変ったカタチのビーチサンダルを見つけたと言って、スパルタニアンの格納庫に隣接する詰め所で、皆に見せて大騒ぎを巻き起こしてのはポプランだった。


 ・・・と言っても、このビーチサンダルは、格納庫で見つけたのではない。
 司令部に近い休憩室のパイプ椅子の上に、紙袋に入れられて置いてあったらしいのを勝手に持って来ていたのである。


 「それ・・・捨ててあったんじゃなくて、ただ椅子の上に置いてあった物なんですよね?不味いですよ。もしかしたら・・・持ち主が探しているのではありませんか?」


 木製のビーチサンダルなんか見た事がない。
 それに、ビーチサンダルと比べて、履き心地が良さそうにも見えなかったし、何となく不思議な履物だった。
 「な?面白いだろう?」
 ポプランから見せられて、困惑気味の表情を浮かべるユリアン。


 「それ・・・本当にビーチサンダルなんですか?ちょっと違うように見えますけど・・・」
 「そっかなぁ?俺は絶対にビーチサンダルだと思うね。木製のビーチサンダルなんて・・・かなり珍しいシロモノだぞ。それに、これ。台は分厚いし、重いし、し
かも、サンダルの底が、これまた変わってるんだよな~」
 ポプランは全然取り会ってくれなかった。


 ビーチサンダルの台は一般的にはゴム製だ。
 鼻緒に使われている素材も、柔らかめのプラスチックやビニール製で、主に海やプール等で履く事が多い。
 最近では、はだしが健康にいいとか雑誌や立体テレビ<ソリヴィジョン>の番組などでも取り上げられていた。
 その為、ハイネセンでは夏場、普通のサンダルと同じように、ビーチサンダルを街中で履く人が増えてはいた。
 はだし教育の一貫として、保育園や学校で指定の履物として取り入れている所もあるが、ただし、木製の物は見た事が無かった。


 「ところで。それ・・・いつ、見つけられたんですか?」
 「うん?1時間ほど前だったかな。・・・それよか、ほら、こいつを見ろよ。裏にこ~んな出っ張りが2つも付いているんだ。このでっぱりも木で出来ているんだ
。ちょっと履いてみたんだが、これが安定感がなくって歩きにくいのなんのって。バランス感覚を養うタイプのビーチサンダルだと俺は見たね。・・・本当に珍しいよな、これ」
 そう言いながら、ポプランは他の隊員達に見せては、その反応を楽しんでいる。


 「・・・人のを勝手に履いていいんですか?一歩間違うと、“泥棒”になりかねないん

ですけど・・・」
 ユリアンの問いかけに、「ま、大丈夫だって。・・・わざと盗んだ訳じゃないんだし。ちょっと借りただけだからさ」と、全く取り合おうとしないポプランであっ
た。


 (確かに、履物としては珍しい部類に入るんだろうけど・・・あれ、本当にビーチサンダルなのかなぁ??)


 ユリアンがまた何か言いかけた時、格納庫に入ってきたカリンが、前髪をゆっくりとかき上げながら、ユリアンのそばにやって来た。
 「ねえ、司令部でちょっとした騒ぎがあったみたいよ・・・」
 「え、騒ぎって??」
 「良く分からないんだけど、さっきフレデリカさんと出会ったら、ムライ中将が私物を盗まれたとか何とかで・・・」
 それを聞いた途端に、ユリアンの顔色が無くなった。


 「ポプラン中佐・・・。それ、何処で見つけたんでしたっけ?」
 「あ~・・・司令部近くの休憩室だけど?」
 「あの、それ・・・もしかしたら、ムライ中将の物かもしれませんよ!」
 ユリアンが慌てて駆け寄ると、ポプランは苦虫を潰したような表情になって肩を竦める。

