※今回のこの小説は原作終了後の世界を取り扱っております。その為、役職や階級等が原作とは異なります事、ご了承下さいませ。




 新領土<ノイエ・ラント>ハイネセンの総督である、アウグスト・ザムエル・ワーレン元帥が、年下の同僚のナイトハルト・ミュラー元帥と共に居酒屋「闘牛士<シュティーア・ケンプファー>」を出た時、既に日付は11月10日になっていた。

 ここは昔、ルッツが見つけて、ワーレンとルッツの2人で来ていた店だ。
 人目につきにくい場所にあるので、同僚達の中でも特に仲が良かった2人にとっては、ある意味、隠れ家的存在の店だったのだのである。


 所用で11月4日に、ハイネセンからフェザーンに来ていたワーレンは、1ヶ月遅れで、8日にルッツの墓参りを済ませていた。
 博学なメックリンガーが教えてくれたのだが、そういうのを「月命日」と言うのだそうだ。
 遠い昔は、ごく普通に、その人が亡くなった日と同じ日に、亡くなった人を偲んでいたそうだ。
 今はすっかり廃れてしまった風習だそうだが、そういう風習は、何とも心を穏やかにしてくれる気がする。
 ワーレンは、1ヶ月遅れなのを気にする事なく、ルッツの墓参りをする事が出来たのであった。


 そして、翌日の9日に何とか時間を作ってミュラーを誘ったのだが、10日の午前中には、ハイネセンに向けて出立しなくてはいけないのだ。
 ・・・都合、たったの一週間の滞在だ。
 何ともせわしない。


 ミュラーと飲んだ昨日は、本当に心地良く酔えた。
 普段は、午後7時を回ると、値段が手頃なのでフェザーン宇宙港等で働いている港湾労働者が大挙して押し寄せる店なのだ。
 つまり、静かな落ち着いた雰囲気の中で飲めるのは、開店してから2時間弱と言う事になる。
 だが、2人の地位を考えてくれ、今日だけは静かに飲みたいに違いないと、マスターは表に、「本日は貸切です」という札を掛けてくれたのだ。
 それで、ありがたい事に貸切状態で飲めたのである。


 10日の午前10時ジャストに、フェザーン宇宙港からハイネセンへ出立の予定だったワーレンはさすがに2軒目に行く気力は無かったし、この店でじっくり飲めるのは本当にありがたかった。
 それに、連日、頭の中がルッツの追悼モードだったし、色々な意味で、他で飲む気がしなかったのだ。


 「悪いがミュラー、朝が早いからここで・・・」


 店を出た瞬間にワーレンは切り出し、ミュラーは「そうですね。出立、早いのでしょう?」と頷いた。
 「あぁ、10:00<ヒトマルマルマル>ジャストに出航だからな。全く・・・道中が長くて、滞在期間が短過ぎるのだ。せっかく皆に会えたと思っても、どうも、せわしなくていかんな」


 もう少し長くここにいたいと思うのだ。
ここには、気心の知れた仲間が大勢いるから・・・。
 そういった仲間と共に過ごせるのはありがたい事だと、改めて仲間の素晴らしさに気付くワーレンだった。
 「まぁ、そうでしょうけど、それは仕方がないですよ。・・・息子さん、待っておられるのでしょう、向こうで」
 「・・・あぁ。そうだ。最近な。アルの奴、フライング・ボールを始めてな。これが実に楽しそうで」
 
 アルベルト・ザムエルは、ワーレンにとっては亡き妻との間に生まれた、たった1人の息子ではある。
 ただ、今までは軍務が忙し過ぎて、オーディンにいた時は、自分の両親に息子を預けっぱなしにしていたのだった。
 フェザーンに遷都が決まった時、両親と息子を呼び寄せてはいたが、そこでも、たまにしか会う事が出来ず、歯がゆい思いをしていた。
 ワーレンは新領土<ノイエ・ラント>総督としてハイネセン行きが決まった時、最初は単身赴任をした。
 その半年後、所用でフェザーンに戻った際に、「こいつは特権乱用かな・・・」と呟きつつも、皇太后ヒルダの許しを得て、両親と、妻が遺した1人息子のアルベルト・ザムエルをハイネセンへ呼び寄せたのだった。


 「フライング・ボールですか。それは楽しそうですね。あのスポーツはどちらでも人気なんですね」
 「あぁ、本当にな。俺も子供の頃は得意だったからな。しかも・・・あっちには、企業経営のプロチームがいくつもあって、市民達はスタジアムで熱狂的に応援
している。かつて、平民達による大規模な集会が禁じられていた我々にとっては驚くべき事だ」
 「そうなんですか!」
 帝国にはスポーツ関連の学生リーグはあっても、利潤を追求したプロチームはなく、大規模なスタジアムの存在も無い。


 「卿は・・・」
 「はい?」


 つい、「結婚する気がないのか?」と言いそうになってしまうワーレン。
 だが、すんでのところで思いとどまって、「いや・・・なんでもない」と、ワーレンはそれ以上を言うのをやめた。
 ミュラーも、何だろう?とは思ったが、聞き返す事はしなかった。


 「それじゃ、朝、ちゃんとお見送りに行きますね」


 ミュラーはにこやかに言って、その場で2人は別れたのだった。
 


 「さて・・・と、ちょっと歩くか」


 今日は少々飲み過ぎたようだ。
 前日は1人しみじみ・・・だったのだが、今日はミュラーが居たせいか、杯がすすんでしまい、いつものペース以上で飲んでしまったのだ。
 夜風が心地好くて、何となく気が向くままに歩き始めるワーレン。
 宇宙港や宿舎がある方とは反対の方向にだ。
 そして、小さな公園を見付けた。

 夜の公園は、人気がなく、ひっそりと静まりかえっていた。
 ブランコや滑り台、ジャングルジム、ベンチに水飲み場・・・小さな砂場や池等がある、本当に小さな公園だった。
 ここにこのような施設があるのは、この近くの工場で働く女性達の子供を預かった託児所が、昼間、子供達を遊ばせる為に作ったのだそうだ。
 だが、一般の人達もここを利用している。


 「そういやここでアルとルッツが・・・」


 ワーレンの中に、過去の記憶が呼び覚まされた。
 それは・・・。
 新帝国歴2年(宇宙歴800年)の8月下旬の事だった。


 7月29日に正式にフェザーンへの遷都が決まり、ワーレンはすぐさま、オーディンにいる両親と息子をフェザーンに呼び寄せた。
 オーディンからフェザーンに移民した市民の第一陣の中にワーレンの家族がおり、「特権乱用だな」とルッツにからかわれたものだった。


