老々介護の一人親方の板金屋さん | 長男は自閉症・オヤジの日記、音楽好きでバンドもやりました

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自閉症の長男との暮らし、その思いや日常の出来事を日記として書いてます。

 

♪You Raise Me Up  励まされる歌

 

 

 亡き母と古いお付き合いの板金屋の親方が体調を崩し入院し退院すると、奥さんが頑張り過ぎたのか今度は奥さんが脳梗塞で倒れ退院後は車椅子。親方さんの老々介護の生活が始まった。

 

 それまではゼネコンの下請け仕事で生計を立てていたが奥さんの介護で職場を離れることが多くなり、下請けからはずされた。一人親方は仕事を切られても、どこからの支援も補償もなくシルバー人材センターに登録して仕事を待つしかなかった。

 

 

 親方さんは親の代からお世話になっていたので、網戸交換などの仕事を見つけてはお願いをしていた。先日も大雨で軒下への配水管から雨水が漏れるので修理を依頼すると、バタバタバタと音のするバイクで、すぐに来てくれた。

 

 様子を見るなり「接着剤がはがれただけだよ、オレが修理するほどの仕事でもねえなあ」と言われた。欲のない人で、職人としてのプライドもある。

 

「では補強をお願いします」と頭を下げた私の気持ちを見透かしたのか「はいよ、あんたには負けたよ」と私を睨(にら)んで苦笑いをして引き受けてくれた。

 

 以前なら目を三角にして「そんなことぐれい、おめえ自分でやれ」と叱られたものだが、今回はそうでなかったことが、なぜか寂しかった。そしてビスを2本打っただけの「修理」が終わったので、茶菓子を用意した部屋に上がってもらった。

 

 修理代として茶封筒を差し出すと「仕事なんか、してねえから、いらねえよ」と返された。私は「気持ちだから」と押し返すと、少し間をおいて「悪いね」と言って受け取ってくれた。

 

 そこに妻が「作り置きだけど、奥さんの好物だから」と容器に詰めた「お煮しめ」を差し出すと「はい」と神妙にうなずいた。今まで家事なんか絶対にしない人なのに洗濯までしている。奥さんの介護にも懸命だ。頭が下がる。

 

 

庭のアジサイ。もうこんな季節なんですね。

 

 

 親方は我が家に来る度に私にお説教をするのがお約束で、あの人はそんなものだと思っていたので私は平気だった。むしろ有難いと思って聞いていた。それだけに「おめえは、なあ」と言い放っていた親方さんが、おとなしくなって寂しくなった。

 

 私を本気で叱ったり説教をしてくれる人がいなくなったようで、そのことが寂しかった。

 

 帰宅はバイクで、体が少しふらついたので「家まで送っていくよ」と言うと「大丈夫だよ、バカやろう」と威勢がいいので安心した。私は「年寄りは無理すんじゃないよ」と言い返すと「わかったよ、だけど、お前、う・る・さ・い・の!」と笑いながら、そろり、バイクを出した。

 

 私はバイクが見えなくなるまで見送りながら、後ろ姿の背中が小さくなったようで切なくなった。傍で妻が「今度は物置の屋根、お願いしなくては」と、つぶやいた。私もそう思った。

 

 

 

 老々介護が日々の生活になった親方さんだが、これを他人事とは思わず、お互い様、明日は我が身、できることは今のうちにと思った。でも、何を、どこから手を付けたらいいのか・・・

 

 妻も私も自閉症の息子も、家族そろって病院通いをしているが、介護のお世話になることなく、金銭面以外は特に不自由することもなく、当たり前のように普通に生活ができている。

 

 そんな当たり前に生活ができることが何よりも幸せだと思った。そして少しでも長くこの幸せが続くようにと心から願った。

 

 

♪My Heatr Will Go On

 

 

♪幸せな結末