 「うえ~・・・あのオッサンの物~!?」

 「司令部で、ムライ中将の私物が盗まれたって騒ぎになっているそうですよ。ほら、早く返しに行かないと・・・!」
 「しゃあないなぁ・・・一応、他意はないからって謝って来ようっと・・・」
 ポプランは、反省をしているのかしていないのか・・・ニヤリと笑うと、黒くて太い鼻緒を勢い良く掴んで格納庫から飛び出した。


 「・・・ねぇ?あれ、何ていう履物なの??」
 「さぁ?」
 カリンに声をかけらたユリアンは、首を横に振った。
 「中佐はビーチサンダルだって言っているけど、多分・・・違うと思うよ、何となくだけれど」



 司令部に顔を出したポプランは、少々疲れた顔のムライ中将の目の前に、持って来た物を差し出した。


 「あ!それを持っていたのは貴官だったのか!あぁ・・・おい、鼻緒をそんな風に扱うな・・・」
 
 いつもは、どちらかと言えば物静かなムライがポプランに詰め寄る。
 高価な正絹製の鼻緒の為、鼻緒を持ってクルクルと乱暴に扱っていたポプランに腹が立ったらしい。


 「貴官は何か勘違いしているようだが、これはビーチサンデルではない。下駄と言って、天然木を使った、専門の職人の手による一つ一つ手作りの一品なのだ。・・・

簡単に量産出来るビーチサンダルとは全く異なる物だ。この鼻緒とて、天然物の最高級の正絹製なのだ・・・。それをそんな風にクルクルと手荒く扱われては・・・」
 
 「・・・すみません」

 一応、殊勝に謝るポプラン。
 ムライ相手では下手な言い訳などしない方がいいので、「すみません」とだけ言って、とりあえず、神妙な面持ちで、深々と頭を下げる事にする。


 「・・・まぁ、休憩室に置きっ放しにした私にも多少の責任はあるが、だからと言って、勝手に持ち出すのは人の道に外れる恥ずべき行為であって、泥棒扱いされ

ても仕方がないぞ。人の迷惑と言うのを貴官は学ぶべきで・・・」


 ムライはポプランに、ネチネチ・・・グチグチグチグチ・・・と、いつもの数倍の嫌味を言う。
 だが、注意するよりも前に、神妙な態度で素直に謝られたので、さすがのムライも調子が狂ったようだ。 
 それに、どうせ何か言われるだろうと思っていたポプランは、心の回路と耳の回路をオンにして、右から左へと聞き流し、さっさと忘れる努力をしていた・・・。
 本当に『歩く小言』だよな・・・と思いながら。  
 尤も、嫌な事を素早く忘れる事は、キラキラ星の高等生命体にはいとも簡単な技ではあったが・・・。


 ポプランはヤンに、「これからは、勝手に持っていかないようにね」と、肩をポンポンと叩かれた。
 「全く呆れた奴だな・・・」とシェーンコップにも鼻で笑われ、アッテンボローには、「・・・ったく。こういう時にこそ、『それがどうした!』って言えばカッコ
イイのになぁ・・・」と爆笑されてしまった。

 でも、ポプランには元々悪気はなかったし、ムライにしてもそれ以上をとやかく言う気はないようだったので、その件はそれで終わるかに見えた。


 しかし、暫くの間・・・。


 『ムライの下駄』の物珍しさに皆が見に集まり、妙齢の女性士官達がムライのそばにいるのを発見したポプランは、かなりショックを受けていた。
 しかも、中には、何度アタックしても自分にちっともなびかなかった女性士官の姿があったものだから、そのショックは相当なものだった。


 「全く何だって言うんだ~!!漢字の時と言い、オッサンの周りに美女が群がるなんざ、俺は絶対に認めない!!許せないぞぉ!!!」


 自分のしでかした事を棚に上げ、相当悔しそうなポプランであった・・・。
 



THE END



 100のお題で「鼻緒」と言うタイトルを見た時は、こんなお題で「銀河英雄伝説」の話が書けるのだろうか・・・と、ホンキで悩みました。


 「鼻緒」と言ったら、草履とか下駄、雪駄、ぽっくり、そしてハイカラ(?)なところでビーチサンダル・・・。
 そこで、ここはひとつムライさんに頑張ってもらって・・・で生まれた話。