 そして、ワーレンは、休暇の時に、この公園にアルベルトを連れて来た事があったのである。
 その時、ちょうど、同じ時期に休暇が取れたルッツが暇そうだったので、3人で公園にやって来た。
 アルベルトはルッツに、『ねぇ、何となくファーターと似てるね』などと言って、すぐに懐いてしまった。  
 アルベルトと一緒に、池の淵で帆船の模型を浮かべて、彼の遊びの相手を嫌がらずにしてくれていたルッツ。
 そして、何があったか、立ちあがった拍子に、小石に躓いてバランスを崩して池に落ちてしまったのである。


 『おい・・・何をやっているんだ・・・』


 呆れるワーレン。
 ルッツは、『しまった、しまった・・・ちょっとバランスを崩してな』と決まり悪そうに笑った。
 それから、急に大きく手を振った。


 『おい、アル。ここの中、冷たくて気持ちいいぞ~!!入って来いよ!』


 急にルッツが水をバシャバシャしながら言った為に、父親と同様に驚いていたアルベルトは更に驚いて目を丸くした。


 『いいのかなぁ。ファーター・・・』


 そう言って、アルベルトはワーレンを見た。


 『・・・何だか、気持ち良さそうだね!』


 そう言う息子に対して、ワーレンは、本当は『やめておけ』と言いたかった。
 バシャバシャやったものだから、全身がびしょびしょになったルッツは、呆れた事にまだ手を振っている。
 全く・・・どういうつもりなのだ?と、ワーレンは顔を顰<しか>めた。


 『ホントに気持ちいいんだぞ~!』


 更に楽しそうに言った為に、アルベルトは、『よ~し!!僕も・・・入っちゃおうっと!』と、ニコニコしながら豪快に池に飛び込んでしまった。
 5歳の子供は、面白い事に目が無い・・・。
 制止する暇もなかったワーレンは、アルベルトが飛び込んだ時の、水しぶきをモロに浴びる事になってしまったのだ。


 『つ・・・冷た・・・』


 思わず顔を顰<しか>めるワーレン。 
 だが、ちょうど池の掃除をした直後で水はキレイだったし、大して深くも無いので、子供達が中に入ってパンツ1枚で遊んでいたのも事実だった。
 ましてや、真夏真っ盛りだったし。
だけど、何もいい大人が子供に強要しなくても・・・と、ルッツに抗議しかけたが・・・。
 次の瞬間に発せられたルッツの言葉に、唖然、茫然となるワーレン・・・何も言えなくなった。


 『卿も一緒にどうだ?』
 『・・・は?』


 一瞬、目が点、耳がダンボになるワーレン。
 そして、追い討ちをかけたのはアルベルト。


 『ファーターも入ったら?凄く気持ちいいよ~!!』


 屈託の無いアルベルトの笑顔に破顔するワーレンだったが、それでも、まだ理性は残っていた。
 休暇中だったから軍服ではないが、いい大人が・・・帝国軍の重鎮である2人が昼間の公園で、服を着たまま子供と水遊び・・・。
 私服だったから軍人とはバレてはいないが、この状況を、もし2人の部下達が見たら一体何だと思うだろうか?と、ワーレンは辺りを見回してしまった。
 だが、ルッツはそんな事を気にしていないようだった。


 『たまには童心に返るのもいいもんだぞ?』


 ルッツのこのダメ押しのひとことが効いて、結局、息子の為・・・と、ワーレンも池に入ってしまった。
 半ば開き直っての・・・行動だ。


 『俺は思うに・・・卿は結婚して子供が出来たら、子煩悩通り越して親ばかになるのではないか・・・・・・』


 1ヶ月前の7月6日に、ルッツは以前入院していた病院の看護婦のクララ・アインシュタイン嬢との婚約を発表していた。


 『・・・かもな。でも、子供なんてのは、その・・・なんだ』


 池の中にしゃがみ込んでいたルッツはやや赤面し、頭からアルベルトに水をかけられながら困惑気味の表情を浮かべていた。
 ルッツのくすんだ金髪にかかった水しぶきが、優しい陽の光を反射してキラキラと輝いていた・・・。
 まさか、この2ヵ月もしない内にあのような悲劇が、ルッツの身に降りかかろうとは思いもしなかった。



 ルッツが爆弾テロの為に負傷して入院したのは新帝国歴(宇宙歴800年)4月の事であった。
 その入院先の病院で、ルッツは、彼付きの看護婦をしていたクララと出合い、3ヶ月の後に彼女との婚約を発表した。


 「そう言えば、見舞いに行った時に彼女が検温だか何かで病室に入ってきて、ルッツの奴は少々動揺していたな・・・」


 つい、口に出して苦笑するワーレン。
 ルッツのそんな様子にピン!ときて、大親友の彼にやっと春が訪れた事を喜んだものだった。
 ちょっと勝気そうな面を持ち合わせた彼女は、ルッツにはピッタリだと思ったものだった。
 親友が幸せになるのは自分の事のように喜ばしく、煌びやかな華燭の宴を想像したりもした。
 それなのに、運命の女神は何と酷な事をしたものか・・・。


 婚約までして、後は挙式をするだけだったルッツは、9月下旬にハイネセン行きを決定した皇帝ラインハルトの随員の1人として帝都フェザーンを発ったものの、惑星ウルヴァシーで、皇帝一行を護って横死してしまった。


 そう・・・新帝国歴2年(帝国歴800年)10月8日の事だった・・・。


 帝国元帥に叙されたとしても、生きていなければ、愛する彼女を抱く事も出来ないだろうに・・・。
 大神オーディンは、首都星のオーディンを捨てて、フェザーンに遷都した事を快く思っていなかったのか?
 クララ嬢が、もう、一生結婚しないと宣言したという噂を耳にした時、ワーレンは複雑な気持ちに陥ったものだ。


 親友の死を知った時、ワーレンは持っていた書類を取り落とし、ハウフに「閣下!大丈夫でございますか!」と心配された。
 その時の事はあまりにもショックであまり覚えていないのだが、ハウフの話では、ワーレンは小刻みに震えていたらしい。
 そして、「ルッツが戦死・・・ルッツが・・・」と呟いた後で、我に返ったワーレンは、慌てて「それで皇帝陛下は!?」とハウフに確認したそうだ。
 皇帝陛下の身の安堵よりも、ルッツの死にショックを受けていた自分・・・なんともはや・・・である。


 「まぁ、クララ嬢の気持ちは分からなくもないがな・・・。ルッツほどの男はそういるものではないからな。それに俺だって、ヴィオレットの事は今でも愛しているし、今更再婚をする気もないからな・・・」


