。
離れていく温もりに寂しさを感じて。
託生はウサギを抱き直した。
ふわふわの感触にふうっと息を吐く。
ちゃんと、考えなくちゃ。
どうするのが僕達にとって一番なのか。
でも、考えても答えは出なくて・・・。
躯のダルさとウサギのふわふわな手触りとでまぶたが重たくなってくる。
ねちゃ・・・ダ・メ・・・。
かんがえ・・・なく、ちゃ・・・・・・・。
意思に反する眠気との戦いに敗れ、まぶたが完全に閉じられようとした、その時。
ガチャッ、と玄関のドアの開閉音。
あれ?
ギイ、帰ってきたのかな?
でもそれにしては静か・・・。
不審に思って、託生は耳を澄ませた。
明らかにギイではない足音が、玄関から此方に向かって来る。
誰・・・?
託生の脳裡には条件反射で昨日の出来事が甦ってきて。
牧原のあの暗い瞳を思い出す。
でも、そんな筈はない。
このマンションが実はどれ程安全か。
さっき説明されたばかりだ。
それが原因で自分は今、心底悩んでもいるのだから。
しかし、今、現在。
ギイではない誰かがこの部屋の扉のすぐ前にまで迫っている。
それもまた、事実であった。
見えない相手に恐怖が募る。
託生はドアが開かれる気配と共に、身を強張らせて固く瞳を閉じてしまった。