 因みに、漢字の時というのは『暗号事件』です。(暗号事件は100のお題ではありません・・・一応、年の為)


 それにしても、ムライさん・・・いいかも!!
 是非、青野さんのお声で楽しんで頂けたら・・・と思います。
 勿論、ポプランは古川さんで、ユリアンは佐々木さんで★


 私の設定では、ムライさんには他にも日本的な趣味があったりします。
 更に細かい設定では、お名前はイサオとしてみました。(暗号事件で・・・)
 村井勲男です。(漢字で書くと・・・何だか凄くダサイけど・・・)
 お父さんは村井勝利(マサトシ)とかだったら面白いかも・・・。
 100のお題って、書くには難しい物もありますが、色々考えられるから楽しいです・・・殆どがくだらない物ですが・・・。


 ビーチサンダルの事を調べていたら、この履物は日本生まれだそうです。
 最近では、亜熱帯の国々で、このビーチサンダルは大活躍だそうで、手軽だし、安価なので、最近の若い人の中には、夏の浴衣の時にも、草履や下駄の代わり
にビーチサンダルを履くとか・・・。
 調べていて面白いな・・・と思ったのは、『ビーチサンダル』は和製英語で、英語では、「Flip-flops」と言うのだそうで、歩く時の『パタパタ』した音が語源に
なっているのだとか。
 英語では他にも「Thongs」と呼ばれていて、こちらは『鼻緒』という意味になるそうです。
 なので、ポプランが下駄を「ビーチサンダル」と間違えたのも何となく分かる気がします。
 そして、スペイン語やギリシア語では、何故かビーチアンダルの事を『サヨナラ』と言うのだそうで、意味はサッパリ分かりませんが、日本語から来ていると
言うのだけは分かります。
 うーん・・・何故『サヨナラ』なんだろう・・・謎です。
 なお、下駄の生産で国内の六割の生産を占めているのは、広島県福山市なのだとか。
 失礼ながら私は全く知らなかったので、父に聞いたところ、「あ~そうだよ」とあっさり返されてしまいました・・・。
 ↑
 うちの両親は広島の呉市の出身なんです。(呉市・・・と言っても瀬戸内の島なんですけどね)


 それにしても、今、心配なのは青野武さんのご病状の方です。
 がんの治療で入院。
 しかも、脳梗塞まで見つかる。
 それで、「ちびまる子ちゃん」の友蔵じいさんの役を降板されて、昨日見たらば、島田敏さんに代わっていました。
 島田さんも好きな声優のお1人ではありますが、違和感が拭えない。
 まぁ、富山さんから青野さんになった時も一瞬、違和感がありましたので、時間が解決してくれるでしょう・・・きっと。


 あぁ、青野さんが全快される事を心から願っております。


             







 早いもので、もう7月・・・今年も半ばが過ぎた。


 銀河英雄伝説の舞台のチケット発売も7月。


 ただでさえ、聖飢魔Ⅱのミサの為に金欠になりそうなのに、さらに自分を追い込んでいる気がするわぁ・・・。

 でも、心地良い気分でもあるんだけど。


 さて、ここで告知。

 ブログへコメントを頂けた方に、ささやかなプレゼントを贈らせて頂きます♪

 次回更新の時に、コメント下さった方へ・・・何が届くかはお楽しみに。(しょぼいけど・・・^^;)

 ロムっているだけの方も、この機会に何か書いてやって下さいませ。


 