 ベンチに腰掛けて回想していたワーレンは、ふう・・・と大きな息を吐いた。
 母親や、母の妹や父の姉などが、甥とその息子の将来を心配して、あれこれと再婚話を持ちかけて来た事を思い出す。
 それこそ、しつこいくらいに。
 その度に、「今は忙しくてそれどころではありません」と答えて、再婚話攻撃に耳を貸さなかった。
 実際、「アムリッツァ会戦」や「神々の黄昏<ラグナロック>作戦」の頃にその話を持って来られて、閉口したものだ。
 こちらが死ぬ程忙しい目にあっている時期にばかり現れる親戚に辟易した。


 「落ち着いたら聞きますから。本当に忙しいんです。いい加減に私の立場を分ってもらいたいですね」


 しつこい親戚には、そう釘を刺した。
 だが、それは建前であって、本当は妻の死のショックが大きかったのだと、今になって思う。
 軍人である自分の方が死ぬのは早いと思っていたのに、彼女の方が大神オーディンの元に召されてしまうとは・・・理不尽過ぎて腹が立った。
 そして・・・彼女をあまりにも愛し過ぎていたワーレンは、安易な再婚話に乗り気になれなかったのだった。


 「そう言えば・・・ミュラーの奴、コンスタンツェ嬢とは談笑していたな。珍しく話に花が咲いていた。あの2人・・・案外、似合いかも知れん・・・」


 ワーレンはつい、口に出してしまった後で、「いや・・・年が離れ過ぎているか」と、苦笑を浮かべる。
 19歳のコンスタンツェと、とうに34歳になっているミュラーとでは、15歳の年の差がある。
 15歳の年の差の夫婦なんて珍しくもないが、その年頃の少女が年上の男性と付き合うのにはかなりの障害がある。
 大抵は同年代の彼氏がいたり、片思いなんかをしていたりするものだし、趣味や価値観もかなり違う。
 それに最大の障害は親だ。
 年の離れた男に娘を嫁がせたいと考える親はいない・・・事もないが、少数派だろう。
 ただ、同僚のケスラーは20歳以上も年下の少女と婚約して結婚していたから、年の差のあるカップルは、全くあり得ない話ではないが、これはあくまで、“
特殊なケ-ス”と考えた方がいいだろう。


 「それにしても、一体どんな原因で手痛い失恋をしたのだろうな・・・。ここまで頑なに恋愛を拒むとは、よほどの事に違いない」


 ミュラーは同僚や、回り人間から誰かを紹介されたりする度に、「小官は中尉時代に手痛い失恋をしましてね。それから後は恋愛も、結婚する気も失せてしまいました」と言っては、その手の話から逃げている。
 時々、「恋人募集中です」と口にする事もあったが、その殆どは冗談で、本気で言っている訳ではなかった。
 最初の内は、単なる逃げ口上かとも思っていたが、何度も言われると、本当に“何か”があったに違いないと悟った。
 振ったにせよ、振られたにせよ、相当ショックだった“何か”がだ。


 それにしても、中尉時代となると20歳前後の事だろう。
 本当に何があったのだろう?

 だが、何故、恋愛に対してそこまで引いてしまっているのか、当の本人が頑なに理由を語ろうとしないのに無理やり聞きだして、過去の傷口に塩を塗りこむような無神経さをワーレンは持ち合わせてはいない。
 あの無骨で遠慮のないビッテンフェルトでさえ、ミュラーには、失恋の事を含めて、その手の話題を振らないのだ。


 1度、飲んだ席上で、酔っ払ったビッテンフェルトがミュラーに対して、「・・・卿が結婚しないのは、まさか男好きって事はないよな?」などと言いだした事があった。

 生真面目なミュラーには、その手の冗談は通じない。


 「小官は至って健全ですが。・・・そう見えるとは心外ですね」


 ミュラーはそう言ってその話題を退けたが、何がそこまで彼をストイックにさせているのだろうか?
 異常なほど無口なアイゼナッハが、如何にして細君を口説き落としたのか?という謎と同じくらい、ミュラーの恋愛の対する頑なな態度も、同僚達にとってはやはり長年の謎なのであった。


 「まぁ・・・こればっかりは他人が口出しする事でもないしな・・・。そっとしておく方がいい。・・・きっと、いつか時間が解決するだろう」


 ワーレンはゆっくりとベンチから立ち上がった。
 その直後に、胸ポケットに入れてあった携帯ヴィジホンがけたたましく鳴り、ワーレンは溜息を付いた。


 「閣下、今どちらです?宿舎のホテルにいらっしゃらないから心配して・・・」


 副官のハウフ中佐からだった。
 生真面目な副官のハウフの口調は・・・本当に上官を心配してのものだった。


 「・・・公園だ」
 「え・・・公園ですか??」
 「あぁ、それでどうした?」
 「いえ、積荷作業が少々手間取っていましたが、午前0時には全工程を完了しました。問題なく出立出来ますのでご安心下さい」
 「・・・ん、そうか」


 時計を見ると、午前2時に近い。
 宿舎に戻って、一眠りをした方が良さそうだった。


 「分かった。これから宿舎に帰って一眠りして・・・。そうだな、07:30<マルナナマルサン>に迎えに来てくれるか?」
 「承諾<ヤー>」
 「あ・・・と。その時な、悪いが二日酔いの薬を持って来てくれるか?」
 「・・・かなり飲まれたんですか!?」

 ハウフの声のトーンが高くなる・・・驚いている様子だった。
 それに心配のエッセンスが加わる。

 「大丈夫なのですか、閣下・・・」
 「まぁな。ミュラー相手についつい杯がすすんでしまってな。一応念の為だが、用心に越した事はない」
 「・・・お持ちします」
 「じゃぁ、頼む」


 上官が『かなり飲んだ』事に驚くハウフの顔が映っている携帯ヴィジホンを切って、ワーレンは軽く伸びをして頭を切り替えた。
 そして、もと来た道を引き返したが、ふと、回り道をしようと方向を変えた。

 歩いても大した距離ではないし、酔いを醒ますには・・・うってつけだった。


 やがて辿り着いたその場所は・・・ルッツや同僚達が眠る場所。
 既に門は閉ざされているが、園内は・・・僅かながらにライトアップされ、真っ白な大理石の墓石が闇夜にちらほらと、幻想的に浮かび上がって見える。


