実験と耳(バレエ伴奏のリズムについて) | ウサギ舎のブログ~バレエピアニストの日々~

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ウサギ舎です。バレエピアニストなんて仕事してます。作曲家です。たまに舞台で踊ってます。ウサギ舎バレエ伴奏ピアノ研究所主宰。まあ、見てやってくんなまし。 

福島からアマチュアピアニストのOさんが遊びにきたので、実験をば。
ちなみに彼はバレエのピアノは弾いた事ないし、弾く気もない人です(←今のところはね・笑)



ショパンのノクターン9-2を
「ここからここまで、止まらないで弾いてね」
と云ってOさんに弾いてもらい、それに合わせて、あたしはバーについてプレパレーションからロンドジャンブアテールを…

ところが16いかないうちにOさんは
「あああああっ!!」と叫んで弾くのをやめてしまった。
何故か???


実は、彼Oさんは、もとクラシックバレエのダンサー。
バレエを引退してから、ピアノを弾き始めたという経歴の人です。

つまり、ダンサーとしての彼はロンドジャンブアテールのリズムと呼吸を感じ、
ソロピアニストとしての彼はピアノ曲「ショパン・ノクターン9-2」のリズムと呼吸を奏で、
2つが全く別の呼吸だという事を知っている彼故に、
一緒くたになってしまったときに、あまりの違和感と混乱で弾けなくなってしまった…というわけ。
Oさん、実験に利用してごめんね。


これが、バレエ伴奏経験のないソロピアニストだったら、逆に混乱も違和感も無いんだ。バレエ独特のリズムを知らないため、そのピアニストにとってダンサーは「単に自分の弾くショパンにあわせて足をぐるぐる回してる人」ということになっちゃう。

ちなみにソロ仕様のノクターンはダンサーにとっては「とても踊りにくいけど、エクササイズが出来ないわけじゃない、だけどやっぱりやりにくい」、という感じかなあ(弾き方にもよるけど)。

ことほど斯様に、バレエの弾き方とソロの弾き方はちがうよね、という話。


ところで、ここでオソロシイのは、前者の「バレエ伴奏経験のないソロピアニスト」は、その違和感に気づくことができないことが多い、ということ。
新人さんで、ソロ出身でバレエ伴奏修行中、みたいな方が結構つまづくとこじゃないかなあ。
ダンサーからクレームがきても、何故、どこに違和感があるのかわからない。わからないから直せない。ダンサーやバレエ教師も言葉ではうまく説明できなくてお互いドツボに…みたいなね。




ちょっと似てる話。
弊舎主催「バレエピアニストの仕事・見学会」にて。
その日の見学者は「バレエ伴奏どころかバレエを見た事すらない」アマチュアピアニストのAさん。
Aさんは、クラスが始まったとき、そのクラス用の曲のアクセントや呼吸にすごい違和感を覚えたそうです。
ですが、バーが終わりセンターになり、最後のグランワルツでは、その違和感は全く消えてなくなっていたそう。
「ずっと見てたら、終わるころにはこっち(バレエのアクセント)が普通なんだって思ってました」
とのこと。
このバレエのリズムと呼吸ってさ、音楽だけを聴いて、しかもピアノソロの原曲とくらべたら絶対ヘンだよね。
だけど動きと一緒になると、そこには必然性があり、「違う音楽」が誕生する。
「不思議~」
とAさんは云ってました。
とても良い目と耳を持ってる人でした。


だいぶ前の記事だけど↓。
ソロ出身の悩める貴方へ