 現在UP中なのは、「ガムテープ(ケンプ一家編)」の改訂版です。

 改訂前のモノと読み比べるのもまた一興。

 本当は前のを削除してもいいのだけど、削除前のモノを残す事によって、「推敲」の意味が分かる・・・ような。


 さて、次にUP予定の作品を紹介しますね。



 まず、同盟から4本。


 ムライ主演で、100のお題より、「鼻緒」です。


 それから、100のお題より、士官学校の時代のフレデリカ、「肩越し」です。


 もう1本は、12~13歳のボリス・コーネフとヤンで、「The World」です。

 この作品は、舞台がフェザーン。

 原作に出て来た、ヤンとボリスが幼なじみ・・・ここからヒントを得て書いた作品で、これも100のお題です。


 最後に、士官学校を卒業してヤンが少尉になってから、エル・ファシルの英雄になった直後までの話

 100のお題より、「通勤電車」です。


 それから、帝国の話が4本。

 

 100のお題より、ワーレンで「欠けた左手」です。

 タイトル見た瞬間にワーレンか、コンラート・リンザーしかいない!!と思いましたが、とりあえず、ワーレンで。


 お次は、原作終了後の世界ですが、メックリンガーで「鬼ごっこ」です。

 こちらも、100のお題からの作品です。

 ハッキリ言ってお笑いです。


 それから、100のお題ではありませんが、エルンスト・フォン・アイゼナッハのコメディ作品で、「アイゼナッハ氏の優雅なティータイム」です。

 アイゼナッハとミッターマイヤーが出てきます。

 そして、アイゼナッハの家族も登場します。

 ただし、こちらも原作終了後の世界なので、その点だけ、ご了承下さいませ。


 最後に、アムリッツァ会戦時にヤン提督率いる第13艦隊と、まともにぶつかったケンプ艦隊の話

 因みに主人公は、テオドール・フォン・リュッケ少尉です^^@

 タイトルは、「Der Rat<進言>」です。

 これも100のお題ではありません・・・★

 ケンプ艦隊時代のリュッケの話を数本書いていて、その中の1つだったりします。



 7月の後半に舞台のチケットが発売になるのですが、それまでに全キャストを発表してほしいなぁ。


 誰が出るか分からない状況でチケットを売るのだけはやめてほしい・・・これは、かなりリスキー。


 メルカッツとかは渋い感じの大物舞台俳優だといいのだけど。

 今、一瞬、津嘉山正種さんとかどうかなぁ・・・とか考えてしまった私。

 シブくて好きな俳優さんですが、声優もやっておられる。

 アニメの銀河英雄伝説では、セリフがたった1つしかなかったから、舞台でいっぱい喋らせてあげたい。

 ↑

 さて、この人は誰だったでしょう?

 ヒント:セリフは「しまった」・・・これだけでした・・・ww




 




 「グスタフ・イザーク・・・ちょっと来てちょうだい・・・」



 何だか母さん<ムッター>の声が弱々しい。
 僕は読んでいた本を閉じて、慌てて母さん<ムッター>の元に行った。
 「ねえ、母さん<ムッター>・・・大丈夫?」
 ここ最近、母さん<ムッター>の顔色は悪い。
 これで、母さん<ムッター>までどうにかなってしまったら、本当にどうしたらいいんだろう・・・?
 僕は、それだけが心配だった。


 先だって、カール・グスタフ・ケンプ上級大将・・・僕の父さん<ファーター>の葬儀が軍葬で行われたばかり。
 葬儀当日は、気を張っていた為か、気丈に振舞っていた母さん<ムッター>だったけど、本当は具合はあまり良くない。
 母さ<ムッター>の具合が悪くなったのは、メックリンガー大将が父さん<ファーター>の訃報を伝えに来てからだ。
 明るくて優しい母さん<ムッター>だったのに、全く笑わないし、家から一歩も出ようとしないのだ。
 そして、今にも泣きそうな悲しそうな顔で、ぼんやりと家族写真を見ては溜め息ばかり付いていた・・・。