 「ルッツ・・・またな」


 ワーレンは小さく呟くと、遠く丘の方に見える、ルッツやシュタインメッツ、ファーレンハイトらの並ぶ墓の方向を向いて敬礼した。


 「・・・そうだ。ヴァルハラにはラインハルト陛下もおられるのだろうから・・・。あぁ、ロイエンタールもオーベルシュタインも、キルヒアイス、ケンプやレンネンカンプも・・・ヴァルハラには集結しているか。そうだな・・・陛下を中心に、皆でヴァルハラ征服をしておいてくれ。俺達がそっちに行った時に・・・更に住み良いようにしてくれているとありがたい」




 宇宙暦804年(新帝国暦6年)11月10日午前10時・・・。
 ワーレンは、居並ぶ同僚達に見送られながら、息子や両親の待つハイネセンへ向けて出立した。




Das Ende




 ルッツの追悼企画で書いた話の続きです。
 半分ボツっていたのですが、ちゃんとした形に出来て良かったです。

 タイトルは・・・ドイツ語で「亡き友人の為に」です。


 ルッツ・・・ちゃんと結婚して子供がいたら、きっと子煩悩だ!・・・と勝手に思い、ワーレンの息子を引き合いに出し、彼に子供っぽい、水遊びをさせてしまいま

した。
 作中のルッツの言葉ではないですが、たま~には、童心に返るのも良いかも?

 ルッツとワーレン・・・似ているので、(息子までが言ったし)ワーレンにルッツを語らせる・・・のは、とても楽ですね。(書きやすいという意味で)
 ただ、あまり捻りが無いのですが・・・。


 ・・・あまり追悼になっていませんが、11月・・・になっているのは理由があり、ワーレンは仕事の都合で11月にフェザーンに来て、11月8日の「月命日」に墓参りをして・・・と言う、時間の流れです。


 いっそのこと、ワーレンの日記風にして、彼の1週間を書くかしら??・・・爆!(うわぁ、面倒くさそう・・・でボツ!)

 いや・・・この話は、そもそも、ルッツの追悼の為に書いた作品なので、ワーレンの一週間では、ルッツの存在がぼやけてしまうのでダメですね。

 
 さて、ミュラーが34歳って事は、ワーレンは37歳なんですよね。
 原作を読み始めた時は、私はアレでしたので、さすがに30代は未知の世界でした。

 同盟のアッテンボローが30歳になって嘆くシーンがありますが、自分が30代になると、なるほど・・・と思いました。
 さて、ミュラーは9月生まれで、ワーレンは7月生まれで・・・そういうのを調べるのは凄く楽しいですね。
・・・と言っても、誕生日の設定はコミックスによるものなので(田中先生の了解を取っているだろうけど)、原作にはない設定ですね。
 それによると、オーベルシュタインは『こどもの日』の生まれなのですが・・・妙にオカシイです。


 そして、何度も書きますが・・・私の友人や、ワーレンがどんなに心配しようとも、ミュラーとコンスタンツェ嬢とのお付き合いはありません。
 なので、第三部目は・・・勝手な事を考えるワーレンはいますが、コンちゃんを登場させてません。
 それにしても、どんな失恋だったんだろうなぁ。
 中尉時代って事は、ミュラーが、フェザーン駐在武官だった頃の事だろうとは思うのだけど・・・。
 あぁ、でも、フェザーン駐在武官の話は、OVAのオリジナルだっけ・・・。
 そう言えば、知人がその当時の事を小説にしていたっけ・・・もう、サイトを閉鎖してしまいましたので読めませんが。

 さすがに、彼女に振られたからといった理由で、ここまで女性不審と言うのも変な話なので、きっとね~結婚詐欺まがいの事をされて、純情なミュラーが立ち直れないぐらいに散々な目に遭ったって感じかな。
 それも、1度や2度じゃなくて3回ぐらいあったとか。(爆)←その3回とも全て、ミュラーが気付いていないだけで、同じ組織が仕掛けていたとしたら・・・

もう、サイアクですよね。
 まぁ、そんな感じで、女性を魔物と思うようになって、深入りは避けているとか?


 さてさて・・・。
 この一連の「Ein Requiem」シリーズですが、最初からルッツの追悼で書くと決まっていた訳ではありません。
 ただ、自分の好きな聖飢魔Ⅱの2つの歌を聴いた時、何かしらに使えると漠然と思っていただけです。
 なので、1作目と2作目に関しては割合と書きやすかったのですが、3作目はちょっと考えてしまい、書きかけのまま、放置してしまいました。
 それは、追悼曲の話にするには、もう、無理だったので・・・11月10日の朝に出立となると、夜はもう、ワーレンは旗艦サラマンドルの中ですから・・・時間的
に無理だし、ワンパターンはイヤだったし。


 さて、どの時点で放置していたかと言うと、ワーレンとミュラーが分かれる寸前までで終っていました。
 さすがに勿体無いな・・・と思い、書いたのがこの作品です。
 先の2つは少し手を入れた改稿物であり、3作目は新作・・・ここが肝心。
 
 一番苦心したのは、まず、ワーレンが家族をフェザーンに呼んだのはいつか?と、ワーレン親子とルッツが公園で遊んだのはいつか?で。
 何しろ、最初に書いた時から随分経っている為、時間的認識が欠けていて。
 勿論、書いていた時も、原作を片手に年表っぽい物を書きだしていましたが、それをもう1度やったという感じでしょうか?

 とにかく、細かくて面倒くさいのですが、これはとても重要で、重要と言えば、息子の年齢も。
 まぁ、これについてはOVAでも出てきますが、ワーレンが地球に向かう話の時に、 4年前に妻と死別・・・と出てきます。
 それで、宇宙歴799年にアルベルトは4歳と言う事になる訳で、そして、奥さんが亡くなったのは795年という事ですね。
 難産で・・・でしたからね。

 そこから計算を始めたのですが、翌年、ラインハルトはフェザーンを正式に首都にするので、家族を呼ぶ。
 公園で遊ぶ為には、ルッツが元気でなくてはならないので、テロの怪我が癒えた800年8月末に決定。
 実はこの時期しかないんです・・・2人の接点。


 何故なら、その前年はワーレンは地球に行っていますし、ルッツ自身はイゼルローン要塞にいて接点が無く、その後は、「回廊の戦い」があり、平和的時期で、尚且つ、2人がフェザーンに・・・だと、どうしても800年の8月前後しかないんです。


 7月29日に遷都が決まり、8月末には家族がフェザーンにいますから、オーディンからの移民の第一陣にワーレンの家族がいた事にすれば問題解決です。
 尤も、ルッツに言わせれば、「特権乱用」と言う事になるのですが、ワーレンは帝国の重鎮たる上級大将ですから、このぐらいは特権乱用には当たらないでし

