変ったカタチのビーチサンダルを見つけたと言って、スパルタニアンの格納庫に隣接する詰め所で、皆に見せて大騒ぎを巻き起こしてのはポプランだった。


 ・・・と言っても、このビーチサンダルは、格納庫で見つけたのではない。
 司令部に近い休憩室のパイプ椅子の上に、紙袋に入れられて置いてあったらしいのを勝手に持って来ていたのである。


 「それ・・・捨ててあったんじゃなくて、ただ椅子の上に置いてあった物なんですよね?不味いですよ。もしかしたら・・・持ち主が探しているのではありませんか?」


 木製のビーチサンダルなんか見た事がない。
 それに、ビーチサンダルと比べて、履き心地が良さそうにも見えなかったし、何となく不思議な履物だった。
 「な?面白いだろう?」
 ポプランから見せられて、困惑気味の表情を浮かべるユリアン。


 「それ・・・本当にビーチサンダルなんですか?ちょっと違うように見えますけど・・・」
 「そっかなぁ?俺は絶対にビーチサンダルだと思うね。木製のビーチサンダルなんて・・・かなり珍しいシロモノだぞ。それに、これ。台は分厚いし、重いし、し
かも、サンダルの底が、これまた変わってるんだよな~」
 ポプランは全然取り会ってくれなかった。


 ビーチサンダルの台は一般的にはゴム製だ。
 鼻緒に使われている素材も、柔らかめのプラスチックやビニール製で、主に海やプール等で履く事が多い。
 最近では、はだしが健康にいいとか雑誌や立体テレビ<ソリヴィジョン>の番組などでも取り上げられていた。
 その為、ハイネセンでは夏場、普通のサンダルと同じように、ビーチサンダルを街中で履く人が増えてはいた。
 はだし教育の一貫として、保育園や学校で指定の履物として取り入れている所もあるが、ただし、木製の物は見た事が無かった。


 「ところで。それ・・・いつ、見つけられたんですか?」
 「うん?1時間ほど前だったかな。・・・それよか、ほら、こいつを見ろよ。裏にこ~んな出っ張りが2つも付いているんだ。このでっぱりも木で出来ているんだ
。ちょっと履いてみたんだが、これが安定感がなくって歩きにくいのなんのって。バランス感覚を養うタイプのビーチサンダルだと俺は見たね。・・・本当に珍しいよな、これ」
 そう言いながら、ポプランは他の隊員達に見せては、その反応を楽しんでいる。


 「・・・人のを勝手に履いていいんですか?一歩間違うと、“泥棒”になりかねないん

ですけど・・・」
 ユリアンの問いかけに、「ま、大丈夫だって。・・・わざと盗んだ訳じゃないんだし。ちょっと借りただけだからさ」と、全く取り合おうとしないポプランであっ
た。


 (確かに、履物としては珍しい部類に入るんだろうけど・・・あれ、本当にビーチサンダルなのかなぁ??)


 ユリアンがまた何か言いかけた時、格納庫に入ってきたカリンが、前髪をゆっくりとかき上げながら、ユリアンのそばにやって来た。
 「ねえ、司令部でちょっとした騒ぎがあったみたいよ・・・」
 「え、騒ぎって??」
 「良く分からないんだけど、さっきフレデリカさんと出会ったら、ムライ中将が私物を盗まれたとか何とかで・・・」
 それを聞いた途端に、ユリアンの顔色が無くなった。


 「ポプラン中佐・・・。それ、何処で見つけたんでしたっけ?」
 「あ~・・・司令部近くの休憩室だけど?」
 「あの、それ・・・もしかしたら、ムライ中将の物かもしれませんよ!」
 ユリアンが慌てて駆け寄ると、ポプランは苦虫を潰したような表情になって肩を竦める。

 「うえ~・・・あのオッサンの物~!?」

 「司令部で、ムライ中将の私物が盗まれたって騒ぎになっているそうですよ。ほら、早く返しに行かないと・・・!」
 「しゃあないなぁ・・・一応、他意はないからって謝って来ようっと・・・」
 ポプランは、反省をしているのかしていないのか・・・ニヤリと笑うと、黒くて太い鼻緒を勢い良く掴んで格納庫から飛び出した。


 「・・・ねぇ?あれ、何ていう履物なの??」
 「さぁ?」
 カリンに声をかけらたユリアンは、首を横に振った。
 「中佐はビーチサンダルだって言っているけど、多分・・・違うと思うよ、何となくだけれど」



 司令部に顔を出したポプランは、少々疲れた顔のムライ中将の目の前に、持って来た物を差し出した。


 「あ!それを持っていたのは貴官だったのか!あぁ・・・おい、鼻緒をそんな風に扱うな・・・」
 
 いつもは、どちらかと言えば物静かなムライがポプランに詰め寄る。
 高価な正絹製の鼻緒の為、鼻緒を持ってクルクルと乱暴に扱っていたポプランに腹が立ったらしい。


 「貴官は何か勘違いしているようだが、これはビーチサンデルではない。下駄と言って、天然木を使った、専門の職人の手による一つ一つ手作りの一品なのだ。・・・

簡単に量産出来るビーチサンダルとは全く異なる物だ。この鼻緒とて、天然物の最高級の正絹製なのだ・・・。それをそんな風にクルクルと手荒く扱われては・・・」
 
 「・・・すみません」

 一応、殊勝に謝るポプラン。
 ムライ相手では下手な言い訳などしない方がいいので、「すみません」とだけ言って、とりあえず、神妙な面持ちで、深々と頭を下げる事にする。