 「もう・・・ここをね、出て行かないといけないのよ」

 悲しそうな母さん<ムッター>の声。
 「ここって、このうちの事?」
 僕は思わず室内を見渡す。
 「そうよ・・・ここは官舎だから。これからも遺族年金とか色々と出るのだけれど、ここにはとどまれないの、分かるでしょ?」
 「う・・・ん」
 僕は曖昧に頷いた。
 「あのね、ほら、ここはご近所も皆、軍人の家庭でしょ?お前達の父さん<ファーター>は昇進したからいいのだけど、この戦争で、戦死した人・・・本当に多いのよ。だからね、母さん<ムッター>の田舎に皆で行って、あそこで暮らした方がいいわ。・・・お祖母ちゃんもいるし・・・ね?」
 母<ムッター>さんは弱々しく微笑んだ。
 「母さん<ムッター>・・・僕は母さん<ムッター>がそうしたいならいいよ。そうなると、学校は・・・転校するんだね?」
 「・・・そうね。あなた達には転校してもらわないといけないわね。だから、お友達とさようならしなくちゃね・・・ごめんなさいね」
 「・・・友達と別れるのはさびしいけど、仕方がないよ。それに、僕もお祖母ちゃんの家なら行きたいし」
 僕は泣きそうになっている母さん<ムッター>のそばに行って、手をギュッと握り締めた。
 そうでもしなければ、今にも母さん<ムッター>は倒れてしまいそうに見えたから。
 「あぁ、グスタフ・イザーク・・・。お前の手は温かいわね・・・」
 母さん<ムッター>は僅かに微笑んでくれたけれど、肩が微かに震えていた。


 「それでね、お願いがあるの」
 「・・・何?」
 「引越し用のガムテープ買って来てほしいの。大きな家具は・・・元々、ここの備え付けだったのだけど、洋服や食器とか、処分しないで持って行く物も沢山あるから・・・。ダンボールはね、今日の午後に業者が持って来てくれるのだけど、ガムテープは無いんですって。だから・・・ね」
 「うん。じゃぁ、お店まで買いに行って来るよ。どのぐらい買えばいいのかな」
 「そうね・・・取りあえず20個買って来てちょうだい」
 「分かった。行って来るよ」
 「お願いね」


 母さん<ムッター>が僕にお金を渡し、ちょうど出かけようとした時に、公園に遊びに行っていたカール・フランツが泥だらけになって帰って来た。
 しかも、頬には涙の痕が一筋・・・僕は不安を覚えて、弟を別室に呼んだ。
 
 「カール・フランツ。凄い泥だらけじゃないか・・・いったい、何があったんだ??」
 「何でも・・・ない」
 カール・フランツは俯いている。
 よく見たら、膝小僧が擦りむけて血が滲んでいた。
 「何でもない訳ないだろう?膝だって怪我をしているじゃないか。それに、それ・・・涙の痕だろう?」
 「お兄ちゃん・・・僕・・・転んだんだ・・・」
 消え入りそうに小さな声。
 カール・フランツは転んで怪我なんかをしてもすぐに泣く子じゃない。
 それに、怪我をした日は帰って早々に母さん<ムッター>の所に行って、「痛いの、痛いの、飛んでいけ~」って言ってもらうのだ。
 けれど、今日のカール・フランツは様子がおかしい。
 帰って早々に、母<ムッター>の所へ行く気配がないから。
 だから僕は、カール・フランツが転んだのではない事に気が付いたのだ・・・。


 「カール・フランツ。転んだだけでこんなに泥だらけになる事はないだろう?いいかい。お兄ちゃんにはちゃんと正直に話して・・・ね?怒ったりしないから。それに、カール・フランツは強い子だろ?」
 「お・・・お兄ちゃん・・・」
 僕の声に安心したのか、カール・フランツは僕にしがみついて来た・・・そして、声を上げて泣き始めた。
 遊びに行った公園で何があったんだ?
 僕の心あった不安の種が大きく芽吹いように感じた。