ょう^^@

 そして池で遊ぶには夏でなくてはなりませんし、これも8月にする事で解決出来てしまいました。
 いやぁ、接点があるのが真冬でなくて本当に良かった。(真冬だったら雪遊びに変更すればいいだけの話ですがね)

 また、7月6日にルッツは婚約を発表していますので、クララが話の中にまぎれていても無理が無いし。
 そういうのを原作を引っ張り出したり、エンサイクロペディアで確認したりして、何とか話を構築出来て本当に良かったです。


 そして思うのですが、銀河英雄伝説の次世代の物語を書くとなると、フェリックスとアレクだけではなく、登場させるのはやはり、ワーレンの息子になる。
 別の友人のサイトでもワーレンの息子が登場しました・・・名前は勿論違いますが。

 それから、次世代の物語に絶対に登場してくると思われるのは、ケンプの2人の息子とアイゼナッハの息子。
 そして、多分、将来的にマリーカが生むであろうケスラーの子供とか。
 ワーレンがハイネセンにいる事を考えると、何かしらのきっかけで、キャゼルヌ家の次女と、アルベルトが出会う可能性だってあるでしょ?
 年齢的には、アルベルトと近いと思うんだけどな・・・。
 キャゼルヌ家の次女は、その名前が原作でもOVAでも付けられていなかったので、ある意味、謎の少女ですよね・・・。

 長女がシャルロット・フィリスですから、そうだなぁ・・・次女はルーシー・メイとかどうかな?
 何故、ルーシー・メイかと言うと、「南の虹のルーシー」が好きだから・・・ただそれだけの理由ですが、「ルーシー・メイ」の名前の響きが好きなのです^^@

 





 

 宇宙暦804年(新帝国暦6年)11月9日午前9時。


 新領土<ノイエ・ラント>総督である、アウグスト・ザムエル・ワーレン元帥は、首都星フェザーンのフェザーン中央宇宙港にいた・・・。


 「閣下、昨日はお墓参りの後、どちらに行かれたのですか?」


 副官のハウフ中佐に声を掛けけられたワーレン。
 ワーレンは、バインダーを片手にフッと笑った。


 「あぁ、あの後は・・・飲みに行った」
 「え、お1人で・・・ですか?」
 「まあな。・・・昔、ルッツと良く飲みに行った店があってな。昨日はあいつの月命日だったからな・・・」
 「月命日・・・?」


 ハウフは不思議そうに呟いて、やや首を傾げる。
 その仕草で、彼には意味が分かってないらしい事が見て取れる。
 それで、ワーレンは『月命日』について教える。
 地球時代の古い宗教からきているらしいが、死者を悼む為に、毎月、亡くなった日と同じ日に、その死を悼んで墓参りをしたりするのが、月命日だと。


 「良い風習ですね、それ」
 ハウフは感心したように呟いた。
 「・・・確かにな。死者を悼む気持ちが崇高な感じがする。ちょうど先月がルッツの祥月命日なんだが・・・。あぁ、『祥月命日』と言うのは本当に亡くなったのと同じ月日らしい。とにかく・・・命日を1ヶ月もずれての墓参りとなると、少々、墓参り自体を心苦しく思っていたのだが、この『月命日』とやらのお陰で、心置きなく墓参りが出来て本当に良かった」
 「そういう良き風習は・・・もっと取り上げられても良いのではありませんか?推奨すべきですよ、閣下」
 「全くだ。俺もそう思う。実は、この月命日の事を教えてくれたのはメックリンガーでな。さすがに博識でありがたい。ところで、ハウフ。出航準備の方はどうなっているのだ?」
 「順調です。このまま何事もなければ、明日の10:00<ヒトマルマルマル>にはちゃんと出航出来ます。でも、そうすると、また、暫くは皆に会えなくなりますね」
 「あぁ・・・そうだな。じゃぁ、俺はこれから、それぞれのオフィスを回って挨拶してくる」
 「はい・・・お帰りはいつぐらいになりますか?」
 「昼食はケスラーとメックリンガーと取る事になっているから・・・。16:00<ヒトロクマルマル>には、一旦、ここに戻る」

 ワーレンは、様々な物資を積み込まれている、旗艦「火竜<サラマンドル>」の雄姿を見上げた。
 

 午後4時、僚友達に一通りの挨拶を済ませたワーレンは中央宇宙港に戻って来たが、連れがいた・・・ミュラーである。


 「どうだ。順調か、ハウフ?」
 「はい、順調です。今、水や食料を積み込んでいますが、それが終われば後は何も。後は、明日、我々が乗り込むだけになりますよ、閣下」
 「・・・そうか。悪いが、これからちょっとミュラーと出かけるから、何かあったら、携帯ヴィジホンに頼む」
 「はい、閣下」


 ハウフの敬礼を受け、ワーレンはミュラーとともに、ゆっくりと歩き出した。


 今日も昨日と同様に過ごしやすい日であった。
 小春日和というやつだ。

 
 「・・・これから行く所は、宇宙港の外れの寂れた路地にあるんだ。今日は天気がいい。少し歩くのは構わないだろう?」
 「ええ・・・」


 2人はごみごみと入組んだ、少し治安の悪そうな路地裏を行く。
 気をつけないと見過ごしてしまいそうな、小さな看板の赤レンガの店。


 「・・・よくこんな店を知っていますね・・・」


 ミュラーは目を丸くした。
 見落としてしまいそうな小さな入り口・・・。


 「この店を最初に見付けたのは俺じゃない。・・・ルッツなんだ」
 「ルッツ提督が・・・」


 口の中で小さく呟くミュラー。
 ワーレンは、新領土<ノイエ・ラント>のハイネセンに戻る為に同僚に挨拶をし、一番最後に会ったのが、元帥の中で一番の年少者のナイトハルト・ミュラーだった。


 「・・・今日これから時間があったら、卿を連れて行きたい所があるんだ。何の予定もなかったら、俺に付き合ってくれないか?」
 「はい、構いませんが」


 ワーレンに言われたミュラーは、この日はさほど忙しくもなかったので急遽仕事を切り上げた。
 そして、「何かあったら、携帯ヴィジホンに連絡をくれ」と、副官のドレウェンツに頼んで、ワーレンと2人で早々とオフィスを出たのだ。
 一旦、出航準備をしているワーレンの旗艦の「サラマンドル」に立ち寄ってから、目的地まで歩いているという訳だった。
 ミュラーは、行き先は「居酒屋」としか聞いていなかった為、まさか、こんな店だとは思わなかったのだ。