 「・・・まぁ、休憩室に置きっ放しにした私にも多少の責任はあるが、だからと言って、勝手に持ち出すのは人の道に外れる恥ずべき行為であって、泥棒扱いされ

ても仕方がないぞ。人の迷惑と言うのを貴官は学ぶべきで・・・」


 ムライはポプランに、ネチネチ・・・グチグチグチグチ・・・と、いつもの数倍の嫌味を言う。
 だが、注意するよりも前に、神妙な態度で素直に謝られたので、さすがのムライも調子が狂ったようだ。 
 それに、どうせ何か言われるだろうと思っていたポプランは、心の回路と耳の回路をオンにして、右から左へと聞き流し、さっさと忘れる努力をしていた・・・。
 本当に『歩く小言』だよな・・・と思いながら。  
 尤も、嫌な事を素早く忘れる事は、キラキラ星の高等生命体にはいとも簡単な技ではあったが・・・。


 ポプランはヤンに、「これからは、勝手に持っていかないようにね」と、肩をポンポンと叩かれた。
 「全く呆れた奴だな・・・」とシェーンコップにも鼻で笑われ、アッテンボローには、「・・・ったく。こういう時にこそ、『それがどうした!』って言えばカッコ
イイのになぁ・・・」と爆笑されてしまった。

 でも、ポプランには元々悪気はなかったし、ムライにしてもそれ以上をとやかく言う気はないようだったので、その件はそれで終わるかに見えた。


 しかし、暫くの間・・・。


 『ムライの下駄』の物珍しさに皆が見に集まり、妙齢の女性士官達がムライのそばにいるのを発見したポプランは、かなりショックを受けていた。
 しかも、中には、何度アタックしても自分にちっともなびかなかった女性士官の姿があったものだから、そのショックは相当なものだった。


 「全く何だって言うんだ~!!漢字の時と言い、オッサンの周りに美女が群がるなんざ、俺は絶対に認めない!!許せないぞぉ!!!」


 自分のしでかした事を棚に上げ、相当悔しそうなポプランであった・・・。
 



THE END



 100のお題で「鼻緒」と言うタイトルを見た時は、こんなお題で「銀河英雄伝説」の話が書けるのだろうか・・・と、ホンキで悩みました。


 「鼻緒」と言ったら、草履とか下駄、雪駄、ぽっくり、そしてハイカラ(?)なところでビーチサンダル・・・。
 そこで、ここはひとつムライさんに頑張ってもらって・・・で生まれた話。

 因みに、漢字の時というのは『暗号事件』です。(暗号事件は100のお題ではありません・・・一応、年の為)


 それにしても、ムライさん・・・いいかも!!
 是非、青野さんのお声で楽しんで頂けたら・・・と思います。
 勿論、ポプランは古川さんで、ユリアンは佐々木さんで★


 私の設定では、ムライさんには他にも日本的な趣味があったりします。
 更に細かい設定では、お名前はイサオとしてみました。(暗号事件で・・・)
 村井勲男です。(漢字で書くと・・・何だか凄くダサイけど・・・)
 お父さんは村井勝利(マサトシ)とかだったら面白いかも・・・。
 100のお題って、書くには難しい物もありますが、色々考えられるから楽しいです・・・殆どがくだらない物ですが・・・。


 ビーチサンダルの事を調べていたら、この履物は日本生まれだそうです。
 最近では、亜熱帯の国々で、このビーチサンダルは大活躍だそうで、手軽だし、安価なので、最近の若い人の中には、夏の浴衣の時にも、草履や下駄の代わり
にビーチサンダルを履くとか・・・。
 調べていて面白いな・・・と思ったのは、『ビーチサンダル』は和製英語で、英語では、「Flip-flops」と言うのだそうで、歩く時の『パタパタ』した音が語源に
なっているのだとか。
 英語では他にも「Thongs」と呼ばれていて、こちらは『鼻緒』という意味になるそうです。
 なので、ポプランが下駄を「ビーチサンダル」と間違えたのも何となく分かる気がします。
 そして、スペイン語やギリシア語では、何故かビーチアンダルの事を『サヨナラ』と言うのだそうで、意味はサッパリ分かりませんが、日本語から来ていると
言うのだけは分かります。
 うーん・・・何故『サヨナラ』なんだろう・・・謎です。
 なお、下駄の生産で国内の六割の生産を占めているのは、広島県福山市なのだとか。
 失礼ながら私は全く知らなかったので、父に聞いたところ、「あ~そうだよ」とあっさり返されてしまいました・・・。
 ↑
 うちの両親は広島の呉市の出身なんです。(呉市・・・と言っても瀬戸内の島なんですけどね)


 それにしても、今、心配なのは青野武さんのご病状の方です。
 がんの治療で入院。
 しかも、脳梗塞まで見つかる。
 それで、「ちびまる子ちゃん」の友蔵じいさんの役を降板されて、昨日見たらば、島田敏さんに代わっていました。
 島田さんも好きな声優のお1人ではありますが、違和感が拭えない。
 まぁ、富山さんから青野さんになった時も一瞬、違和感がありましたので、時間が解決してくれるでしょう・・・きっと。


 あぁ、青野さんが全快される事を心から願っております。