 「僕・・・いつものように、ユリウスと遊ぶ約束してたの。それで一緒に遊んでいたら・・・パウルとマクシミリアンが来て・・・ユリウスに、『これからは、カール・フランツと遊んだら僕達の仲間には入れてやらないぞ』って言ったの」
 僕は、カール・フランツと仲の良い、その子達の顔を知っている。
 そして、その子達の父さん<ファーター>が、父さん<ファーター>の艦隊にいる事も。
 「それでね・・・パウルがね、僕に『お前の父さん<ファーター>は人殺しなんだぞ!』って・・・。マクシミリアンも、『僕の父<ファーター>が死んだのは、お前の父さん<ファーター>のせいだ!父さん<ファーター>を返せ!』って・・・うう・・・」
 「人殺し・・・って、そんな事を言われたのか・・・」
 僕は悲しくなるのと同時に、カール・フランツが可哀相で仕方がなかった。
 「そしてね・・・パウルがユリウスに何か言ってて、何を言っているのかな・・・って思ったら、急に泥団子を作って3人で僕にぶつけてきたの・・・。公園にいた他の子も一緒になって僕を追いかけて来たんだ。僕・・・逃げようと思って走ったら転んじゃって。そうしたら、『こいつ、転んだぞ!もっと泥をぶつけるんだ!』って・・・。お兄ちゃん、僕・・・悪い事は何もしてないのに何でなのかな?僕・・・分からないんだよ、みんなに意地悪されるのが。それに、父さんは<ファーター>は立派な軍人だよね?人殺し・・・じゃないよね?僕・・・僕・・・うわぁ~ん・・・」
 矢継ぎ早にそう言って、カール・フランツは堰を切ったように泣き始めた。
 きっと、パウルとユリウス、マクシミリアンって子の父親も・・・僕達の父さん<ファーター>と同じ戦地で戦死したのだと悟った。


 カール・フランツはすぐには泣きやみそうになかった。
 このままだと、泣き声に感づいた母さん<ムッター>に知られそうで、僕はカール・フランツに「ねえ、母さん<ムッター>に頼まれた買い物があるんだけど、一緒に行こうよ」と切り出した。
 「お兄ちゃんと一緒に?じゃぁ、行く・・・」
 カール・フランツは僕の顔を見て、しゃくり上げながらも涙を手で拭いて、やっと笑ってくれた。
 「じゃぁ、すぐに洋服を着替えておいで。いいか、母さん<ムッター>はちょっと具合が良くないんだから、自分で着替えるんだぞ。そして、汚れた服は、洗濯機に入れるんだ、いいね?」
 「うん、分かった・・・」
 カール・フランツは大きく頷いた。
 「僕・・・これから絆創膏を持って来るから、消毒して・・・それを貼ったら買い物に行こうね」
 「うん。じゃぁ、服を洗濯機に入れてくるね」
 カール・フランツは漸く笑顔を見せた。


 僕等は連れ立って近くにある雑貨店に行った。
 その途中で、「ほら・・・あの子達、この間の戦争で・・・」とか、「軍葬だなんて凄いわよね・・・うちの主人の弟なんか、2階級特進しても中佐止まりだもの・・・」とか、ひそひそ話す声がする。
 中にはあからさまに大声でこんな事を言う人がいた。


 「うちの人はあの子達の父親の部下だったし、それに、うちの息子は上の子と同級生だったのよ。だから本当に気をつかったわ。うちの主人の葬儀も軍装にしてくれたら良かったのに。本当に、尉官なんて損なだけよね」


 母さん<ムッター>がここのところ家から出ようとしないのは、こういう悪口のせいに違いない。
 聞こえない所で言うんじゃなくて、わざと聞こえるように言うんだもの。
 そして、自分達の子供に、家族が戦死した上に戦争に負けたのは、僕らの父さん<ファーター>のせいだって言っているんだろう・・・。
 だから・・・カール・フランツは、今まで仲良かった友達に泥団子をぶつけられたんだ。


 こういう事が起きるって分かってたから、母さん<ムッター>はお祖母ちゃんのいる田舎に行こうと思っているんだな・・・と、子供の僕でも理解した。 
 それに、カール・フランツには言えなかったけれど、僕の友達の中にも、父さん<ファーター>が亡くなってから、急によそよしくなった子や、急に意地悪を言うようになったり、反対に全く口をきかなくなった子が増えたのだ。
 先生達ですら、冷たくなって・・・何故?って思っていたけど・・・。