 「ここはな、夜7時過ぎてしまうと、港湾労働者達が・・・どっとやって来る」
 「え、労働者・・・ですか?」
 「あぁ、本当にドヤドヤ・・・と。そうすると一気に騒がしい店になるのだが、仕込みの終わった直後から夜7時ぐらいまでは誰もいないんだ。そのギャップが面白い。だけどな、さすがに労働者に混じって・・・もアレだからな。俺達はたまに・・・早めに仕事を切り上げて、ここで良く飲んだんだ」
 「・・・へぇ・・・」
 「料理も酒も美味い。それにマスターも感じが良い人で飲んでいて気分が良いんだ」


 年上の同僚の意外な行きつけの店の存在。
 ミュラーは赤レンガを指で軽くなぞった。


 「さぁ、入ろう、ミュラー」


 ミュラーが頷いたので、ワーレンはゆっくりとドアを開けた。
 カラン、カランと、心地良いドアベルが鳴り響く。




 「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」


 マスターはにこやかに微笑んだ。


 「・・・今日はミュラーを連れて来た」


 昨日、同僚を連れて来ると宣言していたワーレン。
 マスターはゆっくりと頷いた。


 「・・・お名前は良く知っておりますよ。お若いのに、既に宇宙艦隊司令長官でいらっしゃる」


 そう言って、マスターは先月の29日付けの電子新聞を差し出す。
 一面に載っているのは大規模な演習からの帰還直後、旗艦「パーツィヴァル」のタラップから手を振るミュラーの写真・・・。


 『いいですか、閣下。沢山の報道関係者が来ていますから、出来るだけ愛想良くして下さいね』


 副官のドレヴェンツに言われて、思わず顔を引き締めるミュラー。
 
 『その通りです、閣下。いいですか、閣下は宇宙艦隊の顔なのですから』


 参謀長のオルラウにまで念を押されて、溜め息をつきながら・・・仕方なくポーズを取るミュラー。
 まさか、こんなにデカデカと新聞の一面を飾る事になろうとは思ってもみなかったミュラーは翌日の新聞に辟易した。
 そして、忘れていた頃に、今日・・・これをまた見ようとは・・・赤面して俯く。
 小さく息を吐いて、肩を竦めた。


 「・・・ほう。先月末に卿がやった軍事演習の記事か?」


 その記事を読んでいないワーレンは、物珍しそうな表情で電子新聞を取り上げた。


 「あぁ、こんなにアップで写っているなんて恥ずかしいです。オルラウが『閣下は宇宙艦隊の顔なのですから』などと言うので、必要以上に笑顔にならざるを得なくて。あの・・・あんまり見ないで欲しいんですが・・・」
 「・・・ふむ。結構、写真うつりがいいんだな。・・・卿も帝国を背負って立つ重臣で、有名人という訳だ」
 「・・・からかわないで下さいよ。こんなの・・・いくら写真うつりが良くても、恥ずかしいだけなんですから・・・」
 「知っているか?卿は女性に人気があるのだそうだ。どこかの雑誌で見たとケスラーが言っていた」
 「冗談でしょう?女性にもててもそんなに嬉しくありませんね。あまり興味がありませんから・・・第一そういうのが苦手ですし」


 ミュラーはそう答えて肩を竦めた。
 ワーレンは「おい、おい・・・勿体無い。その若さで隠居じみた事を言うもんじゃない」とからかう。

 ミュラーは、その若さと、人目を惹く穏やかな容貌で、実は、世の女性にかなり人気がある。
 実際、数社が発行している雑誌での人気投票で、有名な俳優に混じって、ミュラーは上位に入っていたのだ。
 それはミュラー自身も知っていたが、だからといって自分から積極的に行動を起こそうと考えた事はなかった。 
 彼自身は、中尉時代の手痛い失恋を引きずっていて、それ故に女性に積極的になれず、未だに独身を貫いているのだった。
 ミュラーは本当に気恥ずかしかったのか、電子新聞を奥に押しやって、困惑気味であった。
 
 元帥と言う身分でありながら、とてもそうは見えない優しげな青年・・・それが万人から見たミュラーの印象だった。
 長身ではあるが、どちらかというと細身で、砂色の髪と砂色の瞳が彼を軍人っぽさから遠ざけているのかもしれない。
 度重なる戦傷のせいで左肩が心もち下がっているが、それさえ、自分から言わなければ気付かれない程度だ。


 ミュラーはもう少し自分の容姿に自信を持つべきだ・・・と、ワーレンは本気で心配していた。



 カラン、カラン・・・。
 軽やかなドアベルの音とともに、籠いっぱいの玉葱を抱えてコンスタンツェが入ってくる。


 「・・・父さん、これでいい?仕込み最中に玉葱が切れた・・・なんて、ちょっとボケているわよ!!」
 「・・・おい、俺はそんなに年を食ってないぞ。ほら、もうお客様が起こしなのだ。ちゃんと挨拶をしなさい、挨拶を・・・」


 玉葱の籠を受け取りながらマスターはやんわりと言う。
 コンスタンツェは、カウンター席のワーレンとミュラーに目を止めて真赤になった。
 そして、ばつが悪そうに肩を竦めて微笑んだ。


 「えっと・・・いらっしゃいませ、ワーレン閣下。あ、今日はミュラー閣下もご一緒なんですね。はじめまして、ここの娘でコンスタンツェと申します」
 「あ・・・いや、こちらこそ、はじめまして」


 ミュラーは軽く頭を下げた。
 2人は初対面であるが、コンスタンツェの口ぶりでは、ミュラーの顔を知っているようであった。


 「あぁ、そうだ。コンスタンツェ・・・表にこれを出してくれ」


 マスターに木の札を手渡され、コンスタンツェは「分ったわ」と頷いた。

 「どうかしたんですか?」
 尋ねるワーレンにマスターは「いや・・・なに。せっかくですから、ゆっくり飲んで頂こうと思いましてね。昨日も7時ちょっと前に慌しくお帰りになられたでしょう?この店は、遅くなるとアレですから」とマスターは苦笑した。
 7時過ぎにやって来る港湾労働者達は良くも悪くもがさつな男達が多い。
 明るいのは良いのだが、彼等がいては、ゆっくりと落ち着いて飲む・・・という雰囲気ではなくなるのだ。
 
 「ですから、貸切の札をね・・・」
 「あぁ、それはありがたい」


 ワーレンは、マスターの気遣いに感謝した。


 「フロイライン、昨日はありがとう」


 表から戻ったコンスタンツェにワーレンが声を掛けると、彼女は手を拭きながら、はにかんだ笑顔を見せた。


 「いえ・・・。ちょっとお耳汚しだったかしら・・・と、不安でいっぱいだったんですよ、実は・・・」
 「いや・・・。あれは素晴らしかったよ。何と言うか、あの曲は心に染み入る名曲だな・・・色々と考えさせられた」
 「一体、何の話なんです?」


 話が全く見えないミュラーは、怪訝そうな顔で横から口を挟む。
 ワーレンは、昨日の出来事をかいつまんで説明した。


 「追悼に相応しい、心に染み入る名曲ですか。それなら、その曲・・・小官も聴いてみたいですね」
 「・・・じゃぁ、また歌いましょうか?」
 「・・・そうだな。でも、他のリクエストもしたいな」とワーレン。
 「ワーレン閣下ばかりがリクエストですか?ずるいです。新しい歌のリクエストは小官に譲って下さい」
 「・・・じゃぁ、リクエストは卿に譲るとするか」


 苦笑まじりに言うワーレン。
 ミュラーは妙なところで子供っぽい事を言うのだ。

 
 「・・・ルッツ提督は小官の命の恩人なんです。あの時、惑星ウルヴァシーで彼がいなかったら、一体どんな事になっていたかと思うと・・・考えるだけで本当に恐ろしい」


 ミュラーは小さな溜息を漏らす。


 「小官も陛下も彼ががいたからこそ、生き長らえた訳で・・・」
 「・・・あぁ、そうだったな」


 射撃の名手であったルッツは、撃たれて負傷したミュラーや他の者に皇帝陛下を守るように託して、たった1人・・・その場に残って戦ったらしい。
 そして、皆が逃げ切ったところで・・・凶弾に倒れたのだ。


 「だから、ルッツ提督には、どんな形にせよ、今度は幸せな形で生まれ変ってほしいんです。残された人の為にも・・・次の人生では、絶対に幸せになって欲しいんです・・・そうでないと・・・」


 ミュラーの声音は硬い。

 ワーレンは微妙な顔つきでミュラーを見つめた。                   

 残された人・・・。
 ルッツの婚約者であった、フェザーン中央病院の敏腕看護婦のクララ・アインシュタイン嬢。
 噂では、友人達に、一生結婚しないと誓ったらしい。
 だから、ミュラーは強く思うのだ。
 今度生まれ変わるであろうルッツの魂には、彼とその周りも“幸せの光”に包まれて欲しいと・・・。
 ミュラーは、急に黙り込んで、水割りのグラスにほんの少し口を付けた。


 「あの時、最後まで残ろうとしたのは小官だったんです。兄とか・・・親戚はいますが、小官は独身ですから真に守るべき家族はいません。ですが、ルッツ元帥には婚約者がおられた・・・だから、残るのは自分しかいないと。しかし、小官には直前に受けた銃創がありましたし、銃の腕前は、ルッツ提督の方が遥かに上で・・・。それで、ご自分が残ると言い出されたんです・・・。何と理不尽な・・・逆なら良かったのに!と何度思った事か。未だに夢を見て飛び起きてしまいますからね・・・あの時の事は」


 ミュラーの声はいつになく低い。
 しかも絞り出すような口調・・・本当に、夢を見てしまうのだろう。
 あれから4年も経っているのに。


 「辛い・・・記憶だな」


 ワーレンはしみじみと呟いた。
 ミュラーが残ろうとしたのは、ルッツには婚約者があり、ミュラーは独身だったから・・・確かにそのとおりなのだ。
 だが、結果的に残ったのはルッツで、それが結果的に皇帝一行を護る事になったのだが、悲劇をも生んだのだ。
 過酷な運命で・・・恋人達は永遠に引き裂かれたのだ。  

 
                
 「・・・癒されるかどうか分りませんが、ぴったりの歌があるわ。これも同じ友人から教わった歌ですけど・・・」


 コンスタンツェの突然の提案。
 「ほう・・・」とワーレン。
 「『秘密の花園』というんですけど、私、この歌、とても好きなんです。それでいいでしょうか?」
 押し黙ったままのミュラーを気遣いながら言うコンスタンツェ。
 「じゃぁ、それを頼もうかな・・・。リクエストしたいけど、急に曲が浮かばないしね」とミュラーは微かな笑みを浮かべた。
 コンスタンツェが頷いて、少しマスターの方を見る。
 彼も、「歌いなさい」と言うように僅かに口を動かしたので、彼女はピアノの前に座った。


 そして・・・。
 ゆっくりと鍵盤の上に白い指を乗せ、透きとおる歌声を響かせた。




 色とりどりに染まる夢と
 遥か彼方の遠い世界
 天国でも地獄でもない
 夢想花 咲き乱れる園
 
 白い花の少女達は眠りについて
 光とともに未来<あす>を見てる
 
 ほのかな香り 溶ける心
 めぐる輪廻の藻屑と消え
 天国でも地獄でもない
 魂の行きつくところ


 名前を捨てた 戦士達の
 彷徨<さまよ>う Cristal soul
 色を流して花となれよ


 Blossom dreem 迎えが来た
 未知なる時代へ


 黄泉<よみ>の国の不思議な夢も
 忘却の彼方へ


 何事もなかったように 
 目覚める Babyhood
 ただの幻と思えばいいさ


 Secret dreem 染まった身を 
蕾<つぼみ>に託して


 Blossom dreem 迎えが来た 
未知なる時代へ
 
 忘却の花園へ





 「素晴らしい曲ですね・・・」


 聴き終わって、ポツリと呟くミュラー。


 「ルッツ提督は、ご自分の身を呈して陛下を窮地から救い出し、そして、我々をも救って下さった。だから、まさに戦士という訳なのですね・・・」


 ミュラーは言葉を噛み締めながら言う。
 ワーレンも「・・・戦士か」と、感慨深そうに呟いた。


 「私・・・上手く言えませんが、ルッツ提督が戦士なら、きっとヴァルハラに行っているはずだと思いますわ」


 コンスタンツェはこう言って、ミュラーの隣に腰掛けた。


 「今、こうしている間にも、また誰かの子供として、生まれ変わって、新しい人生を歩まれるかもしれないわ」
 「・・・そう願いたい」


 ワインに口を付けたワーレンがしみじみと呟き、ミュラーも軽く頷いた。


 「そうですね。そして、また射撃の名手になって名を馳せるかもしれませんね・・・。そうなってもらいたいですね」


 ミュラーは水割りのグラスを掲げて呟いた。


 「何にしても、人の為に命を落とされた方は徳が深く、次の生では幸せになれると聞いた事がありますよ」


 マスターは、空になったワーレンのグラスに、ルッツの好きだった赤ワインをゆっくりと満たす。


 「古い宗教で、『輪廻転生』と呼ばれるものだそうですが、私もルッツ提督は生まれ変わっても、今までと同じような素晴らしい生を歩まれると思いますよ。本当に良い方でしたからなぁ・・・」