 そして、僕はやっと分かったんだ。
 今まで、先生が優しくて、僕を特別扱いしてくれたりしてたのも・・・。
 友達達が僕と仲良くしてくれていたのも・・・。
 それは、僕の父さん<ファーター>が、銀河帝国軍の大将だったからなんだ・・・という事に。
 カール・フランツはまだ小さいから分かってないんだろうけど、戦争に負けるという事は、人から非難されるのに耐えなきゃいけないって事なんだ・・・。
 
 「お兄ちゃん・・・どうしたの?怖い顔してる・・・」
 カール・フランツに言われて、僕は慌てて表情を和らげた。
 「そんな事ないよ。ほら、笑っているだろう?」
 「うん。ねぇ、僕も、それ持ちたいな」
 「・・・じゃぁ、2個持つか?」
 「うん!!」 
 僕はビニール袋に入っていたガムテープ20個のうち、2個はをカールフランツに手渡した。


 父さん<ファーター>が戦死したのだから・・・この家での年長の男子は自分しかいないんだ・・・。
 これからは、もっと母さん<ムッター>の手伝いをやって、カール・フランツの面倒を見て、父さん<ファーター>がいない分・・・僕がしっかりしないと。
 ガムテープの入った、ちょっと重いビニール袋をよっこらせ・・・と、抱え直す。


 「ねぇ、カール・フランツ・・・今度ね、お引越しするんだよ」
 「え~お引越しするの??どこに行くの??」
 「えっとね・・・もうちょっとしたら、お祖母ちゃんの所に行ってね、一緒に住む事になるんだって・・・」
 「え~本当に?」
 「うん・・・。だから早く帰って、母さん<ムッター>がお引越しの準備するのを一緒にお手伝いしような。僕らが、父さん<ファーター>の代わりをするんだよ。だって、僕達は男の子だもん」
 「うん。そうだね。僕ね・・・一生懸命に母さん<ムッター>のお手伝いをするよ。僕・・・男の子だもん!!」


 カール・フランツの屈託の無い笑顔に、僕は苦笑するしかなかった。
 そして、僕は家族を守っていこうと誓った。


 そう・・・これからは、勉強も、家の事も、もっともっと頑張って母さん<ムッター>を助けてあげなきゃ・・・。
 僕は、ヴァルハラへ旅立って行った父さん<ファータ->のように強くなりたいと思った・・・。




Das Ende





 100のお題として、「ガムテープ(ケンプ一家編)として書いた作品の改訂版です。


 改訂版・・・実は、最初に書いていたのは、こちらの方なんですが、弟のイジメは、グスタフ・イザークにはつらすぎるかも・・・って、その部分を変えてUPしたのです。


 だけど、よくよく考えてみたら、それはいけないかもしれない・・・と思い始め、カール・フランツのイジメ部分が入ったこちらもUPする事にしました。

 まぁ、改稿前と改稿後の作品を読むと、違いが分かるし、ホント、読み比べると面白いかも。


 よく、作家や漫画家さんが、過去の作品を見て「恥ずかしい」とか「もっと書けたのでは・・・」とインタビューとかで言っているのを見て、「え、そうなの?」って思っていた私ですが、自分で書いてみて分かりました。
 書いても書いてもキリがない。
 書き直したくなるんですよ。
 そして、もっと良く書けるんじゃ??って思うんです。


 カール・フランツは、今は自分が苛められたのが分からないだろうけど、グスタフ・イザークがいれば大丈夫かな・・・って。


 前回の作品のコメントにもありましたが、この話は同盟軍にも置き換えられます。

 たとえば、ウランフ提督の家族とかも、そんな感じじゃないのかな??。
 
 考えたらキリがないので、ここで筆を置きますが、この一家に希望の光がありますように・・・と、祈りたくなります。