 マスターはしみじみと呟いた。


 「・・・心に染み入るこんな素晴らしい歌が聴けて、今日もここに来て、本当に正解だったな」


 ワーレンもしみじみと呟く。


 コンスタンツェは、「それじゃぁ、次は昨日も歌った『Ein Requiem』を・・・また歌いますね」と、立ち上がると、またピアノの前に座った。
 物悲しいメロディーだが、亡き人を偲ぶ、美しい旋律。
 ミュラーもワーレンも感動していた。


 「フロイライン、本当に今日は良い思いをさせて頂きました。・・・また、飲みに来ますね」


 ミュラーが言うと、マスターは、「いつでもどうぞ」とにこやかに微笑んだ。
 そして、「7時以降は物凄い状態になりますから・・・早い時間にお越し下されば幸いです」と付け加えた。
 「はい、そうします」とミュラーは微笑んだ。


 ミュラーの言葉に、コンスタンツェは微笑んでピアノに向かい、ゆっくりと、ノクターンを弾き始めた・・・。




Das Ende




 ルッツ追悼第2弾・・・前作の続きで、翌日の話です。
 ワーレンとミュラーが書きたくて書いたのがバレバレですが・・・。

 この曲にあるように、「色を流して」生まれ変わってほしいです、ルッツには・・・。


 タイトルは・・・「輪廻転生(鎮魂歌)」です。


 この曲も聖飢魔Ⅱで3枚目のアルバム、「地獄より愛をこめて」の中の1曲で「秘密の花園」でございます。
 美しい旋律のバラードで、作詞がデーモン小暮閣下で、作曲はジェイル大橋代官という、かなり初期の曲です・・・。


 「天国でも地獄でもない」場所で、今、まさに生まれ変わる準備をしている魂の歌なんです。

 なので、ヴァルハラっぽいかなぁ・・・って。(ヴァルハラっていうより、「喜びの島<マグ・メル>」に近いかも?)


 マグ・メルってのは、ケルト神話に登場する島で、「戦士達等が、死や栄光によって行きつく事の出来る場所で、喜びがあふれた天国のような場所」です。

 ケルト神話を扱った、あしべゆうほさんのマンガ「クリスタル・ドラゴン」なんかにも、この島は登場しますね・・・。(「マーグメルド」として描かれているけど)

 まぁ、ルッツにはピッタリな歌かも・・・って思いました。


 閣下の歌詞は悪魔を超越してますし、聖飢魔Ⅱのバラードの中で名曲でしょう、これは・・・。


 さて、ミュラーは、ルッツの行きつけだったこのバーに密かに通う事になるのでしょうか?


 1人、2人で飲むのにはいいですが、7時以降は労働者が来るので落ち着かないでしょうね。
 ビッテンフェルト辺りと来るなら、7時以降が狙い目ですけどね。
 きっと、あのオレンジ色の猪さんがいたら、労働者達と、どんちゃん騒ぎになるでしょうね。


 だから、マスターは「早い時間に」とね。


 友人は、コンスタンツェとミュラーがいい関係になったらいいと思う!!とか言っていたのですが、コンちゃん・・・も10代ですから、一歩間違うと、ケスラーとマリーカのようになってしまいそうです。


 それに、私の中では、ミュラー君とビッテンフェルトは生涯独身って設定にしちゃってますので、それを曲げてまではどうなんだろう?


 そんな訳で、恋には発展しません・・・ワーレンはくっ付けたがっているようですが・・・爆!


 さて、「ウルヴァシー事件」ですが、この回のセル画をうさけ・・・持ってます。

 さすがに、ルッツが撃たれるところのセル画は入手はしませんでしたが、それ以外のシーンはちょこっとあります。
 マインホフ兵長のとか、背景付きのセル画もあります。


 夜で、周りが炎に包まれているので、この回のセル画は・・・皆の顔はオレンジ系でまとめられているのもレアかも。


 パラパラマンガみたいなセル画があって、パラパラやると、豆粒みたいなルッツ(顔はハッキリと描かれていない)があちこちに移動する・・・なんてのも。

 今となっては、「銀河英雄伝説」のセル画は貴重です。


 それほど持ってはいませんが、ルビンスキーが赤ワインのグラスを持っているのとか・・・レアかも?(フェザーン自体がそんなに出ないから)


 あと、誰だか分からないけど、地球教徒のセル画も、ある意味でレアかも・・・。

 このセル画はね・・・ワーレンのセル画を通販で購入した時に、「オマケに差し上げます」と言われて頂いたモノなんですが、私的には、「サラマンドルに乗りこんでいた地球教徒」を思い出し、「ワーレンを暗殺しないでね」って感じで驚いたのを覚えてます・・・何故、ワーレンに地球教徒なのよ!!








無くなったら、人生的に一番困る調味料といえば? ブログネタ:無くなったら、人生的に一番困る調味料といえば? 参加中


 オーソドックスに「醤油」でしょうか。

 あぁ、でも「塩」も困るしね。

 とか言いつつ、「マヨネーズ」ってのもありかな??

 最近は・・・調味料も意外と沢山あって。

 つい最近のブームだと「食べるラー油」とかね。

 そのちょっと前だと「柚子こしょう」とか。

 そう言えば、「柚子こしょう」でうちのダンナがおかしな事を言っていました。

 辛党の私は、あのピリリとした刺激が好きで、「柚子こしょう」を愛用しておりますが・・・。

 あれって、原料は、柚子の皮に、青唐辛子、そして食塩。

 まったく「胡椒」は入っていません。

 でも、「こしょう」なんですね、呼称は・・・って、ダジャレている場合ではないけど。

 まぁ、そんなの分かっているのですが、昨日ね~・・・「柚子こしょうには、胡椒が入っていると思い込んでた。原料見たら・・・入ってね~・・・思い込みって怖い」とか言っているんです、うちのダンナ。

 うーん・・・ここ数年、柚子こしょうを食べていますが、今頃気づくか!!?です。

 あと、何気にないと困るのは、「七味唐辛子」と「粉山椒」です。

 うどんやら、牛丼やら・・・「七味唐辛子」は欠かせません。

 あと、ウナギを食べる時も、くっついている「山椒」だけでは足りないので、SBの「山椒」をいっぱい振りかけて食べてます。

 ウナギの時しか使いませんが、「山椒」で舌がビリビリシビレル感じが好きなのですが、ダンナは「・・・それって変だ」と。

 そうかなぁ・・・やっぱり、ヘンなのかなぁ??